優しくしないで、好きって言って


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「ねぇ、七瀬ちゃん来てたの?」


 夜になり仕事から帰ってきた母さんは、開口一番そんな声をリビングに落とした。

 どうやらさっき、七瀬が帰るタイミングで久栖さんの運転する車とすれ違ったらしい。


「私も少しくらいお話ししたかったわぁ」


 サラッと束ねた長い髪を解きながら残念そうにため息をつくその人は、いつの間にやら〝七瀬ちゃん〟がお気に入りになったようだ。


「まあ、これからたくさん会えるよ」

「それもそうね。……ところで瑛ちゃん」

「ん?」

「七瀬ちゃんに変なことしてないでしょうね」

「んぐっ!」


 やばっ。

 俺は飲んでいたお茶を喉に詰まらせそうになって、ケホケホと咳を繰り返した。