「おはよう」
今日もいつも通り、学校へ行って、唯一の親友と挨拶を交わす。
⋯⋯あ、お願いだから可哀想な目で見ないで? 一応、これでも青春を謳歌してるからねっ??
「美紗〜! 私の天使っ。今日も可愛いねえ、おはよう!」
「みりあちゃんの方が可愛いよ〜」
いつも通り、そんなことを言われるけれど⋯⋯私が可愛いなんて有り得ないと思う。
それに、みりあちゃんの方がだんっぜん可愛い!
「そうかなあ?」って首を傾げて言うみりあちゃんもめちゃくちゃ可愛いもん!!
「んも〜、美紗は自信持ちなね?」
「うん〜」
分かってないなあ、と笑いながら付け足されるけど、一生、自分の容姿に自信が持てないだろうことは、自分が1番分かってる。
⋯⋯あれ? なんでこんっな可愛いみりあちゃんが私と居てくれるんだろう?
中学のとき、同じクラスだったから?
⋯⋯うーん、わかんないや。
「そんな可愛いと襲われちゃうよ?」
「お、おそっ??」
ちょっと考え込んでいたら、みりあちゃんの口から凄く物騒な言葉が聞こえてきて、私の思考は停止しちゃった。
「まあ、流石に、そんなこと無いといいけどね」
「うん、そうだよ〜」
もし襲われでもしたら、怖すぎるよっ。
「⋯⋯あ、今日来る時に東雲くん見かけたんだぁ〜」
「へえ〜」
「やっぱ国宝級イケメンだよねっ」
「確かに?」
私はイケメンとか興味ないけど⋯⋯確かに東雲湊くんは顔が整ってる。
なんでこれで芸能人じゃないの!? っていうくらいに。
正直、芸能人よりも顔が整っているんだけどね。
あ、東雲くんは私達と同じ学校の1年生。私達は2年生。
だから関わりはないから、みりあちゃんはひっそりと東雲くんを推してるんだ。たまーに見かけると拝んでいるらしい。
「ほんっと興味無いねえ」
「うーん、まあね。というかみりあちゃん、私が男の子苦手だって知ってるでしょ?」
「知ってるよっ。でもさ、勿体無くない?」
勿体無い?
「こんな近くに国宝級イケメンがいるのに、拝みもしないことっ!!」
「⋯⋯うん、そうだね〜、あはは」
まあ⋯⋯みりあちゃんらしいねえ。
「⋯⋯でも、恋愛的な好きではないんでしょ?」
「そりゃあもちろん! リアコじゃないし! いや、リアコの否定じゃなくて、東雲くんは目の保養ですから!!」
推し⋯⋯。良くわかんないや。
そもそも、好き、とかがもうよく分からないからなあ。推しなんて多分、一生理解できないっ。
「よし、じゃあこのみりあ様が教えてしんぜよう! 推しっていうのはね、もう全部大好きでね、生きがいっていうか、生きる理由っていうか⋯⋯───」
⋯⋯う、やっぱり分かんない。
分かんないなあ、相変わらず凄い熱弁だなあ、とか思っちゃう。
「───⋯⋯分かったっ!?」
「あははー、うん」
「もー、分かってないなあ。また今度教えるからねっ!!」
そういって、みりあちゃんは出ていった。
あ⋯⋯そうだった。朝はみりあちゃん、委員会があるんだった。
風紀委員、大変そうだなあ⋯⋯。
朝も帰りも校門で挨拶しなきゃいけないし、学年やクラスで行事をするときは前に立って進めなきゃいけない。
私にはできないや。人前に出るとか1番苦手なことだもん。
「おはよう、伊東さん」
「あ⋯⋯篠原くん⋯⋯おはよう」
篠原くんはいわゆる一軍男子。
なのに、私なんかに毎日挨拶してくれる。
それに、そこから会話が弾むことも。⋯⋯多分、席が隣だからだけど。
「今日さー、来る時に可愛い猫見かけたんだ。写真撮ったから見る?」
「え、いいの?」
「もちろん」
「ありがとう。⋯⋯っ、わあ、可愛い⋯⋯!」
なにこれっ、もふもふ。めちゃくちゃ可愛い。
「多分飼われてる猫だと思うんだけどね〜。伊東さん、猫好きなんだ? 俺もだよ」
「大好きだよっ。断然猫派!」
ここに猫派がいるとは⋯⋯! みりあちゃんは犬派だし、私の喋り相手になぜか猫派はいなかったから⋯⋯嬉しい!
「猫飼ってる?」
「ううん⋯⋯。アパートだからね⋯⋯」
「俺も。いつか飼いたいんだけど」
わかる、と返すと同時に、篠原くんといつも一緒にいる男の子が声をかける。
「───海都ー、この前の続きなんだけどさあ。⋯⋯あ、伊東さんいたんだ。ごめん、気付かなかった」
「大丈夫です⋯⋯!」
話が始まったから、急いで離れる。
篠崎くんも、お友達と話していた方がいいよねっ。
朝は早めに登校してきてるから、時間に余裕があるんだよなあ⋯⋯。
うん、昨日、図書室で借りた本でも読んでいよう。
物語に熱中していれば、一人の時間なんて寂しくないんだっ。
今日読んだのは、この前買った、映画化して話題の小説。
映画観に行けないからなあ⋯⋯。映画は高いからね。
それに、私は本を読むのが好きだから、全然辛くない。
そして、読み進めていく。
⋯⋯ラストへ、近付いてきた。
衝撃のラストで物語は終わり⋯⋯
「っ⋯⋯ぁ⋯⋯」
───私は、ここが学校というのを忘れて、泣いた。
「っえ、伊東さん!? 大丈夫?!」
「ぁ⋯⋯ごめ、なさ⋯⋯」
その後、本を読んで泣いたということを話したらちょっと笑われたのは思い出だっ。あはは⋯⋯。
が、学校で泣くのはよく無かったよね。みんなに心配かけちゃう。
「───美紗! 挨拶運動終わったっ!」
「お疲れ様〜」
⋯⋯いつの間にか、朝のホームルームが始まる時間が来ちゃってる。早いなあ。
本仕舞おう。
「はい、じゃあ席に着いてね〜」
担任の先生も来ていて、みりあちゃんは前に行く。
みりあちゃんは風紀委員⋯⋯すなわち、学級委員長だから、朝のホームルーム担当。
副委員長が帰りのホームルームと帰りの挨拶運動。ちなみに副委員長は篠原くん。
⋯⋯大変だなあ。
「朝のホームルームを始めます。起立、気を付け、礼───」
⋯⋯そして、いつも通りに1日がすぎると思っていたこの日。
偶然通りかかった廊下で、事件は起きる⋯⋯───。
「っあ、美紗! 東雲くんいるよっ!!」
「え?あ、ほんとだねえ」
やっぱり女の子にキャーキャー騒がれてる。
遠目でそれを眺めていた時、
「⋯⋯いた」
彼がポツンと零した言葉が、やけに大きく私の耳に届き⋯⋯
「み、みみみ美紗!? こっち来たよ、!? いや、勘違いかも⋯⋯!?!?」
───彼がこっちへやってきた。
え、な、なんでっ!?
2人でアワアワしていると、東雲くんは私達⋯⋯いや、私の目の前に来て微笑んだ。
「先輩っ。放課後、俺、先輩のクラス行くので待ってて貰えますか?」
⋯⋯え??
「いいですかね⋯⋯?」
えーと、伊東美紗、15歳、高2。
学校1のイケメンに何故か構われてます。
⋯⋯な、何がどうしてこうなった??
