優しくしないで、好きって言って


 胸の奥がズキッと(きし)むのを感じた、その時。


「で、七瀬はやっぱり嫌? 俺と結婚するの」

「っ、私は……」


 再び向けられたその質問に、ぐっと唇を噛み締めた。

 これは自分の人生がかかった大きな問題なんだ。はっきりと伝えなければ、きっと後悔する。


「こういうのは、やっぱりよくないと思う。結婚っていうのはその、す、好き同士がするものだし……」


 (しば)しの逡巡(しゅんじゅん)(のち)、私はゆっくりと、でも確かに、今自分の中にある素直な想いを紡ぎ出していった。


 瑛大が私のことを好きなんだったら、私だってきっとそこまで反対はしなかった。

 婚約者っていっても、まだ結婚はできないんだし、これからその時まで二人で関係を深めていけば、なんの問題もないと思う。


 だけど瑛大にとって私は、せいぜい仲の良かった幼なじみ。

 優しくしてくれてたけれど、好きって言われたことは一度もない。


 そんな状況で婚約だなんて……。


 なんとなく顔は見れなくて、いつのまにか逸らしていた視線。

 それを戻したところで、固まった。


「え、瑛大……?」


 漂う暗黒のオーラ。

 なんか……怒って、る……?