いよいよ宿泊研修の場所に到着した。
自然豊かな合宿用の施設だ。
到着した時間は丁度お昼頃だったから、早速班でバーベキューを行う。
食材は班の中でお金を出し合って持ち寄りだ。
「苺谷さん、肉焼けたぞ」
「ありがとう、藤堂くん」
私は藤堂くんから焼けた牛肉をもらう。
「藤堂くん、さっきからずっと焼いてばかりだから私代わろうか?」
開始からずっと食材を焼いてくれている藤堂くん。一ノ瀬くんは色々準備してくれていて、私や詩穂は焼けた食材を食べるだけ。何だか申し訳なくなった。
「いや、まだ大丈夫」
「でも、藤堂くんあんまり食べてないよね」
「じゃあ……」
藤堂くんは私から目を逸らし、何かを考え込む。
「苺谷さんが……食べさせてくれたりとかする?」
「え……!?」
藤堂くんがとんでもないことを言ったので私は固まってしまう。
食べさせる……!?
もしかして、あーんってするやつ……!?
私が藤堂くんに……!?
確かに今詩穂と一ノ瀬くんは離れた場所にいるし、誰も私達のことを見ていないけれど……。
好きな人にそんなことをするとか、緊張するに決まっている。多分今の私は顔が真っ赤だと思う。
チラリと藤堂くんを見ると、彼も顔を赤くしていた。
「ごめん、やっぱり忘れて」
藤堂くんはお肉や野菜など、大量の食材を追加して忙しなく焼き始める。
心臓がドキドキする中、私は焼けた牛肉を見つけた。
「藤堂くん、その……」
私は牛肉を箸で取り、タレを付けて藤堂くんの口元に持って行った。
「お腹空いてると思うから」
「……ありがとう」
藤堂くんは食べてくれた。
多分今はお互い顔を見られないと思う。
「おーい! 俊介、苺ちゃん! 先生達がマシュマロ持って来てるから袋ごと奪って来たぞー!」
そこへ一ノ瀬くんの声が響き、私達はようやく解放されたような気分になった。
「お、健人ナイス! 後で炙って食べようぜ!」
藤堂くんはいつも通りに戻っていた。
彼がどうしてあんなことを言い出したのかは分からないけれど……私も平常心を取り戻さないと。詩穂も戻って来るところだし。
「一ノ瀬くん、ありがとう。デザートにぴったりだね」
私は軽く深呼吸をし、いつもの声のトーンでそう言った。一ノ瀬くんからは怪しまれなかったし、多分いつも通りに戻れたはず。
その後は四人で交代しながら食材を焼いて満腹になるまで食べた。もちろん、一ノ瀬くんが先生のところから取って来たマシュマロも火で炙って食べた。おまけに詩穂がクッキーを持って来ていたから炙ったマシュマロを挟んでスモアにもした。
「うん、甘くてとろけて最高!」
詩穂はスモアを食べてご満悦の様子。
「桐ちゃんがクッキー持って来てくれてたおかげだな」
一ノ瀬くんも美味しそうにスモアを頬張っていた。
「あ、苺谷さん、スモア、もう一個作ったけどいる? その、さっきのお礼と言うか……」
藤堂くんは私にマシュマロを炙って私にスモアを作ってくれたみたい。
「ありがとう、藤堂くん」
私は彼からスモアを受け取り一口食べた。口の中に甘さが広がる。
「何というか、さっきは変なこと言ってごめん」
藤堂くんは顔を赤くしながら申し訳なさそうだった。
私もさっきのことを思い出して思わず藤堂くんから目を逸らしてしまう。
「ううん、気にしないで」
そう答えるのが精一杯だ。やっぱりドキドキしてしまう。
「あのさ……この後とか明日のレクも一緒に楽しもう」
藤堂くんは爽やかにニコリと笑ってくれた。
その笑顔に思わず心臓が跳ねる。だけど、それと同時に嬉しくなった。
「うん。よろしくね、藤堂くん」
私は多分今満面の笑みだと思う。
ドキドキするけれど、好きな人と同じ班になれて本当に良かった。
