優しくしないで、好きって言って






「素直になれない、ですか」

「……」


 物心つく前から私は、周りに〝お嬢様〟と呼ばれて育ってきた。

 当たり前だと思っていたその呼び方が、特別だったと知ったのは、幼稚園に入ってからのこと。


 先生たちの態度に、クラスメイトたちの反応。

 そんなものに触れているうちに、なんとなく悟ったんだ。

 新条グループの社長の娘であることは、周りの子とはちょっと違うんだということを。


 たくさんの部下をまとあげ、慕われているパパ。

 才能を存分に活かして活躍しているママ。

 家では優しくて、だけどお外ではかっこよく働いている。

 私はそんなパパとママを心から尊敬していたし、大好きだった。


 でも──。


 その反面、ずっと、心のどこかに引っかかるものがあった。

 ある日一度、胸に仕舞い込んでおけなくなったそれを、ママの前で零したことがある。