優しくしないで、好きって言って


「ありがとう」


 私は柔らかな手を握り返し、愛らしく弧を描く瞳を一点に捕らえる。

 すると、結ばれた口の端がきゅっと上がって。


「ううん。私の方こそ、七瀬にお礼言わなきゃなの」

「え?」

「……実はね、この前二藍学園の文化祭に参加できなかったでしょう? 落ち込んでたらさ、篠原くんから連絡がきたんだよね」

「本当!?」

「うん。それでね、やりとりしてるうちに、今度は二人きりで会ってみることになって」

「なによそれ、よかったじゃない」

「……七瀬のおかげ。だから、ありがとう」


 へへっとほんのりと照れたように綻んだ顔に、私の心は木漏れ日が刺したような感覚に包まれた。


 実玖留、ちゃんと頑張ってるんだ。

 アピール頑張るって言ってたもんね。


 ──私も……。


「ああ、なんかごめんね。急に私の話なんかしちゃって。それで、このあと用事とか……」

「ごめん」


 私は短く吐くように言うと、勢いよく立ち上がった。


「ちょっと私、これから行かなきゃいけないところがあるの。だから、また今度絶対遊ぼ!」

「えっ、あっ、うん。わかった」

「じゃあね、実玖留。大好き、ほんとありがとう!」

「う、うん?」
 

 放つように落として、不思議そうに目を丸くする彼女に手を振る。