いつの間にか黒髪をくしゃっと掴むように抱え、顔を背けている竜胆。
私が覗き込もうとすると、その顔はスッこちらへ向けられた。
「俺は、あの頃のどうしようもなかった俺を拾ってくれた旦那様と奥様に、すげぇ感謝してるんです。……それと同じくらい、七瀬さん……あなたにも、心の底から感謝してるんです」
「私に……感謝?」
「ええ。だから俺は、あなたにはどうしても幸せになってもらいたい」
力強くそう告げた竜胆の初めて見る温かな表情に、私は一瞬言葉を失ってしまった。
「……なによそれ。そんなこと急に、やめてよ。びっくりするじゃない」
「ふふ、さっきのお返しですよ」
「なっ」
もう……また意地悪な顔に戻ってる。
私をからかって楽しんでる、いつもの顔。
ムッと露骨に口を尖らせたけれど、内心は微笑んでしまうのを堪えるので必死だった。
だってやっぱり、竜胆にはその顔が一番似合ってるんだもの。



