「綾城家の長男に生まれたあの人は、生まれた頃から医者になることが決まってた。未来を選ぶ自由がなかったんだって、そう言ってたわ。だから……」
そこまでで止めた母さんを、俺はじっと見守る。
言葉は何も出てこなかった。
初めて耳にする話に、頭が追いついていなかったんだろう。
「だから瑛大……あなたには、自由に夢を見つけてもらいたかったのよ」
「……なんだよ、それ」
再び口を開いた母さんの言葉を理解した瞬間、勝手に心の声が零れていた。
「本当、不器用な人よね。……でもね、これだけはわかってほしいの。あの人は……あなたのお父さんは、あなたのことが大好きなの。上手く表現できないだけでね。だから、さっきの瑛大の言葉を聞いたらきっと、お父さんも喜ぶと思うわ」
ぐっと唇を噛み締める。
喉の奥の違和感を抑え込むように、強く力を込めて。
「……あの人ったら、口には出さないけど、瑛大と七瀬ちゃんとの婚約もとっても喜んでるのよ? 七瀬ちゃんと初めて会う時なんて、嫌われないか心配で手鏡片手に笑顔の練習までしてたんだから。……あ、これはお父さんには内緒ね」



