乙女ゲームの世界でとある恋をしたのでイケメン全員落としてみせます

「あの子たちは何も知らない。だから私はあの子たちに規則として『異形に対してなるべくなら追い払うのみにするように』と伝えている。理由は一匹消せば他が一気に襲ってくるとか適当な事をつけてね。異形に恨みを持つ子は多いからそれを守ることも並ではないと思うのだけど、まだ誰も異形と共に消滅した子はいないね」

「そ、そんなの…今すぐ伝えて異形と戦うのやめさせた方がいいじゃないですか!」


このままだとサダネさん達が消えてしまうかもしれないんですよ!と訴えると時成さんは小さく首を傾げて見せた


「私の役目は歪みを直すことだからね。サダネ達が犠牲になることは仕方ないことだったんだよ」
「そんな!」
「由羅、落ち着いて話をちゃんと聞きなさい。私は“犠牲になる”ではなく“犠牲になるはずだった” と言っただろう。トキノワの子達を由羅のおかげで救うことができるかもしれないんだよ」
「え?」

「由羅の中の光はそれができるほどに強いものだからね。それがあの子たちの中にある異形の塊と共鳴さえできれば異形の塊を打ち消すことができるかもしれない。だから君の中の光はこの世界の歪みとの共鳴を求めているのだと思う」

「そ、そうすれば異形を消してもサダネさん達は消滅しないんですか?」
「そうだね。由羅にしては理解してくれているようで良かったよ」


なにか物言いに棘を感じるけどこの際それはいいとして、これでこの世界の歪みに対しては解決したも同然なわけで


「で?どうやって共鳴するんですか?」


そもそも共鳴とは?と不思議に思っていれば時成さんは「そうだね」と再び考えこんだ


「…共鳴の説明の前に由羅の歪みについても話しておこうか」
「…!」

ドキリとする。もしかして共鳴を終えて用が済めば即存在を消滅させますとか言わないだろうか…いやこの人なら言いそうだと私はゴクリと固唾を飲み込んで時成さんの言葉を待った


「先にも述べた通り君の中の光は強く、多少の共鳴では壊れたりしないけど、何度も共鳴すればいずれ光は壊れるかもしれないし、光が壊れれば由羅は普通の人間、つまり歪みではなくなるかもしれない…」

「…え!?つまり私も消滅しなくてもいいってことですか?」

「うん。おそらくね。由羅という歪みが発生した原因はきっと光のせいで、もっと詳述するとーー私が光をなくしたせいだからねーー」

「え・・・?」


時成さんの言葉に思考が停止する。
つまり…?え?私が今現在、異世界でこんなことになってしまっているそもそもの原因は…


「時成さんが大事な光をなくしたから…?」

「そうだね。どうしてそれが世界を超えて由羅の元へ届いたのかは分からないけど、君がこうなっているのはその光が君を巻き込んでしまったからだからー」


ーボス!と気付けば私は自分の座っていた座布団を時成さんの顔面に投げ飛ばしていた

「うっ」と聞こえた低い声にどうやらそこそこに痛かったらしい


「…何をするのかな」
「我慢した方ですよ」


逆にこれくらいで済ますのだから感謝していただきたい。とスンとしていれば
座布団のせいか鼻が少し赤くなっている時成さんは立ち上がった


「それで、私の中の光を壊す為にはどのくらい共鳴が必要なんですか?」
「少なくとも私が知る限りの全員と共鳴しなくてはいけないね」
「ぜ、全員?」


驚いたものの納得する。まぁそうだよね。みんなの中にある異形の塊とやらも壊さなきゃなんだから


「うん。では共鳴について説明しようか」と時成さんは何やらプロジェクターとスクリーンのようなものを出してきた

うわなんだかこの近代感…違和感すごい。相変わらずこの世界の価値観わからない…


「これが由羅が共鳴しなければならない対象人物達」


映し出されたモニターに指示棒のようなもので差されたそこには
サダネさんやゲンナイさん、ナズナさんナス子さん…と見た顔の他にも数人ほどの顔と名前が映っていた


「この子達は全員体の中に異形の塊がある子達だからね。由羅にはこの子達全員と共鳴して塊を消してあげてほしいね。」


そうしないとこの子達は存在ごと消えてしまう運命から逃れられないからね。と言った時成さんの言葉が半分脅しに聞こえてしまう。なんだかとても責任重大なことを頼まれているな私…まずい。あまりの深刻さに吐きそうになってきた…


「ちなみに現在の共鳴度はこんな感じだね」


ピッと電子音と共に操作して切り替わったモニターには対象人物達の顔と名前の下に
ハートを形どった器のようなものが並んでいて私は思わず目を細める。


「……。」


なんだろうこの既視感…。
どこかで見たような…。あ、そうだ恋愛シミュレーションゲームとかでよく見る好感度メーターみたいな………


「……。…もしかして、時成さん、ふざけてますか?」

「うん?由羅にも分かりやすいようにと由羅の世界のゲームを参考にしてみたんだけど…」

「いや、色々と間違えてませんか?ゲームを参考にするならこういう恋愛ゲームじゃなくてせめて悪を倒す冒険ゲームじゃないんですか?」


時成さんも最初例えでそんな事言ってたし、と反論すれば時成さんはキョトンと首を傾げてみせた


「でもね由羅のやるべき事や理屈等考えるとこれが一番分かりやすいからね」
「…はぁ、もういいです。分かりました!」


私は大きなため息をはいて、改めてモニターに視線を戻す。
そしてゲンナイさんのハートの器だけ二つほど埋まっていることと、他の3人は一つ。まだ出会ってない人達は当たり前に0個であることを把握した。

なんでゲンナイさんだけちょっと共鳴度高いんだろう…
というかそもそも共鳴度ってどうやって上げるの?


「共鳴度を上げるには対象の人物に好かれる必要があるからね」
「…なんですかそれまんま好感度じゃないですか、恋愛ゲームじゃないですか!」
「だから参考にしたんだけどね」


わかりやすいだろう?と、どこか自慢げに言った時成さんに私はガクッと肩を落とした


「まぁ頑張ってね由羅ならきっと大丈夫だと思うよ」


無責任に言い放つ時成さんにもう一度座布団を叩きつけたい衝動にかられる

私も協力するからねと言ってくれたものの
信用なんてできないし逆に不安だ
そもそもこの人数全員との好感度をあげるなんてそんな自信がない。


「ちなみにね、由羅から私へのハートはゼロだね」


何故か楽しそうに笑った時成さんに私は
「そうでしょうね」と頷いた

むしろマイナスじゃないことに驚きですよ