ある日のお昼休み。
「姫花、今日お菓子持って来たんだ。デザートにみんなで食べよ」
「ありがとう、詩穂」
「お、桐ちゃんナイス」
「ありがとう、桐山さん。俺も明日何か持って来る」
詩穂がお菓子を持って来てくれた。
宿泊研修以降、私達四人はお昼ご飯を一緒に食べたり、一緒に行動することが増えた。
「そういえば、もうすぐ席替えだって」
お弁当を頬張りながら一ノ瀬くんが言う。
「そっか。そういや三組の吹奏楽部の子もこの前席替えだったって聞いた。ねえ姫花」
「うん」
詩穂から話を振られ、吹奏楽部で聞いたことを思い出した。
「まあ確かに時期的に丁度良いよな」
藤堂くんはお弁当を一口飲み込むと、そう笑う。
席替え……。詩穂が隣で、後ろには一ノ瀬くん。今の席に不満はない。だけど……。
私はチラリと藤堂くんを見る。
相変わらず爽やかでカッコいい。
藤堂くんの近くの席になれたらな……。
私は密かにそう願った。
そしてその週の金曜日、一年二組にも席替えの時間がやって来た。
担任の先生が作ったくじを引いて、ランダムに割り振られた番号の席に向かう。
私が引いたくじには十二番と書かれていた。十二番は窓際後ろの席だ。
「お、よろしく、苺谷さん」
何と私の隣の席になったのは藤堂くん。
これは嬉し過ぎる。
「うん。藤堂くんが隣で……嬉しい。よろしくね」
私は思わず満面の笑みになる。
「おう」
藤堂くんは少し照れたような表情になっていた気がする。
私のことを意識してくれたら嬉しいけれど。
「あ、姫花! 私今度は姫花の前だ。黒板見にくかったらごめん」
詩穂が私の前の席に座る。
身長百七十二センチの詩穂。目の前の席だと確かに黒板が見にくくなる時もある。
「大丈夫。体横にずらしたら黒板見えるから。気にしないで」
「そっか。ありがとう」
「お! 俊介に苺ちゃんに桐ちゃん! よろしくー!」
何と藤堂くんの前、詩穂の隣の席には一ノ瀬くん。
見事に仲の良いメンバーが揃った。
また賑やかになりそう。
私は詩穂、藤堂くん、一ノ瀬くんを見てふふっと笑った。
そういえば、『俺バラ』でも席替え回ってあったかな?
私はぼんやりとそんなことを思い出し、原田陽太達を探す。
彼らは私達とは反対側、つまり廊下側の後ろの席になったらしい。
原田陽太が廊下側一番後ろ、春宮香恋が原田陽太の隣、財前麗奈は原田陽太の前だ。
結局『俺バラ』ハーレムは固まるんだ。
そう思いながら、私は文化祭に関する説明を始める担任の先生の話に耳を傾ける。
もうすぐ文化祭だ。
部活もクラスも忙しくなりそう。
私はワクワクと心躍らせていた。
◇◇◇◇
薔薇咲高校の文化祭は六月にある。
一年二組は教室で和風カフェを開くことになった。
大正ロマンをテーマにしているから少しカラフルでアンティークっぽい看板や小道具をクラス全員で作っている。
ちなみに当日女子は袴、男子は燕尾服を着る予定である。
ここで『俺バラ』の財前麗奈がお金持ちのお嬢様である設定が生き、家の財力で衣装などを全員分用意してくれるようだ。
「姫花、そこのハサミ取ってもらえる?」
「はい、詩穂。この作業、地味だけど何だかハマりそう」
「分かる」
私と詩穂は細々した小道具を作り続けている。
地味で細々した作業だけど、こういった作業は苦ではない。色々と無心になれるから前世も好きだった。
「苺谷さん、出来た小道具一旦こっちでもらう」
「うん、よろしく、藤堂くん」
私は作り終えた小道具を藤堂くんに引き渡す。
藤堂くんと一ノ瀬くんが仕上げをしてくれるのだ。
私達小道具チームは順調。クラス全体を見渡しても、特に問題がないように思えた。
しかしその時、ガシャンと派手な音が響く。
「ちょっと、何してくれてるの!?」
そしてバドミントン部の西島さんの怒鳴り声だ。
何事かと思い、私は西島さんの方を見た。
そこにはカンカンに怒っている西島さんと、戸惑っている原田陽太、春宮香恋、財前麗奈がいた。
どうやら『俺バラ』ハーレムが何かをやらかしたようだ。
「あんた達がペンキの入った缶を蹴り飛ばしたせいで看板が台なしなんだけど!」
看板係の西島さん曰く、もうすぐ完成しそうな看板に原田陽太達から派手にペンキをこぼされたらしい。