「姫花、チョコもあるけどマシュマロと一緒に溶かしてみる? 一ノ瀬くんは既にやってるけど」
「良いね。チョコスモア、美味しそう。藤堂くんもどう?」
「お、じゃあやってみるか」
詩穂がナイスな提案をしてくれたから、四人でチョコスモアを作ってみることにした。
この班は本当に楽しい。『俺バラ』原作みたいに原田陽太のハーレム班だったらこんな風に楽しめなかったかもしれない。
私はふと気になったので、離れた所にいる『俺バラ』ハーレム班に目を向けてみた。
まず私は彼らの服装に目を疑った。
田中さんは普通に動きやすそうな服装だし、原田陽太の服装も別に普通だ。
問題は春宮香恋と財前麗奈。
自然の中でのレクリエーションがあるというのに春宮香恋は赤いミニスカート。財前麗奈はフリフリの黄色いお嬢様風ワンピース。
そういえば、『俺バラ』での姫花もスカートで動きにくそうな服装だった気がする。
正直、よく先生達から注意されなかったなと思う。
おまけに『俺バラ』ハーレム班、何やら揉めている様子。
彼らとは距離があって会話の全ては聞こえないけれど、どうやら食材を駄目にしたらしい。
財前麗奈が持ってきた高級食材を春宮香恋が焦がして炭にしたとか。
……そういえば、『俺バラ』では苺谷姫花以外全員料理が下手って設定があったような気がする。
私は大変そうだなと思いながら苦笑した。
私の代わりに『俺バラ』ハーレム班に入ってしまったバドミントン部の田中さんは表情が死んでいた。
何だか申し訳ない。
◇◇◇◇
お昼ご飯のバーベキューが終わり、片付けも完了すると班別対抗レクリエーションに移った。
渡された地図に沿って歩き、先生がいる場所クイズやミニゲームをすることになっている。正解数やゴールに到着した順番で順位が決まる。
ちなみに一位から五位までの班には景品があるらしいから、一ノ瀬くんがやる気になっていた。
「先生、もっとヒントちょうだい!」
「一ノ瀬、さっきヒント言っただろ」
「あれだけじゃ分かんないって」
現在私達の班は先生から出題された問題の答えを考えている。
一ノ瀬くんはヒントがもっと欲しいとごねていた。
「この図の中にヒントがあるってことだよね……。詩穂と藤堂くんは分かる?」
私はあらかじめ先生から渡された図を二人に見せる。
「えー、どれだろう?」
詩穂はうーん、と首を傾げている。
「あ、多分これじゃね?」
「おー! 俊介ナイス!」
どうやら藤堂くんは分かったようだ。
見事藤堂くんが正解を導き出してくれた。
「ありがとう、藤堂くん。凄いね」
「まあ……それ程でもないけど」
私の言葉に藤堂くんは照れていた。
何だか可愛い。
思わず頬が緩んでしまう。
「えっと、じゃあ次は……あ、川を渡った場所のポイントだって」
「おう、じゃあ早速行こうぜ! 一位目指すぞ! 景品、景品!」
詩穂と一ノ瀬くんが地図を確認していた。
私と藤堂くんは二人について行く。
しばらくすると、川が見えた。
かなり大きな川だ。一応飛び石があって渡れるようにはなっている。だけど、正直上手に渡れる自信がない。浅い川だけど、落ちたら嫌だな……。
一ノ瀬くんと詩穂がひょいひょい軽々と渡る中、私は不安になっていた。
私は前世から運動が得意ではないのだ。
少し足が震えてしまう。
「苺谷さん、大丈夫?」
藤堂くんは私を心配そうに覗き込んでくれた。
「うん……。詩穂や一ノ瀬くんみたいに渡れる自信なくて。落ちたらどうしようとか、少し怖いなとか」
「じゃあ……」
藤堂くんは私に手を差し出してくれた。
「一緒に渡ろう。もし苺谷さんがバランス崩して落ちそうになったら引っ張るから」
私の心臓が跳ねる。
それって、藤堂くんと手を繋いで渡るってことだよね……?
