その日の放課後。
私は同じフルート担当の先輩にフルート上達の為に何をしたら良いか聞いたり、部活が終わった後も少し残って自主練をした。
その時、音楽室の窓からグラウンドで自主練する藤堂くんの姿が見えた。
春の風になびく、藤堂くんの髪。額の汗を拭い、息を整える姿。ゴールを見据える目は真っ直ぐで真剣そのもの。藤堂くんが勢い良くボールを蹴ると、見事にゴールに入る。
藤堂くんの自主練姿に、私の胸が高鳴るのが分かった。
藤堂くん、やっぱり凄いな。努力する姿勢がカッコいい。
私は気付けば藤堂くんから目を離せなくなっていた。
その時、藤堂くんと目が合った。彼は音楽室にいる私に気付いたようで、軽く手を振ってくれた。私もドキドキしながら藤堂くんに手を振り返す。
やっぱり……私、藤堂くんのことが好きになってる。
イケメンで性格も良くて努力家。惚れてしまう要素ばかりだ。
私も藤堂くんに釣り合うような女の子になりたい。
明日から藤堂くんとまともに話せるかな?
ドキドキと緊張感、そしてワクワクが私の胸の中に生まれていた。
◇◇◇◇
翌日、登校したら原田陽太を見かけた。
……この前酷い態度取っちゃったし、謝っておこうかな。
そうしないと、藤堂くんの前で胸を張れる自分になれない気がした。
「原田くん、おはよう」
「あ……おはよう、苺谷」
原田陽太は驚いたように私を見た。
まあ、この前酷い態度を取ったから当然か。
「この前は酷い態度でごめんね」
「あ、うん、俺、気にしてないから」
原田陽太はホッとしたようだった。
前世『俺バラ』を読んだ記憶によると、確か高校一年の前半は確実に原田陽太は姫花が好きみたいだ。
でも、私にはもう好きな人がいるから。
「じゃあ、また」
私はそのまま教室に入る。
「あ、姫花おはよう」
「おはよう、詩穂」
いつものように、詩穂と他愛のない話を始めていつもの学校生活がスタートした。
◇◇◇◇
「では、今日は五月にある宿泊研修の班決めを行います」
担任からそう言われて私はハッとする。
宿泊研修イベントは『俺バラ』でも描かれていた。
この宿泊研修は一年と二年の学年行事。自然の中での宿泊やレクリエーションを通してクラスの仲を深める目的があるらしい。
前世で流し読みした『俺バラ』では、確か自由に四人班を作って良いみたい。男女混合班も許されている。
「姫花、自由に組めるなら一緒しようよ」
「うん。私も詩穂に声をかけるつもりだったから」
原作漫画だと、私は当然のごとく原田陽太と同じ班になっていた。
でも今の私はもちろん詩穂と同じ班になる。
「後は……他の仲良い女子達はもう四人班組んでるから……」
詩穂が教室を見渡しどうしようか考えている。
確かに、私達が話す仲の良い女子は四人で固まってる。
私もどうしようか悩んでしまう。
そんな時、後ろの席から声がかかった。
「苺ちゃん、桐ちゃん、俺達と組まない?」
一ノ瀬くんだ。
彼は詩穂のことも桐ちゃんとニックネームを付けていた。
そして一ノ瀬くんの隣には藤堂くんもいる。
もしかして、藤堂くんと同じ班になれるの?
