「……あのね」
「ん……ごめん。今夜は優しい王子様、出てこないかも」
それでも離さないというように、腕を解かないロイにジェイダはそっと手を伸ばした。
「私にとって、ロイはロイ。でも、そこにアルバートがいるのだとしたら」
細い指が、彼の胸に触れる。
「隠さないで、出てきて。ロイになる前のあなただって、今のロイを作ってくれた大切な一部。忘れちゃった?私が好きになったのは、単に優しいだけの王子様じゃない。その後に見せてくれた、あなたなんだよ」
ジェイダがお姫様と呼ばれるのは、きっとこんなところが理由なのだと思う。
(敵わないなあ……全然)
女としても、一人の人間としても。
彼女と比べたら、本当に子供でしかない。
その証拠に、パサリと背中が沈む音がして。
離れたくて仕方がないのに、ちっとも足が言うことを聞いてくれない。



