九條くんと、15分。

私には、毎朝欠かさず続けていることがある。

朝8時。

スマホで時間を確認して、あえて一呼吸置いてから家を出る。

そして、

「……いた」


──少し先を歩く、九條くんの後ろ姿を発見。


距離にして、たぶん5メートルくらい。

近すぎず、遠すぎず。

もし九條くんが振り返ったとしても、偶然同じ道を歩いているように見えるくらいの距離感で。

……まあ、実際は偶然なんかじゃないんだけど。

九條真冬(くじょうまなと)、高校二年生。
同じ学校に通う、私よりひとつ上の先輩。

私の家の4軒お隣に住んでいると知ったのは、つい最近のこと。


成績優秀。
運動神経抜群。
何より、文句なしに顔がいい。

スっと通った鼻筋、長いまつ毛に、くっきりと綺麗な二重ライン。

落ち着いた茶髪にゆるくウェット感のあるパーマ、綺麗な白い肌。

トドメに目尻の泣きぼくろ。

学校で彼を知らない女子はいない。
廊下を歩けば振り返られるし、休み時間には女子に囲まれている。

告白された、なんて話も珍しくない。
なのに本人は、それを全部面倒くさそうに断るとか。

だから、いつの間にかついたあだ名が、

──冷徹王子。

本人が知っているかは分からないけど。
知っていたとしても、きっと興味なんてない。


「……今日も、かっこいい」

思わず小さく呟いて、慌てて口を閉じる。
聞こえるはずはないのに。

九條くんはいつも両耳にイヤホンをつけている。
私が仮に大きな声で九條くんを呼んだって気づかれないと思う。

……たぶん。

それに、気づかなくていい。
私が九條くんの後ろを毎朝歩いているなんて、本人には知られたくないし。


これは私だけの、
──秘密の15分なのだ。