緊張するけれど、私は嬉しくなる。
「詩穂、一ノ瀬くんと藤堂くんも二人だし、丁度良いよね?」
私は縋るように詩穂に確認する。
「うん。じゃあそうしよっか。二人共、よろしく」
詩穂は特に嫌な顔一つせず、二人を受け入れた。
「ていうか、桐ちゃんって私のことだったんだ」
「おう。だって桐山さんだから、桐ちゃん。苺谷さんは苺ちゃん。俺センス良くね?」
「あはは。自分で言うな」
詩穂は一ノ瀬くんと打ち解けていた。
「よろしく、苺谷さん」
藤堂くんは相変わらず爽やかな笑顔だ。
「うん、よろしく、藤堂くん」
緊張で上手く笑えたかは分からない。でもいつもの藤堂くんだから、きっと自然な表情であることを信じたい。
私はドキドキする気持ちを抑えていた。
「苺谷さん、昨日自主練してた?」
「うん。藤堂くんもサッカー部で自主練してたよね?」
「うん。自主練中音楽室に苺谷さんが見えたから、思わず手を振ってみた」
「気付いたよ。藤堂くんは……努力していて本当に凄いね。尊敬しちゃう」
少し恥ずかしいけれど、私は真っ直ぐ藤堂くんの目を見て言った。
すると藤堂くんは、私から目を逸らしてはにかんだように笑い、頭を掻く。
「そう言われると……照れるな」
「俊介、デレデレじゃねえか。まあ美人の苺ちゃんにそう言われたら、男なら誰でも嬉しいわな」
一ノ瀬くんは悪戯っぽく藤堂くんを小突いた。
「確かに、入学したばっかの時も思ったけど、姫花って可愛いし美人で最強じゃん」
「ちょっと、恥ずかしいよ」
私はハーレム系ラブコメのヒロインに転生したのだから、やっぱり美人で可愛いに決まっている。でも、いざそう言われると、やっぱり照れてしまう。
それに、詩穂だってスラリと背が高くて綺麗系、カッコいい系だ。
その後、私達は班のメンバーの名前を書いてまとめて担任に宿泊研修用紙を提出した。
私、詩穂、藤堂くん、一ノ瀬くんの班はかなり良さげだ。
チラリと教室全体を確認すると、やっぱり原田陽太、春宮香恋、財前麗奈は同じ班になっていた。『俺バラ』本来の展開なら、私もあの班に入っていた。私が『俺バラ』ハーレム班に入らなかった影響で、代わりにバドミントン部の女子生徒、田中さんがその班になっている。
ああ、確かこのクラス、バドミントン部五人いるから一人だけ別の班に入ったってことか。
田中さんがバドミントン部メンバーからハブられたわけではなさそうだったので、私は安心した。
原田陽太の班にいる田中さんは居心地が悪そうだった。
……何だか申し訳ない。
◇◇◇◇
そして宿泊研修当日になった。
この日は制服ではなく動きやすい私服が許可されている。
だからクラスのみんなは少しオシャレだった。
私も少し気合を入れた私服だ。
シンプルな白いトップスに、ピンクを基調とした小花柄ロングパンツ。そしてグレーのパーカー。
汚れても洗濯しやすいし、自然の中で過ごすから露出も少なめ。
「おはよう、苺谷さん」
「藤堂くん、おはよう」
「私服の苺谷さん、新鮮だ。何というか、凄くおしゃれだし苺谷さんらしい」
「そうかな? ありがとう」
藤堂くんに褒められて嬉しくなってしまう。
「藤堂くんも、おしゃれだね。シンプルでカッコいい」
藤堂くんは無地の白いTシャツに黒いチノパン。そして緑のパーカーを羽織っている。
長身だからスタイルも良く見える。
「ありがとう。中学あたりから俺の私服、姉ちゃん達に散々ダメ出しされて、シンプルなやつに行き着いた」
藤堂くんはその時のことを思い出したのか、苦笑していた。
「おはよう! 二人共早いな」
「おはよう。電車遅れてた」
一ノ瀬くんと詩穂もやって来た。
詩穂は電車が遅れた影響でお疲れ気味だった。
ちなみに一ノ瀬くんは全身ジャージ。サッカー部だからジャージ姿も様になっている。
詩穂はスポーティでカッコいい系のコーデだった。
「おはよう、健人、桐山さん」
「詩穂、一ノ瀬くん、おはよう。詩穂、大変だったね」
私は詩穂を労いながら、四人で他愛のない話をしていた。
バスの中でも私達の班は和気藹々としている。序盤から班員に恵まれているなと感じた。
この調子なら、宿泊研修楽しめそうだ。
私は同じフルート担当の先輩にフルート上達の為に何をしたら良いか聞いたり、部活が終わった後も少し残って自主練をした。
その時、音楽室の窓からグラウンドで自主練する藤堂くんの姿が見えた。
春の風になびく、藤堂くんの髪。額の汗を拭い、息を整える姿。ゴールを見据える目は真っ直ぐで真剣そのもの。藤堂くんが勢い良くボールを蹴ると、見事にゴールに入る。
藤堂くんの自主練姿に、私の胸が高鳴るのが分かった。
藤堂くん、やっぱり凄いな。努力する姿勢がカッコいい。
私は気付けば藤堂くんから目を離せなくなっていた。
その時、藤堂くんと目が合った。彼は音楽室にいる私に気付いたようで、軽く手を振ってくれた。私もドキドキしながら藤堂くんに手を振り返す。
やっぱり……私、藤堂くんのことが好きになってる。
イケメンで性格も良くて努力家。惚れてしまう要素ばかりだ。
私も藤堂くんに釣り合うような女の子になりたい。
明日から藤堂くんとまともに話せるかな?
