「おーい、瑛大ー、新条ー! こっちこっち!」

「篠原くん!」


 結局ちゃんと答えられないまま、私は瑛大と二人、イルカショーの会場へと向かった。

 大きく手を振って私たちを出迎えてくれた篠原くんは、実玖留とともに席を確保してくれていたようだ。


「ハンカチ見つかった?」

「うん、ちゃんとあった。心配かけてごめんね」


 二人にそうにっこりと微笑んで返すも、私の心はどこか半分、上の空だった。


『七瀬……俺のこと、好き?』


 脳裏に浮かんで離れない、あの時の瑛大の顔。

 私は、まっすぐなその瞳を直視できなかった。

 同じように見つめ返して、「そうだ」って答えることもできたはずなのに。


 ──悔しいから? それともただ、怖いから?


「お、もうすぐ始まるみてぇ。早く座ろうぜ」

「うん」


 ──多分きっと、それだけじゃない。


「そうだ七瀬。上着(これ)、着ときなよ」

「えっ?」

「風邪ひいちゃ俺、困るから」


 言いながらパサッと肩にかけられたそれに、とくんと胸が鳴った。

 上着から伝わる、瑛大の温もり。

 そこから、変えようのない想いがじんわりと身に沁みていく。


 ──ああもう、こんなにも好きなのに。


「……っありがとう……」


 ……好きって言えない。