わざとではないらしいが、原田陽太達『俺バラ』ハーレムは文化祭準備にあまり協力的ではなかったから余計に怒り心頭だそうだ。
まあ……確かにそれは怒るよね。
クラスの雰囲気はギスギスし始めていた。
「対して協力しないくせに邪魔だけは一人前にして!」
西島さんは今にも原田陽太達に殴りかかりそうだ。
でも、彼女の足元にはペンキの缶。このままだと被害は広がりかねない。
私は持ち場から一旦離れて西島さんの元へ行く。
「西島さん、待って。危ない」
西島さんを止め、彼女の足元のペンキを机の上の落ちない場所に置く。
「ごめんね西島さん、更に被害拡大しそうだったから」
「苺谷さん、俺と健人で雑巾持って来る。床も拭いた方が良さそうだし」
藤堂くんが一ノ瀬くんと一緒にすぐに動いてくれた。
「ありがとう、藤堂くん、一ノ瀬くん」
「一体床に置いてあるものペンキから離そう」
詩穂もテキパキと動いてくれている。
「苺谷さん……。ごめん、ありがとう。桐山さんも藤堂くんも一ノ瀬くんも」
西島さんは少し冷静になってくれた。
良かった。これで少し安心だ。
私はホッとした。クラスの雰囲気も、少しだけ和らいだみたい。
西島さんも、他のクラスメイトも原田陽太達へイライラのした表情がマシになっていた。
私達は惨状の後始末をした。
「で、原田達はさ、看板台なしにしておいて謝罪の一つもないのかよ?」
近くにいた男子生徒の言葉は刺々しかった。
「あんまり協力もしてくれてないよね。さっきだってやらかした張本人のくせに何もしなかったし」
西島さんとつるんでいる女子生徒も棘のある声だ。
原田陽太達は何も言わずに俯くだけ。
本当に彼らは何なんだろうか……? 『俺バラ』の主人公やメインキャラだって理由で何もしなくても周りがお膳立てしてくれるとでも思っているの?
思わず私もイライラしてしまうけれどここで顔に出したら駄目。私はグッと抑えた。
「あのさあ、あんたらが看板にペンキこぼしたんだから、あんた達が修正してよ。完成見本はあるし、そのくらいはやってもらわないと」
西島さんがそう言ったことで、原田陽太達は看板の修正作業をすることになったようだ。
彼らも渋々ではあるが自分達が派手にペンキをこぼした部分を修正し始めている。
クラスの雰囲気も再びいつも通りに戻りつつある。
これで一件落着……だと思われたが、原田陽太達がまたやらかしてくれた。
それは数日後のこと。
「ちょっと、どうなってるの!? 本当にあんた達余計なことしかしないじゃん!」
詩穂と一緒に登校し、教室に入ろうとした時西島さんの怒鳴り声が廊下まで響き渡った。
何事かと思い、私と詩穂は急いで教室に入る。
すると、更にめちゃくちゃになった看板が目に入った。
もはや下手どころではない。
せっかく西島さんが描いてくれた看板が化け物みたいになっている。
「いや、だって修正しろって言うから……」
「絶対可愛いしみんな喜ぶと思ったのに」
「私、高級なペンキを用意しましたのよ」
原田陽太、春宮香恋、財前麗奈は謝ることすらしない。
クラスの雰囲気も最悪だ。
クラスメイト達は原田陽太達への怒り不満で爆発寸前。
本当に原田陽太達、何してくれてるの? ……でも、この空気は危険かも。
私も原田陽太達への不満はあるが、まずはクラスの雰囲気を何とかすることが優先だ。
前世はクラスで大人しい方だったけれど、苺谷姫花に転生して詩穂、藤堂くん、一ノ瀬くんと過ごすようになったら自然と中心になってクラスの雰囲気を良くしようと考えられるようになっていた。
詩穂達のお陰だ。
「西島さん、看板の修正、私手伝うよ。一緒にやろう。西島さん、絵のセンスあるからさ」
なるべく柔らかい雰囲気で、西島さんを刺激しないように気を付けながら話しかけた。
少しだけ、一触即発の空気が和らいだ気がする。
「……文化祭までまだ二週間あるから、みんなで手分けして修正したら間に合うと思う」
藤堂くんが援護射撃をしてくれた。
それにより、納得するクラスメイト達も現れる。
「……分かった」
西島さんも納得してくれたようだ。
クラスの雰囲気もこれ以上悪くならずに済んで安心。
早速今日の放課後からクラスで看板修正作業に取りかかる。