ドキドキと緊張感、そしてワクワクが私の胸の中に生まれていた。
◇◇◇◇
翌日、登校したら原田陽太を見かけた。
……この前酷い態度取っちゃったし、謝っておこうかな。
そうしないと、藤堂くんの前で胸を張れる自分になれない気がした。
「原田くん、おはよう」
「あ……おはよう、苺谷」
原田陽太は驚いたように私を見た。
まあ、この前酷い態度を取ったから当然か。
「この前は酷い態度でごめんね」
「あ、うん、俺、気にしてないから」
原田陽太はホッとしたようだった。
前世『俺バラ』を読んだ記憶によると、確か高校一年の前半は確実に原田陽太は姫花が好きみたいだ。
でも、私にはもう好きな人がいるから。
「じゃあ、また」
私はそのまま教室に入る。
「あ、姫花おはよう」
「おはよう、詩穂」
いつものように、詩穂と他愛のない話を始めていつもの学校生活がスタートした。
◇◇◇◇
「では、今日は五月にある宿泊研修の班決めを行います」
担任からそう言われて私はハッとする。
宿泊研修イベントは『俺バラ』でも描かれていた。
この宿泊研修は一年と二年の学年行事。自然の中での宿泊やレクリエーションを通してクラスの仲を深める目的があるらしい。
前世で流し読みした『俺バラ』では、確か自由に四人班を作って良いみたい。男女混合班も許されている。
「姫花、自由に組めるなら一緒しようよ」
「うん。私も詩穂に声をかけるつもりだったから」
原作漫画だと、私は当然のごとく原田陽太と同じ班になっていた。
でも今の私はもちろん詩穂と同じ班になる。
「後は……他の仲良い女子達はもう四人班組んでるから……」
詩穂が教室を見渡しどうしようか考えている。
確かに、私達が話す仲の良い女子は四人で固まってる。
私もどうしようか悩んでしまう。
そんな時、後ろの席から声がかかった。
「苺ちゃん、桐ちゃん、俺達と組まない?」
一ノ瀬くんだ。
彼は詩穂のことも桐ちゃんとニックネームを付けていた。
そして一ノ瀬くんの隣には藤堂くんもいる。
もしかして、藤堂くんと同じ班になれるの?