「⋯⋯えっと」
「───もちろんです!! 美紗いいよねっ?!」
「あ、ハイ」
⋯⋯丁重にお断りしようとしたのに、みりあちゃんの圧というか、勢いに押されてOKしてしまった⋯⋯。
だからこんなにも周りの人達がさっきよりもキャーキャー騒いでるんだよお⋯⋯。
目立たずにひっそり高校生活をしていこうと思ってたのに⋯⋯。
「ありがとうございます。では、また」
⋯⋯彼は嵐のように一瞬で来て、去っていった⋯⋯。
まって⋯⋯なんで私が? 可愛くないし、明るくないし、みりあちゃんの方が絶対良いのに。
「っ⋯⋯美紗凄いよっ!! 東雲くんに見初められちゃった!?」
「ええ⋯⋯違うと思うよ〜?」
「いやいや、美紗可愛いからさっ! 自信持って!」
私はちょっとヘラヘラして躱しながら、2人で元々の目的だったお手洗いへと歩いていく。
「っ、はあ〜、あれが国宝級イケメンか⋯⋯。美紗のお陰で、超至近距離で拝めた。ありがとうっ」
「どういたしまして⋯⋯?」
よく分からないお礼を言われている気がするんだよなあ⋯⋯あはは。
「じゃあ、放課後楽しんでおいで!私は2人がくっつくの楽しみにしてるっ」
「くっつかないよ⋯⋯」
そんな軽口を叩き合いながら迎えた放課後。
私は今までに無いほど緊張しております。⋯⋯やばい。
「⋯⋯遅れてすみません」
っ、あ、来た。
「う、ううん。丁度今日、私のクラスが早かっただけだし」
「⋯⋯じゃあ、グッドラック」
そう、みりあちゃんが小声で呟いて、去っていく。⋯⋯もう。
「じゃあ⋯⋯ちょっと俺に着いてきて下さい」
「うん、分かったよ」
そうして着いたのは⋯⋯普段使わない非常階段。
「ここ、授業抜け出したときとか、お昼ご飯食べる時によく来る穴場スポットなんです」
「そうなんだね〜⋯⋯」
⋯⋯東雲くんって、授業抜け出したりするんだ? 意外とやんちゃなんだなあ⋯⋯。
「⋯⋯先輩。なんで、俺が先輩をここに呼んだと思いますか?」
「ん〜」
⋯⋯そんなの、分からないよ⋯⋯なんていう本音は隠す。
「ね、先輩」
「どうしたの?」
数拍遅れて彼は言う。
「好きです」
───⋯⋯と。
「何言ってる、の?」
「⋯⋯俺、幸せにします」
もう、私の頭はキャパオーバーで。
「俺と付き合ってください」
へ???
意味が⋯⋯わかんないよ⋯⋯。
ほとんど初対面なのに、こんなこと⋯⋯。
───もう、どうすればいいのか分からなくて⋯⋯私は、逃げ出してしまった。
「っ、はあ、はあ⋯⋯。はああ〜⋯⋯」
まさか、本当に、みりあちゃんが言っていたみたいに告白⋯⋯だなんて。
「信じられないよ⋯⋯」
でも、さっき、彼の瞳は真っ直ぐ私を見ていた。信じられない程、まっすぐ。
そして、彼が少し頬を染めて、私に愛の告白をしていた。
⋯⋯信じられなくてもこれが現実なんだ、と遅れて理解する。
「⋯⋯申し訳ないけど帰ろう」
荷物は教室に置いたままで東雲くんに着いて行ったから、教室まで戻らなきゃいけない。
「憂鬱だなあ⋯⋯」
「どうしたの?」
お、おばけっ?!
「っ、!! ⋯⋯篠原くんか」
「篠崎くんか、は酷いなあ」
だ、だって、驚かすから、と反撃する。
篠崎くんが気配なく近付いてくるんだもん。急に声かけられたら驚くよっ。
⋯⋯そういえば、挨拶運動終わったのかな? でも、どうしてここに?
「さっき、あそこの窓の近くにいるくらーい顔してる伊東さん見かけちゃって。
急いで追いかけてきたよ」
「そんな暗い顔してるかな?」
窓越しにそんなにわかるほど⋯⋯?
「うん、してる」
「⋯⋯そっか」
断言されちゃった。
うう、早く元の私に戻さなきゃ。こんな動揺してるの⋯⋯なんて、おかしいから。
『好きです』『俺、幸せにします』『俺と付き合ってください』
「っ⋯⋯」
思い出すだけで赤面するのがわかる。
「伊東さん、どうしたの?」
「あ、や、な、なんでもないよっ」
じゃあねっと急いで告げて、篠原くんからも逃げる。
っ、はあ〜、やばいっ。挙動不審の変な人だと思われた。
でも、こうする他無かったし⋯⋯。
心の中で反省会をしながら教室へ向かう。
ガラガラ───。
「⋯⋯よかった」
教室には誰もいなくて、安心した。
すぐに教室から出ようとする時に、ふと疑問を抱く。
⋯⋯人なんて、ここにはいないのに、なんで声が聞こえるんだろう、と。
少し恐れながら、聞こえる方⋯⋯窓の方へ行く。すると、部活をしている人達が見える。
あ⋯⋯そっか部活かあ。部活してないから、わかんなかった。
⋯⋯っていうか、あれ? 東雲くんって部活してないのかな?
まあ、私には関係の無いことだと割り切って、荷物を背負い、家へと歩き出す。
⋯⋯次の日はすぐやって来る。
「みーさっ、お昼ご飯食べよ?」
「う───」
うん、食べよう。⋯⋯そう言おうとした、のに。
「───真田先輩、すみません。美紗先輩と食べたいと思っていて⋯⋯大丈夫ですか?」
え? 東雲、くん?
「え!? 東雲くんが私の名前をっ?! 全然大丈夫だから行ってきてっ!」
「ありがとうございます。美紗先輩、こっちへ」
⋯⋯へ?
え、あ、みりあちゃん?
「あ、や、その⋯⋯」
「俺とは嫌ですか?」
⋯⋯そんなの、ずるいよ。
「嫌じゃ⋯⋯ない、よ」
それからは無言が続いて。彼はどんどん進んでいくから、見失わないようについていく。
⋯⋯多分、行き先は昨日行ったあそこだろう。あそこでお昼ご飯食べるって言ってたし。
「⋯⋯先輩」
「ひゃい!」
考えてたら急に呼ばれて、変な声が⋯⋯。
は、恥ずかしい⋯⋯っ。
「どうしたんです? 可愛いですね」
「かっ、かわ⋯⋯?」
まって、まってっ。東雲くんは、なんでこんなに⋯⋯っ。
「まーた顔真っ赤にしちゃって。もしかして、俺の事好きになりました?」
「ち、違うからっ。ただの羞恥心だからっ」
えー? なんて言って聞いてくれない東雲くんはほんっと小悪魔。
⋯⋯というか、私達まだほとんど初対面ですよね?
いや、初対面で告白されてるし、なんかもう、何もかもおかしいんだけどっ。
「⋯⋯ご飯食べますか」
「そ、だね。いただきます」
「いただきます」
黙々と食べ進める。
「⋯⋯東雲くん、パンだけ?」
「はい、そうですよ。時間ないので⋯⋯」
「そっか⋯⋯」
時間無いのはどうしようも無いからね⋯⋯。
「そうだ。先輩のお弁当のおかず、食べてもいいですか?」
「えっ? い、いいよ」
「え??」
それくらいならいいかなと思って許可をしたら、さっきの私以上に驚いている東雲くん。
「⋯⋯俺以外には食べさせないでくださいね?」
「え? う、うん。分かった」
分かってない、と肩をすくめられてもなあ⋯⋯。って、これ、みりあちゃんみたい。
「ふふっ」
「どうしたんです?」
「んー?面白いの発見したからさ、ちょっと」
後でみりあちゃんに教えてあげよう。推しと同じところがあって、喜ぶかな?
