*** 「七瀬ちゃんどうしたの?」 「……」 「ねーってばぁ」 「え?」 軽く肩を叩かれ振り向くと、不思議そうに眉を歪める男の目と目が合った。 今どきっぽい、黒の無造作マッシュヘア。 たしか、深町(ふかまち)くんって言ったっけ。 「何かあった?」 「ううん、なんでも」 「よかった。それよりさ、このケーキ……」 ──そう。なんでもない。 なんでもないのよ? ただ、ちょっとだけ。ほんのすこーしだけ……。