「君にはずっと、お礼を言いたいと思っていたんだ」
「いえ、俺はなにも……」
なんの話、してるんだろう……?
盗み聞きなんてダメなはずなのに、扉の側から離れられない。
私の足は、地面に張り付けられたようにピタリと固まっているんだ。
「実は七瀬には、昔から淋しい思いをさせてしまっていてね」
──え?
ドキドキと心拍数が上がる中、切なげに響いた言葉。
それが耳に届いた瞬間、心臓が掴まれたような気分になった。
「なるべく時間を見つけて構っていたつもりなんだが……中々他の家庭のようにはいかなくて」
ハッと目を見張った。
だってそんな話、初めて聞いたから。
淋しいなんて言えなかったのに。隠してたのに。
パパは全部わかってたってこと……?