嬉しさと緊張でどうにかしそうだ。
「……ありがとう」
私は恐る恐る藤堂くんから差し出された手を取った。
大きくて温かい藤堂くんの手。それは男の人らしい手たったけれど、どこか優しさもあった。
「苺谷さん、そこ一歩進める?」
「うん……」
私は藤堂くんに手を引かれながら飛び石を渡る。
「きゃっ!」
「危ない!」
バランスを崩して川に落ちそうになった私を藤堂くんが引っ張り上げてくれた。
密着する体にドキドキしっぱなしだ。
「その、ごめんね、藤堂くん」
「いや……苺谷さんが無事で良かった」
優しく手を引いてくれて、優しい言葉をかけてくれる。
こんなのどんどん好きになっちゃうよ。
藤堂くんは私のこと、どう思っているのかな?
姫花に転生したばかりの頃は、この可愛さに惚れない男はいないでしょうと自信満々に振る舞えた。でも、藤堂くんと出会って、彼の努力に対する姿勢を知ったら少し自信がなくなってしまう。見た目だけでなく、中身も彼に釣り合う女の子になれるよう頑張らないと。
「姫花、大丈夫? お疲れ様」
「ありがとう、詩穂。藤堂くんのお陰で無事に渡れたよ。藤堂くん、ありがとね」
川を無事に渡り切った私は労ってくれた詩穂と助けてくれた藤堂くんにお礼を言う。
「苺谷さんが無事に渡れたのなら、良かった」
藤堂くんは爽やかで優しい笑顔を見せてくれた。
「本当にありがとう、藤堂くん」
私は嬉しくて思わず満面の笑みになる。
「俊介、苺ちゃんを助けるところ、カッコ良かったぞ! 苺ちゃん、困ったことがあったら俺も頼ってくれよ。もちろん桐ちゃんもな」
一ノ瀬くんはお調子者っぽいけれど頼もしい様子だ。
「はいはい、その時が来たらね」
詩穂は軽く一ノ瀬くんの肩を悪戯っぽくパンと叩いた。詩穂と一ノ瀬くん、割と仲が良さげだ。
「ありがとう、一ノ瀬くん」
その後は順調に進み、何と私達の班が見事一着でゴールした。
先生達がいるポイントで出された問題の正解数も多く、総合一位も確実だということが分かり一ノ瀬くんがはしゃいでいた。
私も藤堂くんがいて、詩穂がいて、一ノ瀬くんがいるこの班で一位になれたことはとても嬉しい。藤堂くんとも、少し距離が縮まった気がするし。
私達は他愛のない会話そしながら他の班が到着するまで待っていた。
しかししばらくすると、異変が起こった。
他の班がぞろぞろと帰って来た時、『俺バラ』ハーレム班の田中さんが悲痛な表情で先生の元へ行ったのだ。
「先生、大変です! 私以外の班の人達が……!」
田中さんの話によると、原田陽太、春宮香恋、財前麗奈が先に勝手に進んで遭難したようだ。
そして二年の先輩達の班も先生達に緊急事態を報告していた。
二年のとある班のメンバーだった雪野碧も遭難したらしい。
この展開……確か『俺バラ』原作でもあった。宿泊研修での遭難回。確か姫花も巻き込まれたやつだ。
私は『俺バラ』ハーレム班から逃れたし、田中さんも『俺バラ』とは無関係だから巻き込まれずには済んだ。でも原作の強制力なのか、『俺バラ』メインキャラの原田陽太、春宮香恋、財前麗奈、雪野碧は見事に遭難していた
自然豊かな合宿用の施設だ。
到着した時間は丁度お昼頃だったから、早速班でバーベキューを行う。
食材は班の中でお金を出し合って持ち寄りだ。
「苺谷さん、肉焼けたぞ」
「ありがとう、藤堂くん」
私は藤堂くんから焼けた牛肉をもらう。
「藤堂くん、さっきからずっと焼いてばかりだから私代わろうか?」
開始からずっと食材を焼いてくれている藤堂くん。一ノ瀬くんは色々準備してくれていて、私や詩穂は焼けた食材を食べるだけ。何だか申し訳なくなった。
「いや、まだ大丈夫」
「でも、藤堂くんあんまり食べてないよね」
「じゃあ……」
藤堂くんは私から目を逸らし、何かを考え込む。
「苺谷さんが……食べさせてくれたりとかする?」
「え……!?」
藤堂くんがとんでもないことを言ったので私は固まってしまう。
食べさせる……!?