「それって何です?」
「んと⋯⋯私の友達のこと」
「ああ、あのいつも隣にいる人ですか?」
「うん」
へー、と呟いている。もしかして、気になってる?
「みりあちゃんって言うんだけどね、東雲くんのこと推してるんだって───」
そしてご飯を食べながら、みりあちゃんについて語り出す。
「⋯⋯へえ。ね、先輩は? 俺の事好き?」
へっ?!
「よく分からないよ⋯⋯。まだ会ってから少ししか経ってないでしょっ?」
「そうですね。じゃあ、これから早く好きになって貰えるようにアピールします」
あ、アピール⋯⋯?
今でさえ、私の心臓が壊れちゃいそうなんですけどっ? ほら、こんなに早くトクトク打ち付けている。
「俺が好きなのは先輩だけです」
その最後の1音に重ねるように予鈴が鳴る。
「⋯⋯戻りましょうか。あ、今日も教室で待っててください。一緒に帰りたいです。いいですか?」
「⋯⋯いいよ」
どこかにこの時間を楽しんでいる私がいる。
⋯⋯私、男の子が怖いはずなのに。なぜか東雲くんだけは、最初から大丈夫だった。
篠崎くんだって、毎日話しかけられるうちに、長い年月をかけて大丈夫になっていったのに。
「っ! じゃあ、また!!」
⋯⋯東雲くん、凄い嬉しそう。ふふっ、可愛いなあ。
「⋯⋯みーさっ!! どうだった?!」
「普通に喋ってただけ、だよ?」
どうしてそんなにニマニマしてるの、?
「っあ! あのねっ、みりあちゃんと東雲くん、似てるところあったよ」
その報告をする。
「え〜? あ、でも確かに美紗への対応同じなら、好意寄せられてるんじゃないのっ?? 私は友情だけど」
「っ⋯⋯!」
え? やっぱり? と聞かれる。
⋯⋯まだ、告白されたことは言えてなかったんだよね⋯⋯。いい機会だし、話そうかな。
「こ、ここはちょっと⋯⋯」
「あ、あのトイレ裏のとこでいい?」
「うん」
「よし、じゃあ、このみりあ様に話しなさいっ」
「えっと、ね⋯⋯昨日の放課後⋯⋯東雲くんに、告白、されました⋯⋯っ」
キャー! とみりあちゃんが叫び出す。え、えっと⋯⋯?
「それで、返事はっ?!」
「⋯⋯怖くて、逃げ出しちゃった」
「あらら。じゃあ、本音は? どっち?」
え⋯⋯?
「わ、かんない⋯⋯の」
分かんなくて、怖い。
まだ過ごしたのは少しの時間だけど、一緒に居るのが楽、とか、一緒に居たい、とかは思う。
⋯⋯もし、OKして。それが「友情」だと気付いてしまえば、どうなる?
それに、本当に恋愛感情で好きだとする。女の子達からの嫉妬は?
⋯⋯っ、もう、あんなの嫌だよ⋯⋯。
「そう。じゃあ、少しずつ距離縮めてけばいいんじゃない?
良い返事を出せなくても、出したとしても、私も東雲くんも、周りもどうこう言う資格は無いから。
⋯⋯距離縮めるのは私が東雲くんと喋れるかもだからだけどー!」
⋯⋯だから、無理しないで。と告げられる。
⋯⋯みりあちゃんは中学同じだから、否応無しに私の噂、聞いたことあるんだろう、ね。
「⋯⋯あ、そういえば」
⋯⋯? どうしたんだろう?
「美紗、男子怖いんでしょ? 東雲くんは大丈夫なの?」
「あ、それね。私もよく分からないんだけど⋯⋯はじめましての時から、大丈夫、だった」
なんで、だろう? この人は大丈夫って思えたのかな⋯⋯?
でも、1番警戒すべきような人なのに。
そう⋯⋯モテる人を警戒しなきゃいけない。
近付いたらいけないし、好きになる、なんか駄目。相手から絡まれるのも駄目。
⋯⋯もう、あんな思いはしたくないから。
「え〜? 私は2人を推すよっ!!」
私も⋯⋯?
「カプ推しってやつ!」
カプ推し⋯⋯? 何それ⋯⋯。
「まーまー、これからもよろしくね!」
「え? う、うん⋯⋯?」
よく分からないこと続きだけど、まあ、いいのかな⋯⋯?
「教えてくれてありがと! じゃ、戻ろ」
「うん⋯⋯!」
そして、放課後も、彼は約束通り来た。
「せーんぱい」
「わっ、東雲くん⋯⋯」
驚いて声を出すと、丁度隣にいた篠原くんも声を出す。
「⋯⋯東雲? うわー、ほんとにイケメンじゃん」
「⋯⋯篠原先輩、でしたっけ。こんにちは」
「え、俺の事知ってんのー?」
「ええ、一応」
あれ、知り合いだった?
いや、内容からしてお互いに噂を聞いたことある、とかかなあ。
「じゃ、行きましょ」
え? あ、もういいのかな⋯⋯?
「⋯⋯うん」
「え、伊東さん、東雲と付き合ってんの?」
⋯⋯? どうしてそんなこと聞くんだろう?
というか、なんでそんな驚いたような、悔しいような顔⋯⋯。
「ちが───」
「───そうです」
えっ!?!? 私の言葉をかき消すかのそうに告げた東雲くん。まって! 違うよ⋯⋯!?
「⋯⋯そっか。じゃーね、伊東さん」
その言葉に送り出されて、私達は歩き出す。
「⋯⋯ちょっ、東雲くん!? なんでああ言ったの?」
「んー、秘密です」
秘密⋯⋯って。
付き合ってない、のに。
「先輩も、嫌なら嫌って言いましょうね? 言わなかったなら、オーケーしたってことと解釈しますから」
⋯⋯妖艶に微笑む、美麗な彼に、もうきっと、私は虜になっている。
「っ⋯⋯」
誤魔化したくて、話を逸らす。
ほぼ初対面の、しかもイケメンに、虜になるなんてっ⋯⋯。
「⋯⋯どこ行くの?」
「デートしようかと思いまして」
「でっ!?」
デート⋯⋯!? 付き合ってない、のに?
「異性の2人で出かけるって、デートでしょう?
ほら、このスイーツ、食べたいんですけど、男1人だと食べにくいので」
お願いします、と付け足されても⋯⋯うう。そんなの、断れないじゃないか⋯⋯。
「⋯⋯いいよ」
「えっ!? ありがとうございます!!」
⋯⋯もう、東雲くんのこの満面の笑みを見たら、全てがどうでも良くなってしまった。
そして、お店へ行って、頼んだスイーツが届く。
「⋯⋯え?」
な、なんか凄すぎる⋯⋯。
これが、アフタヌーンティー⋯⋯。写真でしか見たこと無かったから、嬉しすぎる。
内容は、サンドイッチ、スコーン、ケーキ、マカロン、ワッフル、紅茶。
⋯⋯豪華すぎないっ?!
「食べましょう?」
「う、うん」
あ、でも。
「私、作法とかわかんない⋯⋯」
「大丈夫です。多分、違ってても何も言われませんし、リラックスしながら食べましょう?」
それでいいのかな⋯⋯?
「何食べたいですか?」
「えっ、あ、ま、マカロン食べたい」
⋯⋯実は無類のマカロン好きなんだよね、私。
「はい、どうぞ」
「へっ?」
差し出されたマカロンは、私の口近くへ運ばれている。
これって⋯⋯もしかしてっ⋯⋯あ、あーん⋯⋯みたいな、?
「食べません?」
「たっ、食べますっ」
マカロンの誘惑に抗えず、東雲くんのあーんで食べさせてもらう。
「はい、あーん」
「っ⋯⋯ぉい、し」
でも⋯⋯恥ずかしいっ。
「なんで顔隠すんです? 可愛いのに」
「っ⋯⋯!」
恥ずかしげもなく口にする東雲くんを見ていると、逆に私が恥ずかしくなっちゃうよ⋯⋯!