西島さんはバドミントン部だけど、絵のセンスが素敵過ぎる。美術部だと言われても驚かないくらいだ。
「にっしー、こっち修正終わりそう」
「ありがとう、たなぴー。助かる」
宿泊研修において、原田陽太達のせいで散々な目に遭った田中さんも楽しそうだ。
詩穂、藤堂くん、一ノ瀬くんも黙々と看板を修正している。
「西島さん、この部分だけど、オレンジからピンクに変更して良いかな? 周りの色との組み合わせを考慮したら、ピンクの方が目を引く感じだと思うんだけど」
私が西島さんに提案してみると、彼女は「うーん」と少し考えながら色を見比べた。
「確かにそうかも。ピンクの方が映えるね。苺谷さん、じゃあそこはピンクでよろしく」
「うん、ありがとう」
「こちらこそ」
私は西島さんから許可をもらい、ピンクのペンキを塗る。
「西島さん、ここ緑だけど緑のペンキ切れたから青でいい?」
「あ、藤堂くん待って。それなら青じゃなくて黄色で」
「了解」
放課後数日に渡る看板修正作業でクラスの絆は着実に深まっている。
看板の修正が完了し、一年二組のメンバーの表情は明るかった。
やり切った達成感と連帯感がこれ以上にない程気持ち良い。
そして現在、原田陽太達はいない。彼らは手伝う素振りを全く見せなかった。正直、原田陽太達には反省して欲しいけれど、彼らみたいな漫画のキャラがいない方が一年二組はまとまるのかもしれない。
私は詩穂やクラスの女子達と話した後、部活の準備をして音楽室に向かう。
その途中、中庭を通っていた時のこと。
風が吹き、プリントのようなものが目の前に飛んで来た。
何だろう?
疑問に思い、拾ってみると何の変哲もない授業のプリント。恐らく高二の範囲の数学だ。小テストの答えか何かだろう。
「あ、すみません」
落とし主たと思われる女子生徒の声が聞こえた。
声の方に目を向けると、私は思わず目を見開いてしまう。
水色のショートヘアに紺色の目。黒縁眼鏡でかなり巨乳。『俺バラ』のメインヒロインの中で唯一の先輩キャラ、雪野碧だった。
「姫花、今日お菓子持って来たんだ。デザートにみんなで食べよ」
「ありがとう、詩穂」
「お、桐ちゃんナイス」
「ありがとう、桐山さん。俺も明日何か持って来る」
詩穂がお菓子を持って来てくれた。
宿泊研修以降、私達四人はお昼ご飯を一緒に食べたり、一緒に行動することが増えた。
「そういえば、もうすぐ席替えだって」
お弁当を頬張りながら一ノ瀬くんが言う。
「そっか。そういや三組の吹奏楽部の子もこの前席替えだったって聞いた。ねえ姫花」
「うん」
詩穂から話を振られ、吹奏楽部で聞いたことを思い出した。
「まあ確かに時期的に丁度良いよな」
藤堂くんはお弁当を一口飲み込むと、そう笑う。
席替え……。詩穂が隣で、後ろには一ノ瀬くん。今の席に不満はない。だけど……。
私はチラリと藤堂くんを見る。
相変わらず爽やかでカッコいい。
藤堂くんの近くの席になれたらな……。
私は密かにそう願った。
そしてその週の金曜日、一年二組にも席替えの時間がやって来た。
担任の先生が作ったくじを引いて、ランダムに割り振られた番号の席に向かう。
私が引いたくじには十二番と書かれていた。十二番は窓際後ろの席だ。
「お、よろしく、苺谷さん」
何と私の隣の席になったのは藤堂くん。
これは嬉し過ぎる。
「うん。藤堂くんが隣で……嬉しい。よろしくね」
私は思わず満面の笑みになる。
「おう」
藤堂くんは少し照れたような表情になっていた気がする。
私のことを意識してくれたら嬉しいけれど。
「あ、姫花! 私今度は姫花の前だ。黒板見にくかったらごめん」
詩穂が私の前の席に座る。
身長百七十二センチの詩穂。目の前の席だと確かに黒板が見にくくなる時もある。
「大丈夫。体横にずらしたら黒板見えるから。気にしないで」
「そっか。ありがとう」
「お! 俊介に苺ちゃんに桐ちゃん! よろしくー!」
何と藤堂くんの前、詩穂の隣の席には一ノ瀬くん。
見事に仲の良いメンバーが揃った。
また賑やかになりそう。
私は詩穂、藤堂くん、一ノ瀬くんを見てふふっと笑った。
そういえば、『俺バラ』でも席替え回ってあったかな?