もしかして、あーんってするやつ……!?
私が藤堂くんに……!?
確かに今詩穂と一ノ瀬くんは離れた場所にいるし、誰も私達のことを見ていないけれど……。
好きな人にそんなことをするとか、緊張するに決まっている。多分今の私は顔が真っ赤だと思う。
チラリと藤堂くんを見ると、彼も顔を赤くしていた。
「ごめん、やっぱり忘れて」
藤堂くんはお肉や野菜など、大量の食材を追加して忙しなく焼き始める。
心臓がドキドキする中、私は焼けた牛肉を見つけた。
「藤堂くん、その……」
私は牛肉を箸で取り、タレを付けて藤堂くんの口元に持って行った。
「お腹空いてると思うから」
「……ありがとう」
藤堂くんは食べてくれた。
多分今はお互い顔を見られないと思う。
「おーい! 俊介、苺ちゃん! 先生達がマシュマロ持って来てるから袋ごと奪って来たぞー!」
そこへ一ノ瀬くんの声が響き、私達はようやく解放されたような気分になった。
「お、健人ナイス! 後で炙って食べようぜ!」
藤堂くんはいつも通りに戻っていた。
彼がどうしてあんなことを言い出したのかは分からないけれど……私も平常心を取り戻さないと。詩穂も戻って来るところだし。
「一ノ瀬くん、ありがとう。デザートにぴったりだね」
私は軽く深呼吸をし、いつもの声のトーンでそう言った。一ノ瀬くんからは怪しまれなかったし、多分いつも通りに戻れたはず。
その後は四人で交代しながら食材を焼いて満腹になるまで食べた。もちろん、一ノ瀬くんが先生のところから取って来たマシュマロも火で炙って食べた。おまけに詩穂がクッキーを持って来ていたから炙ったマシュマロを挟んでスモアにもした。
「うん、甘くてとろけて最高!」
詩穂はスモアを食べてご満悦の様子。
「桐ちゃんがクッキー持って来てくれてたおかげだな」
一ノ瀬くんも美味しそうにスモアを頬張っていた。
「あ、苺谷さん、スモア、もう一個作ったけどいる? その、さっきのお礼と言うか……」
藤堂くんは私にマシュマロを炙って私にスモアを作ってくれたみたい。
「ありがとう、藤堂くん」
私は彼からスモアを受け取り一口食べた。口の中に甘さが広がる。
「何というか、さっきは変なこと言ってごめん」
藤堂くんは顔を赤くしながら申し訳なさそうだった。
私もさっきのことを思い出して思わず藤堂くんから目を逸らしてしまう。
「ううん、気にしないで」
そう答えるのが精一杯だ。やっぱりドキドキしてしまう。
「あのさ……この後とか明日のレクも一緒に楽しもう」
藤堂くんは爽やかにニコリと笑ってくれた。
その笑顔に思わず心臓が跳ねる。だけど、それと同時に嬉しくなった。
「うん。よろしくね、藤堂くん」
私は多分今満面の笑みだと思う。
ドキドキするけれど、好きな人と同じ班になれて本当に良かった。
「姫花、チョコもあるけどマシュマロと一緒に溶かしてみる? 一ノ瀬くんは既にやってるけど」
「良いね。チョコスモア、美味しそう。藤堂くんもどう?」
「お、じゃあやってみるか」
詩穂がナイスな提案をしてくれたから、四人でチョコスモアを作ってみることにした。
この班は本当に楽しい。『俺バラ』原作みたいに原田陽太のハーレム班だったらこんな風に楽しめなかったかもしれない。
