耳元に響いた優しい声に、ふっと顔を上げる。

 すると、薄い平行二重の瞳と目が合い──その瞬間、知らぬ間に掴んでいた腕が呆気なくこの手をすり抜けていった。


 ──待って!


 手を伸ばしても伸ばしても、届かない。

 ただ遠くなっていく少年の後ろ姿。

 今すぐにでも駆け出したいのに、何かが私の身体を(はば)んで動けないんだ。


『絶対忘れないから』


 ──やだ、ずっと一緒だって言ったのに。


『またね、七瀬』


 ──どうして私を一人にするの……?



「お嬢様」


 ──お願い置いてかないで。


「お嬢様」


 ねぇ──。