優しくしないで、好きって言って


「……ありがとう」


 とくん、とくんと小さく湧き立つ心。

 それを気取られないよう落ち着いた声でそう言うと、私はそっと瑛大から離れた。


 もう少しで私、自転車に轢かれるところだったんだ。

 瑛大が気づいて手を引いてくれなければ、今頃……って──!


「ねえ、さっき私のこと〝七瀬〟って言った?」


 火花が散ったように思い出した私は、頭に浮かんだそれをそのまま口に出していた。

 聞き間違いなんかじゃ絶対ない。だって、この耳でちゃんとはっきりと聞いたんだ。


 瑛大は私に気づいていないどころか、覚えてすらいないんだと思っちゃってたけど……。


「もしかして、最初から気づいて……?」


 恐る恐る訊ねる。

 すると、目の前の瞳が柔らかに弧を描いた。