私はふと気になったので、離れた所にいる『俺バラ』ハーレム班に目を向けてみた。
まず私は彼らの服装に目を疑った。
田中さんは普通に動きやすそうな服装だし、原田陽太の服装も別に普通だ。
問題は春宮香恋と財前麗奈。
自然の中でのレクリエーションがあるというのに春宮香恋は赤いミニスカート。財前麗奈はフリフリの黄色いお嬢様風ワンピース。
そういえば、『俺バラ』での姫花もスカートで動きにくそうな服装だった気がする。
正直、よく先生達から注意されなかったなと思う。
おまけに『俺バラ』ハーレム班、何やら揉めている様子。
彼らとは距離があって会話の全ては聞こえないけれど、どうやら食材を駄目にしたらしい。
財前麗奈が持ってきた高級食材を春宮香恋が焦がして炭にしたとか。
……そういえば、『俺バラ』では苺谷姫花以外全員料理が下手って設定があったような気がする。
私は大変そうだなと思いながら苦笑した。
私の代わりに『俺バラ』ハーレム班に入ってしまったバドミントン部の田中さんは表情が死んでいた。
何だか申し訳ない。
◇◇◇◇
お昼ご飯のバーベキューが終わり、片付けも完了すると班別対抗レクリエーションに移った。
渡された地図に沿って歩き、先生がいる場所クイズやミニゲームをすることになっている。正解数やゴールに到着した順番で順位が決まる。
ちなみに一位から五位までの班には景品があるらしいから、一ノ瀬くんがやる気になっていた。
「先生、もっとヒントちょうだい!」
「一ノ瀬、さっきヒント言っただろ」
「あれだけじゃ分かんないって」
現在私達の班は先生から出題された問題の答えを考えている。
一ノ瀬くんはヒントがもっと欲しいとごねていた。
「この図の中にヒントがあるってことだよね……。詩穂と藤堂くんは分かる?」
私はあらかじめ先生から渡された図を二人に見せる。
「えー、どれだろう?」
詩穂はうーん、と首を傾げている。
「あ、多分これじゃね?」
「おー! 俊介ナイス!」
どうやら藤堂くんは分かったようだ。
見事藤堂くんが正解を導き出してくれた。
「ありがとう、藤堂くん。凄いね」
「まあ……それ程でもないけど」
私の言葉に藤堂くんは照れていた。
何だか可愛い。
思わず頬が緩んでしまう。
「えっと、じゃあ次は……あ、川を渡った場所のポイントだって」
「おう、じゃあ早速行こうぜ! 一位目指すぞ! 景品、景品!」
詩穂と一ノ瀬くんが地図を確認していた。
私と藤堂くんは二人について行く。
しばらくすると、川が見えた。
かなり大きな川だ。一応飛び石があって渡れるようにはなっている。だけど、正直上手に渡れる自信がない。浅い川だけど、落ちたら嫌だな……。
一ノ瀬くんと詩穂がひょいひょい軽々と渡る中、私は不安になっていた。
私は前世から運動が得意ではないのだ。
少し足が震えてしまう。
「苺谷さん、大丈夫?」
藤堂くんは私を心配そうに覗き込んでくれた。
「うん……。詩穂や一ノ瀬くんみたいに渡れる自信なくて。落ちたらどうしようとか、少し怖いなとか」
「じゃあ……」
藤堂くんは私に手を差し出してくれた。
「一緒に渡ろう。もし苺谷さんがバランス崩して落ちそうになったら引っ張るから」
私の心臓が跳ねる。
それって、藤堂くんと手を繋いで渡るってことだよね……?