「せーんぱい、俺こっちのマカロン食べますね」
「う、ん」
それからは、普通の会話をしながら食べ進めていく。
「あ、先輩って、明後日空いてます?」
明後日? 日曜日だよね?
「確か空いてたけど⋯⋯どうしたの?」
そして、不敵な笑みを浮かべて東雲くんは言った。
「先輩が俺の事好きになるように、デートに行きましょう」
⋯⋯と。
内容が内容だから少し渋ったけれど、東雲くんと遊びたい、とは思っていて、了承した。
⋯⋯改めて考えると、私と東雲くんってどういう関係なんだろう?
私は、まだ恋愛感情で好き⋯⋯なのかはわからないし。
あっ、まって。
私、東雲くんと並べるほど可愛くないし、メイクで誤魔化すとかも⋯⋯メイク普段してないから無理な気がする。
可愛い服もあんまり持ってない⋯⋯。
どうしようか、と悩んでいたらあっという間に次の日は来てしまい、
とりあえずもっている中で1番可愛い服と、ナチュラルなメイクをしていく。普段は下ろしている髪も後ろで1つに束ねる。
⋯⋯気合い入れて来すぎだと、思われちゃうかな。
悩みながらも足を進め、辿り着いた待ち合わせ場所。
「えっ、東雲くん、ごめんね、遅かった?」
「いえ。先輩も充分早いですよ。俺は先輩を待たせたくなかっただけなので気にしないで下さい」
待ち合わせしていた時刻よりまだ20分も早いのに⋯⋯。こういうさり気ない気遣いは凄いと思う。
「⋯⋯先輩の私服、凄い可愛いです。メイクも、髪も、全部全部可愛いです」
「っぇ。あ、えと、東雲くんも凄い、かっこいい⋯⋯よ⋯⋯?」
東雲くんの服装は、ラフだけど、凄くお洒落で似合っている。
いや、東雲くんは全てのお洋服を着こなしそうなんだけどっ。
「ほんとですか? 嬉しいです」
その後も甘い言葉を言い続ける東雲くんに私はたじたじで、よく分からない返事しか返せない。
「じゃ、水族館、行きましょう」
「あ⋯⋯水族館なんだ」
「先輩、嫌でしたか? 変更しますね」
「違うよ! 水族館は好き」
それなら良かったですけど⋯⋯と言われる。
それから、電車に乗って、揺られて、改札を出て、少し歩いて。
悲しい思い出がある水族館へ、やってきた。
「俺、小学生ぶりかもです、ここ来るの」
「私は中学ぶりかな」
「これ綺麗ですね」「わっ、変な形⋯⋯へー、こんな名前なんだ」「これ、初めて見ましたっ!」
2人で海洋生物に夢中になっていた。
だから⋯⋯気付かなかった。
後ろから近付いてくる、彼に。
「えっ? うわー、伊東じゃん」
奇遇ー、と明るく話しかけてくる、彼。
彼は⋯⋯中学の時、運悪く、3年連続同じクラスだった、人。
まさか、またここで、あの思い出のここで、会うなんて。
私が硬直したのが分かったのか、スっと東雲くんが私の前へ出てくる。
「あなた達、誰ですか?」
あなた達⋯⋯? ああ、陸くんの友達かな。
「えー、俺ら中学のときちょー仲良かったよな〜?」
そうそう、と彼の取り巻き達が言う。
「⋯⋯先輩、ほんとですか?」
「⋯⋯ぇ⋯⋯と⋯⋯」
思い出すのは、彼と過ごした日々。一言で表せば⋯⋯
───地獄、だった。
「……ちが、う。仲良くなんか、無かった」
陸くん達は⋯⋯陸くん達は、私を友達としてなんか、見てない。
「⋯⋯分かりました、あっち行きましょう」
東雲くんは私の手を引いて、陸くんの前から連れ出してくれた。
後ろからは陸くん達の制止の声が聞こえたけれど、私達は⋯⋯ううん、東雲くんは、止まらなかった。
ひとまず、少し離れたところにあったベンチに座る。
「東雲くん、あり、がとっ」
「いえ、俺は大丈夫です」
ほんと、優しいなあ⋯⋯。
「⋯⋯あの人達と、何があったんです?
あ、や、もちろん言わなくても良いですけど⋯⋯先輩、苦しそうなので」
⋯⋯何があった、か。
「⋯⋯私ね、陸くんと中学の時、3年連続同じクラスだったの。たまに喋ってたから、校外学習のときも同じグループだった。
ほら、私こんな抜けてるからさあ、中1なのに迷子になっちゃって」
「⋯⋯それ、グループの人達はなんで気付かなかったんです?」
怒りを孕んだ声に、私が驚く。
「え⋯⋯と、みんな、私より展示の方が興味あったみたい」
そりゃあそうだよね、と自虐的な言葉を並べる。
「そんなっ⋯⋯おかしい」
⋯⋯みんな、東雲くんみたいな性格だったら、いじめとか無いのに。
「⋯⋯それで、先輩は置いてかれて迷子になったんですね?」
「うん」
チラッと東雲くんの顔を伺う。
⋯⋯え? 彼の顔は、怒りしか、無かった。もしかして⋯⋯私のために怒ってる?
「⋯⋯先輩」
「どうしたの?」
「俺、先輩のこと大好きなんで」
え?
「だから、何でも受け止めます。何でも聞きます。頼って、下さい」
あ⋯⋯。
「っ⋯⋯あ、りがとっ」
⋯⋯こんなに自分が泣き虫だなんて、東雲くんに出会ってから、知った。
「⋯⋯じゃあ、もう1回まわりましょうか?」
「うんっ」
ベンチの近くの展示物から見て回る。
「はー⋯⋯かわい⋯⋯」
どれだろう?
「わ⋯⋯可愛いっ」
探さなくてもすぐに分かった。これでしょっ。目の前にいる、カワウソ。可愛すぎる⋯⋯!!
「先輩、なんか勘違いしてません?」
⋯⋯? なんだか、不服そうな声音。どうしたんだろう、?
「可愛いのは先輩ですよ?」
「っぇ」
わ、私?こんな可愛いカワウソよりも⋯⋯?
「東雲くんは優しいね」
「は、はいっ? 俺が??」
「うん」
東雲くんは優しいよ⋯⋯。こんなにも、私を気にかけてくれるんだもん。
「っ⋯⋯」
あれ、照れてる?
「か、かわいっ」
抑えきれなかった。流石に可愛すぎて⋯⋯!
「⋯⋯かっこいい、の方が嬉しいんですけど」
「もちろん東雲くんはかっこいいよ?」
「っ⋯⋯!」
⋯⋯?
「⋯⋯そうやって、無意識に言うの⋯⋯ほとタチ悪い⋯⋯やめてください⋯⋯っ」
「無意識⋯⋯?」
意識あるし、私は天然?じゃないし⋯⋯違うと思うんだけどなあ。
「⋯⋯え? あー⋯⋯。
先輩、ほら、あそこの魚、綺麗ですねー」
「ほんとだ!」
⋯⋯少し呆れられたような視線なのは気のせい?