私はぼんやりとそんなことを思い出し、原田陽太達を探す。
彼らは私達とは反対側、つまり廊下側の後ろの席になったらしい。
原田陽太が廊下側一番後ろ、春宮香恋が原田陽太の隣、財前麗奈は原田陽太の前だ。
結局『俺バラ』ハーレムは固まるんだ。
そう思いながら、私は文化祭に関する説明を始める担任の先生の話に耳を傾ける。
もうすぐ文化祭だ。
部活もクラスも忙しくなりそう。
私はワクワクと心躍らせていた。
◇◇◇◇
薔薇咲高校の文化祭は六月にある。
一年二組は教室で和風カフェを開くことになった。
大正ロマンをテーマにしているから少しカラフルでアンティークっぽい看板や小道具をクラス全員で作っている。
ちなみに当日女子は袴、男子は燕尾服を着る予定である。
ここで『俺バラ』の財前麗奈がお金持ちのお嬢様である設定が生き、家の財力で衣装などを全員分用意してくれるようだ。
「姫花、そこのハサミ取ってもらえる?」
「はい、詩穂。この作業、地味だけど何だかハマりそう」
「分かる」
私と詩穂は細々した小道具を作り続けている。
地味で細々した作業だけど、こういった作業は苦ではない。色々と無心になれるから前世も好きだった。
「苺谷さん、出来た小道具一旦こっちでもらう」
「うん、よろしく、藤堂くん」
私は作り終えた小道具を藤堂くんに引き渡す。
藤堂くんと一ノ瀬くんが仕上げをしてくれるのだ。
私達小道具チームは順調。クラス全体を見渡しても、特に問題がないように思えた。
しかしその時、ガシャンと派手な音が響く。
「ちょっと、何してくれてるの!?」
そしてバドミントン部の西島さんの怒鳴り声だ。
何事かと思い、私は西島さんの方を見た。
そこにはカンカンに怒っている西島さんと、戸惑っている原田陽太、春宮香恋、財前麗奈がいた。
どうやら『俺バラ』ハーレムが何かをやらかしたようだ。
「あんた達がペンキの入った缶を蹴り飛ばしたせいで看板が台なしなんだけど!」
看板係の西島さん曰く、もうすぐ完成しそうな看板に原田陽太達から派手にペンキをこぼされたらしい。
わざとではないらしいが、原田陽太達『俺バラ』ハーレムは文化祭準備にあまり協力的ではなかったから余計に怒り心頭だそうだ。
まあ……確かにそれは怒るよね。
クラスの雰囲気はギスギスし始めていた。
「対して協力しないくせに邪魔だけは一人前にして!」
西島さんは今にも原田陽太達に殴りかかりそうだ。
でも、彼女の足元にはペンキの缶。このままだと被害は広がりかねない。
私は持ち場から一旦離れて西島さんの元へ行く。
「西島さん、待って。危ない」
西島さんを止め、彼女の足元のペンキを机の上の落ちない場所に置く。
「ごめんね西島さん、更に被害拡大しそうだったから」
「苺谷さん、俺と健人で雑巾持って来る。床も拭いた方が良さそうだし」
藤堂くんが一ノ瀬くんと一緒にすぐに動いてくれた。
「ありがとう、藤堂くん、一ノ瀬くん」
「一体床に置いてあるものペンキから離そう」
詩穂もテキパキと動いてくれている。
「苺谷さん……。ごめん、ありがとう。桐山さんも藤堂くんも一ノ瀬くんも」
西島さんは少し冷静になってくれた。
良かった。これで少し安心だ。
私はホッとした。クラスの雰囲気も、少しだけ和らいだみたい。
西島さんも、他のクラスメイトも原田陽太達へイライラのした表情がマシになっていた。
私達は惨状の後始末をした。
「で、原田達はさ、看板台なしにしておいて謝罪の一つもないのかよ?」
近くにいた男子生徒の言葉は刺々しかった。
「あんまり協力もしてくれてないよね。さっきだってやらかした張本人のくせに何もしなかったし」
西島さんとつるんでいる女子生徒も棘のある声だ。
原田陽太達は何も言わずに俯くだけ。
本当に彼らは何なんだろうか……? 『俺バラ』の主人公やメインキャラだって理由で何もしなくても周りがお膳立てしてくれるとでも思っているの?