嬉しさと緊張でどうにかしそうだ。
「……ありがとう」
私は恐る恐る藤堂くんから差し出された手を取った。
大きくて温かい藤堂くんの手。それは男の人らしい手たったけれど、どこか優しさもあった。
「苺谷さん、そこ一歩進める?」
「うん……」
私は藤堂くんに手を引かれながら飛び石を渡る。
「きゃっ!」
「危ない!」
バランスを崩して川に落ちそうになった私を藤堂くんが引っ張り上げてくれた。
密着する体にドキドキしっぱなしだ。
「その、ごめんね、藤堂くん」
「いや……苺谷さんが無事で良かった」
優しく手を引いてくれて、優しい言葉をかけてくれる。
こんなのどんどん好きになっちゃうよ。
藤堂くんは私のこと、どう思っているのかな?
姫花に転生したばかりの頃は、この可愛さに惚れない男はいないでしょうと自信満々に振る舞えた。でも、藤堂くんと出会って、彼の努力に対する姿勢を知ったら少し自信がなくなってしまう。見た目だけでなく、中身も彼に釣り合う女の子になれるよう頑張らないと。
「姫花、大丈夫? お疲れ様」
「ありがとう、詩穂。藤堂くんのお陰で無事に渡れたよ。藤堂くん、ありがとね」
川を無事に渡り切った私は労ってくれた詩穂と助けてくれた藤堂くんにお礼を言う。
「苺谷さんが無事に渡れたのなら、良かった」
藤堂くんは爽やかで優しい笑顔を見せてくれた。
「本当にありがとう、藤堂くん」
私は嬉しくて思わず満面の笑みになる。
「俊介、苺ちゃんを助けるところ、カッコ良かったぞ! 苺ちゃん、困ったことがあったら俺も頼ってくれよ。もちろん桐ちゃんもな」
一ノ瀬くんはお調子者っぽいけれど頼もしい様子だ。
「はいはい、その時が来たらね」
詩穂は軽く一ノ瀬くんの肩を悪戯っぽくパンと叩いた。詩穂と一ノ瀬くん、割と仲が良さげだ。
「ありがとう、一ノ瀬くん」
その後は順調に進み、何と私達の班が見事一着でゴールした。
先生達がいるポイントで出された問題の正解数も多く、総合一位も確実だということが分かり一ノ瀬くんがはしゃいでいた。
私も藤堂くんがいて、詩穂がいて、一ノ瀬くんがいるこの班で一位になれたことはとても嬉しい。藤堂くんとも、少し距離が縮まった気がするし。
私達は他愛のない会話そしながら他の班が到着するまで待っていた。
しかししばらくすると、異変が起こった。
他の班がぞろぞろと帰って来た時、『俺バラ』ハーレム班の田中さんが悲痛な表情で先生の元へ行ったのだ。
「先生、大変です! 私以外の班の人達が……!」
田中さんの話によると、原田陽太、春宮香恋、財前麗奈が先に勝手に進んで遭難したようだ。
そして二年の先輩達の班も先生達に緊急事態を報告していた。
二年のとある班のメンバーだった雪野碧も遭難したらしい。
この展開……確か『俺バラ』原作でもあった。宿泊研修での遭難回。確か姫花も巻き込まれたやつだ。
私は『俺バラ』ハーレム班から逃れたし、田中さんも『俺バラ』とは無関係だから巻き込まれずには済んだ。でも原作の強制力なのか、『俺バラ』メインキャラの原田陽太、春宮香恋、財前麗奈、雪野碧は見事に遭難していた