「⋯⋯あ、あの魚、凄い派手な色⋯⋯!」
「ああ、あれ確か毒ありますよ」
えっ⋯⋯こ、怖っ。
こんな綺麗なのに⋯⋯毒かあ⋯⋯。まあ⋯⋯綺麗だからこそ、かもだけど。
「ほら、あっちも見ましょう?」
「うんっ!」
どんどん回っていく。
楽しい時間はやっぱりすぐ終わってしまうように感じてしまって、それが凄く残念。
「⋯⋯じゃあ、お土産コーナー寄ってく?」
「そうですね」
何買っていこう? みりあちゃんにお菓子かな。あとなんかいいものあったら買おう。
そしてお土産コーナーに足を踏み入れた。
⋯⋯まって? このお菓子可愛い。これも! あ、あれいいなあ⋯⋯。
⋯⋯全部可愛くて美味しそうなお菓子なんだけど⋯⋯。
「せーんぱい。それ、真田先輩用ですか?」
「うん。でも、決まらなくて⋯⋯」
「じゃっ、俺も一緒に考えますよ」
えっ? いいの!?
「ありがとう!」
ひとまず、今候補のものを東雲くんに見せて、絞り込んでいく。
「カワウソ、みりあちゃん好きだから⋯⋯」「このイラスト可愛いから⋯⋯」
とか私は理由を述べる。
そして東雲くんは悩みまくっている。だよね!
⋯⋯そして悩みに悩んだ結果、数分後───
「⋯⋯カワウソ、好きならこのクッキーが良いんじゃないでしょうか? ⋯⋯あ、あと、すごくクッキー美味しそうなので」
結論を出した。
「うん、そうするね、ありがとう」
それからはお土産コーナーをちょっと回って、お会計をした。
可愛いキーホルダーはあったんだけど⋯⋯高かったからなあ⋯⋯。
「⋯⋯先輩」
「どしたの?」
東雲くん、緊張してる⋯⋯?
「こ、これ、どうぞ。今日付き合ってくれたお礼です」
「⋯⋯えっ、いや、貰えないよ!」
貰ったのは⋯⋯さっき見ていたキーホルダー。
確かに欲しいなあとは思ってた⋯⋯けど。レジンで作った海、みたいな作品で凄く高かった。
「いやいや、貰って下さい。ほんと、お礼なんで」
「お礼って⋯⋯」
渋っていると、東雲くんがずるーい一言を付け足した。
「俺、そういうの使わないんで、先輩貰ってくれなきゃ困ります」
「⋯⋯っ、じゃあ、ありがたーく貰っとくね」
東雲くんはやっぱりずるい。
私がどう言われたらどうするのか、全部分かってる。
それに、この満面の笑み。⋯⋯もう、何も言えないじゃん⋯⋯。
「じゃあ、そろそろ帰りますか」
「そうだね⋯⋯」
そして、また、電車に揺られて、改札を出て⋯⋯断ったけれど、家まで送ってくれて。
東雲くんとのデートはひとまず幕を下ろした。
「───⋯⋯あっ、いた、先輩。おはようございます」
「東雲くん⋯⋯? おはよう。
えっと⋯⋯なんでここに?」
そう、そうなのだ。東雲くんがここ⋯⋯校門に立ち止まっている理由が分からない。
東雲くんは人気だから、女の子達で、校門が通りにくいほど厚い壁ができている。
「もちろん先輩に会うためです」
え⋯⋯と、そういうセリフ言うと、周りの声が凄いよ⋯⋯?
「ほら、教室行きましょ」
「うん⋯⋯?」
流されている気がして仕方ない。
それでも、この流れに抗えるとは思わないし、抗いたくないから、私は流されたままでいる。
⋯⋯相変わらず、ずるいなあ、私。
教室にはもう準備を終えたみりあちゃんがいる。
あれ? みりあちゃん、いつもより早い⋯⋯?
「みりあちゃん、おはよう」
「おはよう、美紗⋯⋯って、し、し、し、東雲くん!?」
みりあちゃんの反応って、面白い。
私の口からクスッという笑い声が零れて、つられて東雲くんも笑った。
「えっ、あっ、東雲くんの笑み⋯⋯!!!」
⋯⋯みりあちゃん、完璧にオタクじゃん⋯⋯。いいんだけどね? そっちの方がキラキラしてて可愛いし!
「⋯⋯先輩、真田先輩っていつもこんな感じなんです?」
あはは⋯⋯東雲くんも気になるよね⋯⋯。
「私と居る時のいつも、ではないかな」
「真田先輩⋯⋯」
東雲くんの言動一つ一つを噛み締めているのは⋯⋯さ、流石に変質者じゃっ⋯⋯。
いや、オタクとはこういうもの? 推しを目の前にしたらみんなこうなるもの?
⋯⋯私はオタクじゃないと思うし、推しなんていないしで、分からない答えを1人悶々と考え続ける。
「うーん⋯⋯」
「どうしたんです、先輩」
「あ、いや、もう分かんないからいいや」
⋯⋯潔く諦めようかな。うん、そうしよう。
東雲くんは頭にハテナマークを浮かべているけど、私も説明がよく分からないし、やめておこっと。
「あ、そうだ、みりあちゃん」
「はひっ?! どうしたの? 天使・美紗!!」
⋯⋯やばい、本格的にやばい。
みりあちゃんのこと無視した方がいいかな、私。恐怖すら感じるんだけど⋯⋯。
ごめんね、みりあちゃん⋯⋯。
あ、東雲くんもちょっと冷たい視線。
それでか、みりあちゃんが大分元に戻った。
「えーとー、美紗ごめんね⋯⋯?」
「うん⋯⋯良いよ⋯⋯」
ま、まあ、ちょーっと、怖いのはやめて欲しいけどっ。
「はー、真田先輩って面白いんですね」
「えっ?!」
待って駄目⋯⋯!! みりあちゃんが今、昇天しかけた。
「⋯⋯東雲くんじゃあね。
ちょ、ちょっとみりあちゃん⋯⋯!」
なんかもうどうにもなんないだろうと思い、東雲くんに別れを告げて、みりあちゃんを連れて人が少ない所へ。
コソッと、昨日のあのお菓子を渡しちゃおうと思って。
「⋯⋯美紗〜〜〜!!! なんかもう、凄すぎた!!! イケメン!!!!」
「うん⋯⋯そっか。で、これどうぞ」
なんかもう無理矢理突っ切って、渡す。
「えっ!?!? ありがとう!!!!」
「あーうん、どういたしまして。ちなみにこれ、東雲くんと選んだやつ───」
「えっ!? 出かけたの!? 東雲くんと! ってか東雲くんが選んだお菓子⋯⋯!!」
あー、駄目だったかも、この選択。
みりあちゃんがおかしくなっちゃう。
「ってか東雲くんお洒落すぎ!!! 2人ともありがとおおおおお」
「え、あ、うん」
勢い凄いなあ⋯⋯あはは。
「ねねっ、2人でどこ行ってきたの? あ、水族館か。どうだった??」
「え、あ、うん、楽しかったよ⋯⋯!」
⋯⋯陸くんにも、会ったけど、うん、大丈夫。私はあれを乗り越えられた、気がする。
⋯⋯東雲くんのおかげで。
「実はね、陸くん⋯⋯あ、間宮くんね」
「⋯⋯間宮ね。間宮がどうしたの?」
⋯⋯ごめんね、みりあちゃん。テンション下げさせちゃって⋯⋯。
こんな話、やだ、よね。でも、言わせて欲しい。
───私はもう、立ち直れたんだよ⋯⋯って。
「実は、水族館で⋯⋯会ったの」
「えっ⋯⋯大丈夫、だった⋯⋯?」
⋯⋯大丈夫、だったのかなあ、あれは。
「多分⋯⋯?
東雲くんがね、救ってくれたの。だから、私はもう⋯⋯大丈夫」
「そう⋯⋯。
良かった⋯⋯良かった⋯⋯!」
じゃあー、と一気に空気を変えるみりあちゃん。
まって、この空気って⋯⋯。
「好きになった?? 東雲くんのこと!」
やっぱりそれかあ⋯⋯あはは。
「ん⋯⋯まだ、わかんない。
───けど、ちょっと、好きになりたいと思った、よ」
───⋯⋯これが、私の本音です。
今日もいつも通り、学校へ行って、唯一の親友と挨拶を交わす。
⋯⋯あ、お願いだから可哀想な目で見ないで? 一応、これでも青春を謳歌してるからねっ??
