優しくしないで、好きって言って


 ……なんなのよ、それ。


 私は瑛大と見知らぬ女の子が話すのを眺めたまま、ぐっと拳を握りしめていた。

 濁ったこの感情を自分の中に押し込めるように。



「……そっか、残念。……あ、来た! じゃあね綾城くん。また学校で」

「またな」

「可愛い子ね。クラスメイト?」

「七瀬?」


 一人になった瑛大に近づいた私は、考えることなくそう声をかけていた。


「お待たせ。ハンカチあったから。早く戻りましょう?」


 少し驚いたらしいその顔をチラリと一瞥だけして、淡々と言葉を連ねる。


「……なに? 妬いてんの?」

「ばっ、違うわよ。ほら、行きましょ!」


 私は目も合わせぬまま強引に瑛大の手首を掴むと、引っ張るように歩みを進めた。


 なにが『妬いてんの?』よ。

 そういう鈍いようで鋭いところ、すっごく嫌。


 あの子は同じ学校で、私の知らない瑛大を知っている。

 目の前で実感させられて、平気でいられるはずないじゃない。


 それだけじゃない。

 調子いいこと言って、舞い上がらせて。


 ……嬉しかったのに。

 髪型に気づいて褒めてくれたことも、一緒に写真を撮ってくれたことも、デートだって言ってくれたことも。


 それも全部、甘い罠だったんだ。


「デートとか言ってたくせに」