思わず私もイライラしてしまうけれどここで顔に出したら駄目。私はグッと抑えた。
「あのさあ、あんたらが看板にペンキこぼしたんだから、あんた達が修正してよ。完成見本はあるし、そのくらいはやってもらわないと」
西島さんがそう言ったことで、原田陽太達は看板の修正作業をすることになったようだ。
彼らも渋々ではあるが自分達が派手にペンキをこぼした部分を修正し始めている。
クラスの雰囲気も再びいつも通りに戻りつつある。
これで一件落着……だと思われたが、原田陽太達がまたやらかしてくれた。
それは数日後のこと。
「ちょっと、どうなってるの!? 本当にあんた達余計なことしかしないじゃん!」
詩穂と一緒に登校し、教室に入ろうとした時西島さんの怒鳴り声が廊下まで響き渡った。
何事かと思い、私と詩穂は急いで教室に入る。
すると、更にめちゃくちゃになった看板が目に入った。
もはや下手どころではない。
せっかく西島さんが描いてくれた看板が化け物みたいになっている。
「いや、だって修正しろって言うから……」
「絶対可愛いしみんな喜ぶと思ったのに」
「私、高級なペンキを用意しましたのよ」
原田陽太、春宮香恋、財前麗奈は謝ることすらしない。
クラスの雰囲気も最悪だ。
クラスメイト達は原田陽太達への怒り不満で爆発寸前。
本当に原田陽太達、何してくれてるの? ……でも、この空気は危険かも。
私も原田陽太達への不満はあるが、まずはクラスの雰囲気を何とかすることが優先だ。
前世はクラスで大人しい方だったけれど、苺谷姫花に転生して詩穂、藤堂くん、一ノ瀬くんと過ごすようになったら自然と中心になってクラスの雰囲気を良くしようと考えられるようになっていた。
詩穂達のお陰だ。
「西島さん、看板の修正、私手伝うよ。一緒にやろう。西島さん、絵のセンスあるからさ」
なるべく柔らかい雰囲気で、西島さんを刺激しないように気を付けながら話しかけた。
少しだけ、一触即発の空気が和らいだ気がする。
「……文化祭までまだ二週間あるから、みんなで手分けして修正したら間に合うと思う」
藤堂くんが援護射撃をしてくれた。
それにより、納得するクラスメイト達も現れる。
「……分かった」
西島さんも納得してくれたようだ。
クラスの雰囲気もこれ以上悪くならずに済んで安心。
早速今日の放課後からクラスで看板修正作業に取りかかる。
西島さんはバドミントン部だけど、絵のセンスが素敵過ぎる。美術部だと言われても驚かないくらいだ。
「にっしー、こっち修正終わりそう」
「ありがとう、たなぴー。助かる」
宿泊研修において、原田陽太達のせいで散々な目に遭った田中さんも楽しそうだ。
詩穂、藤堂くん、一ノ瀬くんも黙々と看板を修正している。
「西島さん、この部分だけど、オレンジからピンクに変更して良いかな? 周りの色との組み合わせを考慮したら、ピンクの方が目を引く感じだと思うんだけど」
私が西島さんに提案してみると、彼女は「うーん」と少し考えながら色を見比べた。
「確かにそうかも。ピンクの方が映えるね。苺谷さん、じゃあそこはピンクでよろしく」
「うん、ありがとう」
「こちらこそ」
私は西島さんから許可をもらい、ピンクのペンキを塗る。
「西島さん、ここ緑だけど緑のペンキ切れたから青でいい?」
「あ、藤堂くん待って。それなら青じゃなくて黄色で」
「了解」
放課後数日に渡る看板修正作業でクラスの絆は着実に深まっている。
看板の修正が完了し、一年二組のメンバーの表情は明るかった。
やり切った達成感と連帯感がこれ以上にない程気持ち良い。
そして現在、原田陽太達はいない。彼らは手伝う素振りを全く見せなかった。正直、原田陽太達には反省して欲しいけれど、彼らみたいな漫画のキャラがいない方が一年二組はまとまるのかもしれない。
私は詩穂やクラスの女子達と話した後、部活の準備をして音楽室に向かう。
その途中、中庭を通っていた時のこと。
風が吹き、プリントのようなものが目の前に飛んで来た。
何だろう?
疑問に思い、拾ってみると何の変哲もない授業のプリント。恐らく高二の範囲の数学だ。小テストの答えか何かだろう。
「あ、すみません」
落とし主たと思われる女子生徒の声が聞こえた。
声の方に目を向けると、私は思わず目を見開いてしまう。
水色のショートヘアに紺色の目。黒縁眼鏡でかなり巨乳。『俺バラ』のメインヒロインの中で唯一の先輩キャラ、雪野碧だった。