「美紗〜! 私の天使っ。今日も可愛いねえ、おはよう!」
「みりあちゃんの方が可愛いよ〜」
いつも通り、そんなことを言われるけれど⋯⋯私が可愛いなんて有り得ないと思う。
それに、みりあちゃんの方がだんっぜん可愛い!
「そうかなあ?」って首を傾げて言うみりあちゃんもめちゃくちゃ可愛いもん!!
「んも〜、美紗は自信持ちなね?」
「うん〜」
分かってないなあ、と笑いながら付け足されるけど、一生、自分の容姿に自信が持てないだろうことは、自分が1番分かってる。
⋯⋯あれ? なんでこんっな可愛いみりあちゃんが私と居てくれるんだろう?
中学のとき、同じクラスだったから?
⋯⋯うーん、わかんないや。
「そんな可愛いと襲われちゃうよ?」
「お、おそっ??」
ちょっと考え込んでいたら、みりあちゃんの口から凄く物騒な言葉が聞こえてきて、私の思考は停止しちゃった。
「まあ、流石に、そんなこと無いといいけどね」
「うん、そうだよ〜」
もし襲われでもしたら、怖すぎるよっ。
「⋯⋯あ、今日来る時に東雲くん見かけたんだぁ〜」
「へえ〜」
「やっぱ国宝級イケメンだよねっ」
「確かに?」
私はイケメンとか興味ないけど⋯⋯確かに東雲湊くんは顔が整ってる。
なんでこれで芸能人じゃないの!? っていうくらいに。
正直、芸能人よりも顔が整っているんだけどね。
あ、東雲くんは私達と同じ学校の1年生。私達は2年生。
だから関わりはないから、みりあちゃんはひっそりと東雲くんを推してるんだ。たまーに見かけると拝んでいるらしい。
「ほんっと興味無いねえ」
「うーん、まあね。というかみりあちゃん、私が男の子苦手だって知ってるでしょ?」
「知ってるよっ。でもさ、勿体無くない?」
勿体無い?
「こんな近くに国宝級イケメンがいるのに、拝みもしないことっ!!」
「⋯⋯うん、そうだね〜、あはは」
まあ⋯⋯みりあちゃんらしいねえ。
「⋯⋯でも、恋愛的な好きではないんでしょ?」
「そりゃあもちろん! リアコじゃないし! いや、リアコの否定じゃなくて、東雲くんは目の保養ですから!!」
推し⋯⋯。良くわかんないや。
そもそも、好き、とかがもうよく分からないからなあ。推しなんて多分、一生理解できないっ。
「よし、じゃあこのみりあ様が教えてしんぜよう! 推しっていうのはね、もう全部大好きでね、生きがいっていうか、生きる理由っていうか⋯⋯───」
⋯⋯う、やっぱり分かんない。
分かんないなあ、相変わらず凄い熱弁だなあ、とか思っちゃう。
「───⋯⋯分かったっ!?」
「あははー、うん」
「もー、分かってないなあ。また今度教えるからねっ!!」
そういって、みりあちゃんは出ていった。
あ⋯⋯そうだった。朝はみりあちゃん、委員会があるんだった。
風紀委員、大変そうだなあ⋯⋯。
朝も帰りも校門で挨拶しなきゃいけないし、学年やクラスで行事をするときは前に立って進めなきゃいけない。
私にはできないや。人前に出るとか1番苦手なことだもん。
「おはよう、伊東さん」
「あ⋯⋯篠原くん⋯⋯おはよう」
篠原くんはいわゆる一軍男子。
なのに、私なんかに毎日挨拶してくれる。
それに、そこから会話が弾むことも。⋯⋯多分、席が隣だからだけど。
「今日さー、来る時に可愛い猫見かけたんだ。写真撮ったから見る?」
「え、いいの?」
「もちろん」
「ありがとう。⋯⋯っ、わあ、可愛い⋯⋯!」
なにこれっ、もふもふ。めちゃくちゃ可愛い。
「多分飼われてる猫だと思うんだけどね〜。伊東さん、猫好きなんだ? 俺もだよ」
「大好きだよっ。断然猫派!」
ここに猫派がいるとは⋯⋯! みりあちゃんは犬派だし、私の喋り相手になぜか猫派はいなかったから⋯⋯嬉しい!
「猫飼ってる?」
「ううん⋯⋯。アパートだからね⋯⋯」
「俺も。いつか飼いたいんだけど」
わかる、と返すと同時に、篠原くんといつも一緒にいる男の子が声をかける。
「───海都ー、この前の続きなんだけどさあ。⋯⋯あ、伊東さんいたんだ。ごめん、気付かなかった」
「大丈夫です⋯⋯!」
話が始まったから、急いで離れる。
篠崎くんも、お友達と話していた方がいいよねっ。
朝は早めに登校してきてるから、時間に余裕があるんだよなあ⋯⋯。
うん、昨日、図書室で借りた本でも読んでいよう。
物語に熱中していれば、一人の時間なんて寂しくないんだっ。
今日読んだのは、この前買った、映画化して話題の小説。
映画観に行けないからなあ⋯⋯。映画は高いからね。
それに、私は本を読むのが好きだから、全然辛くない。
そして、読み進めていく。
⋯⋯ラストへ、近付いてきた。
衝撃のラストで物語は終わり⋯⋯
「っ⋯⋯ぁ⋯⋯」
───私は、ここが学校というのを忘れて、泣いた。
「っえ、伊東さん!? 大丈夫?!」
「ぁ⋯⋯ごめ、なさ⋯⋯」
その後、本を読んで泣いたということを話したらちょっと笑われたのは思い出だっ。あはは⋯⋯。
が、学校で泣くのはよく無かったよね。みんなに心配かけちゃう。
「───美紗! 挨拶運動終わったっ!」
「お疲れ様〜」
⋯⋯いつの間にか、朝のホームルームが始まる時間が来ちゃってる。早いなあ。
本仕舞おう。
「はい、じゃあ席に着いてね〜」
担任の先生も来ていて、みりあちゃんは前に行く。
みりあちゃんは風紀委員⋯⋯すなわち、学級委員長だから、朝のホームルーム担当。
副委員長が帰りのホームルームと帰りの挨拶運動。ちなみに副委員長は篠原くん。
⋯⋯大変だなあ。
「朝のホームルームを始めます。起立、気を付け、礼───」
⋯⋯そして、いつも通りに1日がすぎると思っていたこの日。
偶然通りかかった廊下で、事件は起きる⋯⋯───。
「っあ、美紗! 東雲くんいるよっ!!」
「え?あ、ほんとだねえ」
やっぱり女の子にキャーキャー騒がれてる。
遠目でそれを眺めていた時、
「⋯⋯いた」
彼がポツンと零した言葉が、やけに大きく私の耳に届き⋯⋯
「み、みみみ美紗!? こっち来たよ、!? いや、勘違いかも⋯⋯!?!?」
───彼がこっちへやってきた。
え、な、なんでっ!?
2人でアワアワしていると、東雲くんは私達⋯⋯いや、私の目の前に来て微笑んだ。
「先輩っ。放課後、俺、先輩のクラス行くので待ってて貰えますか?」
⋯⋯え??
「いいですかね⋯⋯?」
えーと、伊東美紗、15歳、高2。
学校1のイケメンに何故か構われてます。
⋯⋯な、何がどうしてこうなった??
