こっちは何の防具も身につけていなかったんだ。
いきなり〝婚約者〟だとか〝美人〟だとか言われたら、心臓がおかしくなるに決まってる。
「いいじゃん。七瀬だってこの前勝手に言えって」
「そっ、れはそうとして、ちゃんと親同士が決めた許婚だって説明してくれなきゃみんな勘違いして──」
「ていうか、七瀬一人?」
「へ?」
慌てて取り繕う私に降ってきたのは、全くもって予想外な質問だった。
少し呆気にとられ、頭には疑問符が浮かぶ。
「織山さんと一緒なんじゃなかった?」
「……ああ」
私たちの言い合いを見ていられなかったのか、いつの間にか深町くんは姿を消していた。
「実玖留がちょっと用事でね。だから代わりに竜胆が……」
あれ? とそこまで言って初めて気づいた。
さっきまで一緒だったはずの竜胆が傍にいない。
……って、あんなところに!



