優しくしないで、好きって言って


「寿々香さん、今日はお招きいただきありがとうございます」

「いえいえ〜。こちらこそ、快諾してくれて嬉しいわ」


 いつの間にこんな仲良くなったんだか。

 唖然とする私をよそに、瑛大が「どうぞ」と手土産のようなものをママに渡す。

 それをママが冷蔵庫に運びに向かった、その時だった。


「七瀬、お疲れ」

「っ、お疲れ……さま」


 不意にこちらへ向いた目。私は咄嗟に逃げるように、ほんの少し後ずさってしまった。


「ここ来るの、久々だな」

「……そ、そうね」

「入るのちょっと緊張したもん」

「っ、なんでよ」


 ハハッとおかしそうに笑う瑛大。

 そんな彼の顔を、私はチラリと窺うように盗み見る。


 ──いったい、瑛大は何を考えているんだろう。


 私のことなんて好きじゃないくせに、強引に婚約の話を進めて。

 なのに、私を喜ばせるような優しさを見せてきて。

 どれが本当の瑛大なのか……さっぱりわからない。


 そうやって私の心をかき乱すだけかき乱してさ?

 そのくせ自分はなんでもないですよーって顔してるんだから。

 なんか、上手く手のひらの上で踊らされてるみたいで……。

 
「七瀬?」

「っ、なに?」