優しくしないで、好きって言って


「では、失礼します」


 そろそろ本当に帰らなきゃ。そう思った私は、軽くお辞儀して瑛大たちに背を向ける。

 とその時、


「待って七瀬ちゃん」


 いつの間にか近づいてきていた巴さんが、私にこんなことを耳打ちをしてきたんだ。


「また瑛大と仲良くしてくれてありがとう」


 仲良くって……。


「それは、こちらこそと言いますか……当然のことで」

「七瀬ちゃんはね、瑛大にとって初めてのお友達だったから」

「え?」

「瑛大ね──」

「……っ」


 届いた声に、目を見開く。

 そんな私たちのやり取りを妙に思ったのか、いきなり割って入ってきた低い声。


「なあ母さん、七瀬に余計なこと言ってねーよな?」

「あら瑛ちゃん、お口が悪いですよ?」


 くすくすと上品な巴さんの笑い声が玄関に反響する。

 そんな中、私は一人頭をボーッとさせていた。