優しくしないで、好きって言って


「綾城……!」


 スマホを片手に、じっとこちらを向いた彼。


 ──どうしよう、私……。


 ドキドキと鼓動が騒ぎ出す。

 壊れちゃうんじゃないかってくらいに、動いてる。


 だって瑛大が……ずっとずっと会いたくて堪らなかった人が、ふと手を伸ばしたらすぐ届きそうなその距離にいるんだ。


 ……瑛大、助けてくれるかな?


 ときめく胸に淡い期待を抱かせ、

 お願い、助けて──そう、想いを込めて視線を送ったのも……束の間だった。


「ごめん」


 一言呟いた彼はくるりと(きびす)を返し──え、なんで行っちゃうの!?


 呆気にとられるしかなかった。

 消えゆく背中に言葉も出てこず、ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返してしまう。


 なんなの? 『ごめん』ってなに? ねえ!



「えっ、七瀬ちゃん!?」


 気づけば走り出していた。

 その後ろ姿を追いかけるように。