優しくしないで、好きって言って


「大人っぽくなったな、七瀬」

「……ばか」


 それは、そっちの方でしょう?


 見上げなきゃ目線は合わなくなったし。
 
 さっき私を支えてくれた身体は驚くくらいにしっかりしてた。


「ねぇ」


 そっと呼びかけてから、私は訊きたくて仕方なかったことを口にした。


「いつ帰ってきたの?」

「……2週間くらい前?」

「こっちにはずっといるの?」

「うん」

「じゃあ、なんで連絡してくれなかったの?」


 まっすぐに黒いその目を見つめ、ずいっと圧をかけるように詰め寄る。

 頭に山ほど溢れてきた疑問の中で、これが一番はっきりさせておきたいことだった。


 だって私は、瑛大が日本に帰ってきているなんて、今日の今日まで全く知らなかったんだ。

 よくよく考えたら、こうしてたまたま出会うことがなければ、一生知ることがなかったかもしれないだなんて、酷すぎると思わない?