緊張するけれど、私は嬉しくなる。
「詩穂、一ノ瀬くんと藤堂くんも二人だし、丁度良いよね?」
私は縋るように詩穂に確認する。
「うん。じゃあそうしよっか。二人共、よろしく」
詩穂は特に嫌な顔一つせず、二人を受け入れた。
「ていうか、桐ちゃんって私のことだったんだ」
「おう。だって桐山さんだから、桐ちゃん。苺谷さんは苺ちゃん。俺センス良くね?」
「あはは。自分で言うな」
詩穂は一ノ瀬くんと打ち解けていた。
「よろしく、苺谷さん」
藤堂くんは相変わらず爽やかな笑顔だ。
「うん、よろしく、藤堂くん」
緊張で上手く笑えたかは分からない。でもいつもの藤堂くんだから、きっと自然な表情であることを信じたい。
私はドキドキする気持ちを抑えていた。
「苺谷さん、昨日自主練してた?」
「うん。藤堂くんもサッカー部で自主練してたよね?」
「うん。自主練中音楽室に苺谷さんが見えたから、思わず手を振ってみた」
「気付いたよ。藤堂くんは……努力していて本当に凄いね。尊敬しちゃう」
少し恥ずかしいけれど、私は真っ直ぐ藤堂くんの目を見て言った。
すると藤堂くんは、私から目を逸らしてはにかんだように笑い、頭を掻く。
「そう言われると……照れるな」
「俊介、デレデレじゃねえか。まあ美人の苺ちゃんにそう言われたら、男なら誰でも嬉しいわな」
一ノ瀬くんは悪戯っぽく藤堂くんを小突いた。
「確かに、入学したばっかの時も思ったけど、姫花って可愛いし美人で最強じゃん」
「ちょっと、恥ずかしいよ」
私はハーレム系ラブコメのヒロインに転生したのだから、やっぱり美人で可愛いに決まっている。でも、いざそう言われると、やっぱり照れてしまう。
それに、詩穂だってスラリと背が高くて綺麗系、カッコいい系だ。
その後、私達は班のメンバーの名前を書いてまとめて担任に宿泊研修用紙を提出した。
私、詩穂、藤堂くん、一ノ瀬くんの班はかなり良さげだ。
チラリと教室全体を確認すると、やっぱり原田陽太、春宮香恋、財前麗奈は同じ班になっていた。『俺バラ』本来の展開なら、私もあの班に入っていた。私が『俺バラ』ハーレム班に入らなかった影響で、代わりにバドミントン部の女子生徒、田中さんがその班になっている。
ああ、確かこのクラス、バドミントン部五人いるから一人だけ別の班に入ったってことか。
田中さんがバドミントン部メンバーからハブられたわけではなさそうだったので、私は安心した。
原田陽太の班にいる田中さんは居心地が悪そうだった。
……何だか申し訳ない。
◇◇◇◇
そして宿泊研修当日になった。
この日は制服ではなく動きやすい私服が許可されている。
だからクラスのみんなは少しオシャレだった。
私も少し気合を入れた私服だ。
シンプルな白いトップスに、ピンクを基調とした小花柄ロングパンツ。そしてグレーのパーカー。
汚れても洗濯しやすいし、自然の中で過ごすから露出も少なめ。
「おはよう、苺谷さん」
「藤堂くん、おはよう」
「私服の苺谷さん、新鮮だ。何というか、凄くおしゃれだし苺谷さんらしい」
「そうかな? ありがとう」
藤堂くんに褒められて嬉しくなってしまう。
「藤堂くんも、おしゃれだね。シンプルでカッコいい」
藤堂くんは無地の白いTシャツに黒いチノパン。そして緑のパーカーを羽織っている。
長身だからスタイルも良く見える。
「ありがとう。中学あたりから俺の私服、姉ちゃん達に散々ダメ出しされて、シンプルなやつに行き着いた」
藤堂くんはその時のことを思い出したのか、苦笑していた。
「おはよう! 二人共早いな」
「おはよう。電車遅れてた」
一ノ瀬くんと詩穂もやって来た。
詩穂は電車が遅れた影響でお疲れ気味だった。
ちなみに一ノ瀬くんは全身ジャージ。サッカー部だからジャージ姿も様になっている。
詩穂はスポーティでカッコいい系のコーデだった。
「おはよう、健人、桐山さん」
「詩穂、一ノ瀬くん、おはよう。詩穂、大変だったね」
私は詩穂を労いながら、四人で他愛のない話をしていた。
バスの中でも私達の班は和気藹々としている。序盤から班員に恵まれているなと感じた。
この調子なら、宿泊研修楽しめそうだ。