「⋯⋯えっと」
「───もちろんです!! 美紗いいよねっ?!」
「あ、ハイ」
⋯⋯丁重にお断りしようとしたのに、みりあちゃんの圧というか、勢いに押されてOKしてしまった⋯⋯。
だからこんなにも周りの人達がさっきよりもキャーキャー騒いでるんだよお⋯⋯。
目立たずにひっそり高校生活をしていこうと思ってたのに⋯⋯。
「ありがとうございます。では、また」
⋯⋯彼は嵐のように一瞬で来て、去っていった⋯⋯。
まって⋯⋯なんで私が? 可愛くないし、明るくないし、みりあちゃんの方が絶対良いのに。
「っ⋯⋯美紗凄いよっ!! 東雲くんに見初められちゃった!?」
「ええ⋯⋯違うと思うよ〜?」
「いやいや、美紗可愛いからさっ! 自信持って!」
私はちょっとヘラヘラして躱しながら、2人で元々の目的だったお手洗いへと歩いていく。
「っ、はあ〜、あれが国宝級イケメンか⋯⋯。美紗のお陰で、超至近距離で拝めた。ありがとうっ」
「どういたしまして⋯⋯?」
よく分からないお礼を言われている気がするんだよなあ⋯⋯あはは。
「じゃあ、放課後楽しんでおいで!私は2人がくっつくの楽しみにしてるっ」
「くっつかないよ⋯⋯」
そんな軽口を叩き合いながら迎えた放課後。
私は今までに無いほど緊張しております。⋯⋯やばい。
「⋯⋯遅れてすみません」
っ、あ、来た。
「う、ううん。丁度今日、私のクラスが早かっただけだし」
「⋯⋯じゃあ、グッドラック」
そう、みりあちゃんが小声で呟いて、去っていく。⋯⋯もう。
「じゃあ⋯⋯ちょっと俺に着いてきて下さい」
「うん、分かったよ」
そうして着いたのは⋯⋯普段使わない非常階段。
「ここ、授業抜け出したときとか、お昼ご飯食べる時によく来る穴場スポットなんです」
「そうなんだね〜⋯⋯」
⋯⋯東雲くんって、授業抜け出したりするんだ? 意外とやんちゃなんだなあ⋯⋯。
「⋯⋯先輩。なんで、俺が先輩をここに呼んだと思いますか?」
「ん〜」
⋯⋯そんなの、分からないよ⋯⋯なんていう本音は隠す。
「ね、先輩」
「どうしたの?」
数拍遅れて彼は言う。
「好きです」
───⋯⋯と。
「何言ってる、の?」
「⋯⋯俺、幸せにします」
もう、私の頭はキャパオーバーで。
「俺と付き合ってください」
へ???
意味が⋯⋯わかんないよ⋯⋯。
ほとんど初対面なのに、こんなこと⋯⋯。
───もう、どうすればいいのか分からなくて⋯⋯私は、逃げ出してしまった。
「っ、はあ、はあ⋯⋯。はああ〜⋯⋯」
まさか、本当に、みりあちゃんが言っていたみたいに告白⋯⋯だなんて。
「信じられないよ⋯⋯」
でも、さっき、彼の瞳は真っ直ぐ私を見ていた。信じられない程、まっすぐ。
そして、彼が少し頬を染めて、私に愛の告白をしていた。
⋯⋯信じられなくてもこれが現実なんだ、と遅れて理解する。
「⋯⋯申し訳ないけど帰ろう」
荷物は教室に置いたままで東雲くんに着いて行ったから、教室まで戻らなきゃいけない。
「憂鬱だなあ⋯⋯」
「どうしたの?」
お、おばけっ?!
「っ、!! ⋯⋯篠原くんか」
「篠崎くんか、は酷いなあ」
だ、だって、驚かすから、と反撃する。
篠崎くんが気配なく近付いてくるんだもん。急に声かけられたら驚くよっ。
⋯⋯そういえば、挨拶運動終わったのかな? でも、どうしてここに?
「さっき、あそこの窓の近くにいるくらーい顔してる伊東さん見かけちゃって。
急いで追いかけてきたよ」
「そんな暗い顔してるかな?」
窓越しにそんなにわかるほど⋯⋯?
「うん、してる」
「⋯⋯そっか」
断言されちゃった。
うう、早く元の私に戻さなきゃ。こんな動揺してるの⋯⋯なんて、おかしいから。
『好きです』『俺、幸せにします』『俺と付き合ってください』
「っ⋯⋯」
思い出すだけで赤面するのがわかる。
「伊東さん、どうしたの?」
「あ、や、な、なんでもないよっ」
じゃあねっと急いで告げて、篠原くんからも逃げる。
っ、はあ〜、やばいっ。挙動不審の変な人だと思われた。
でも、こうする他無かったし⋯⋯。
心の中で反省会をしながら教室へ向かう。
ガラガラ───。
「⋯⋯よかった」
教室には誰もいなくて、安心した。
すぐに教室から出ようとする時に、ふと疑問を抱く。
⋯⋯人なんて、ここにはいないのに、なんで声が聞こえるんだろう、と。
少し恐れながら、聞こえる方⋯⋯窓の方へ行く。すると、部活をしている人達が見える。
あ⋯⋯そっか部活かあ。部活してないから、わかんなかった。
⋯⋯っていうか、あれ? 東雲くんって部活してないのかな?
まあ、私には関係の無いことだと割り切って、荷物を背負い、家へと歩き出す。
⋯⋯次の日はすぐやって来る。
「みーさっ、お昼ご飯食べよ?」
「う───」
うん、食べよう。⋯⋯そう言おうとした、のに。
「───真田先輩、すみません。美紗先輩と食べたいと思っていて⋯⋯大丈夫ですか?」
え? 東雲、くん?
「え!? 東雲くんが私の名前をっ?! 全然大丈夫だから行ってきてっ!」
「ありがとうございます。美紗先輩、こっちへ」
⋯⋯へ?
え、あ、みりあちゃん?
「あ、や、その⋯⋯」
「俺とは嫌ですか?」
⋯⋯そんなの、ずるいよ。
「嫌じゃ⋯⋯ない、よ」
それからは無言が続いて。彼はどんどん進んでいくから、見失わないようについていく。
⋯⋯多分、行き先は昨日行ったあそこだろう。あそこでお昼ご飯食べるって言ってたし。
「⋯⋯先輩」
「ひゃい!」
考えてたら急に呼ばれて、変な声が⋯⋯。
は、恥ずかしい⋯⋯っ。
「どうしたんです? 可愛いですね」
「かっ、かわ⋯⋯?」
まって、まってっ。東雲くんは、なんでこんなに⋯⋯っ。
「まーた顔真っ赤にしちゃって。もしかして、俺の事好きになりました?」
「ち、違うからっ。ただの羞恥心だからっ」
えー? なんて言って聞いてくれない東雲くんはほんっと小悪魔。
⋯⋯というか、私達まだほとんど初対面ですよね?
いや、初対面で告白されてるし、なんかもう、何もかもおかしいんだけどっ。
「⋯⋯ご飯食べますか」
「そ、だね。いただきます」
「いただきます」
黙々と食べ進める。
「⋯⋯東雲くん、パンだけ?」
「はい、そうですよ。時間ないので⋯⋯」
「そっか⋯⋯」
時間無いのはどうしようも無いからね⋯⋯。
「そうだ。先輩のお弁当のおかず、食べてもいいですか?」
「えっ? い、いいよ」
「え??」
それくらいならいいかなと思って許可をしたら、さっきの私以上に驚いている東雲くん。
「⋯⋯俺以外には食べさせないでくださいね?」
「え? う、うん。分かった」
分かってない、と肩をすくめられてもなあ⋯⋯。って、これ、みりあちゃんみたい。
「ふふっ」
「どうしたんです?」
「んー?面白いの発見したからさ、ちょっと」
後でみりあちゃんに教えてあげよう。推しと同じところがあって、喜ぶかな?
「それって何です?」
「んと⋯⋯私の友達のこと」
「ああ、あのいつも隣にいる人ですか?」
「うん」
へー、と呟いている。もしかして、気になってる?
「みりあちゃんって言うんだけどね、東雲くんのこと推してるんだって───」
そしてご飯を食べながら、みりあちゃんについて語り出す。
「⋯⋯へえ。ね、先輩は? 俺の事好き?」
へっ?!
「よく分からないよ⋯⋯。まだ会ってから少ししか経ってないでしょっ?」
「そうですね。じゃあ、これから早く好きになって貰えるようにアピールします」
あ、アピール⋯⋯?
今でさえ、私の心臓が壊れちゃいそうなんですけどっ? ほら、こんなに早くトクトク打ち付けている。
「俺が好きなのは先輩だけです」
その最後の1音に重ねるように予鈴が鳴る。
「⋯⋯戻りましょうか。あ、今日も教室で待っててください。一緒に帰りたいです。いいですか?」
「⋯⋯いいよ」
どこかにこの時間を楽しんでいる私がいる。
⋯⋯私、男の子が怖いはずなのに。なぜか東雲くんだけは、最初から大丈夫だった。
篠崎くんだって、毎日話しかけられるうちに、長い年月をかけて大丈夫になっていったのに。
「っ! じゃあ、また!!」
⋯⋯東雲くん、凄い嬉しそう。ふふっ、可愛いなあ。
「⋯⋯みーさっ!! どうだった?!」
「普通に喋ってただけ、だよ?」
どうしてそんなにニマニマしてるの、?
「っあ! あのねっ、みりあちゃんと東雲くん、似てるところあったよ」
その報告をする。
「え〜? あ、でも確かに美紗への対応同じなら、好意寄せられてるんじゃないのっ?? 私は友情だけど」
「っ⋯⋯!」
え? やっぱり? と聞かれる。
⋯⋯まだ、告白されたことは言えてなかったんだよね⋯⋯。いい機会だし、話そうかな。
「こ、ここはちょっと⋯⋯」
「あ、あのトイレ裏のとこでいい?」
「うん」
「よし、じゃあ、このみりあ様に話しなさいっ」
「えっと、ね⋯⋯昨日の放課後⋯⋯東雲くんに、告白、されました⋯⋯っ」
キャー! とみりあちゃんが叫び出す。え、えっと⋯⋯?
「それで、返事はっ?!」
「⋯⋯怖くて、逃げ出しちゃった」
「あらら。じゃあ、本音は? どっち?」
え⋯⋯?
「わ、かんない⋯⋯の」
分かんなくて、怖い。
まだ過ごしたのは少しの時間だけど、一緒に居るのが楽、とか、一緒に居たい、とかは思う。
⋯⋯もし、OKして。それが「友情」だと気付いてしまえば、どうなる?
それに、本当に恋愛感情で好きだとする。女の子達からの嫉妬は?
⋯⋯っ、もう、あんなの嫌だよ⋯⋯。
「そう。じゃあ、少しずつ距離縮めてけばいいんじゃない?
良い返事を出せなくても、出したとしても、私も東雲くんも、周りもどうこう言う資格は無いから。
⋯⋯距離縮めるのは私が東雲くんと喋れるかもだからだけどー!」
⋯⋯だから、無理しないで。と告げられる。
⋯⋯みりあちゃんは中学同じだから、否応無しに私の噂、聞いたことあるんだろう、ね。
「⋯⋯あ、そういえば」
⋯⋯? どうしたんだろう?
「美紗、男子怖いんでしょ? 東雲くんは大丈夫なの?」
「あ、それね。私もよく分からないんだけど⋯⋯はじめましての時から、大丈夫、だった」
なんで、だろう? この人は大丈夫って思えたのかな⋯⋯?
でも、1番警戒すべきような人なのに。
そう⋯⋯モテる人を警戒しなきゃいけない。
近付いたらいけないし、好きになる、なんか駄目。相手から絡まれるのも駄目。
⋯⋯もう、あんな思いはしたくないから。
「え〜? 私は2人を推すよっ!!」
私も⋯⋯?
「カプ推しってやつ!」
カプ推し⋯⋯? 何それ⋯⋯。
「まーまー、これからもよろしくね!」
「え? う、うん⋯⋯?」
よく分からないこと続きだけど、まあ、いいのかな⋯⋯?
「教えてくれてありがと! じゃ、戻ろ」
「うん⋯⋯!」
そして、放課後も、彼は約束通り来た。
「せーんぱい」
「わっ、東雲くん⋯⋯」
驚いて声を出すと、丁度隣にいた篠原くんも声を出す。
「⋯⋯東雲? うわー、ほんとにイケメンじゃん」
「⋯⋯篠原先輩、でしたっけ。こんにちは」
「え、俺の事知ってんのー?」
「ええ、一応」
あれ、知り合いだった?
いや、内容からしてお互いに噂を聞いたことある、とかかなあ。
「じゃ、行きましょ」
え? あ、もういいのかな⋯⋯?
「⋯⋯うん」
「え、伊東さん、東雲と付き合ってんの?」
⋯⋯? どうしてそんなこと聞くんだろう?
というか、なんでそんな驚いたような、悔しいような顔⋯⋯。
「ちが───」
「───そうです」
えっ!?!? 私の言葉をかき消すかのそうに告げた東雲くん。まって! 違うよ⋯⋯!?
「⋯⋯そっか。じゃーね、伊東さん」
その言葉に送り出されて、私達は歩き出す。
「⋯⋯ちょっ、東雲くん!? なんでああ言ったの?」
「んー、秘密です」
秘密⋯⋯って。
付き合ってない、のに。
「先輩も、嫌なら嫌って言いましょうね? 言わなかったなら、オーケーしたってことと解釈しますから」
⋯⋯妖艶に微笑む、美麗な彼に、もうきっと、私は虜になっている。
「っ⋯⋯」
誤魔化したくて、話を逸らす。
ほぼ初対面の、しかもイケメンに、虜になるなんてっ⋯⋯。
「⋯⋯どこ行くの?」
「デートしようかと思いまして」
「でっ!?」
デート⋯⋯!? 付き合ってない、のに?
「異性の2人で出かけるって、デートでしょう?
ほら、このスイーツ、食べたいんですけど、男1人だと食べにくいので」
お願いします、と付け足されても⋯⋯うう。そんなの、断れないじゃないか⋯⋯。
「⋯⋯いいよ」
「えっ!? ありがとうございます!!」
⋯⋯もう、東雲くんのこの満面の笑みを見たら、全てがどうでも良くなってしまった。
そして、お店へ行って、頼んだスイーツが届く。
「⋯⋯え?」
な、なんか凄すぎる⋯⋯。
これが、アフタヌーンティー⋯⋯。写真でしか見たこと無かったから、嬉しすぎる。
内容は、サンドイッチ、スコーン、ケーキ、マカロン、ワッフル、紅茶。
⋯⋯豪華すぎないっ?!
「食べましょう?」
「う、うん」
あ、でも。
「私、作法とかわかんない⋯⋯」
「大丈夫です。多分、違ってても何も言われませんし、リラックスしながら食べましょう?」
それでいいのかな⋯⋯?
「何食べたいですか?」
「えっ、あ、ま、マカロン食べたい」
⋯⋯実は無類のマカロン好きなんだよね、私。
「はい、どうぞ」
「へっ?」
差し出されたマカロンは、私の口近くへ運ばれている。
これって⋯⋯もしかしてっ⋯⋯あ、あーん⋯⋯みたいな、?
「食べません?」
「たっ、食べますっ」
マカロンの誘惑に抗えず、東雲くんのあーんで食べさせてもらう。
「はい、あーん」
「っ⋯⋯ぉい、し」
でも⋯⋯恥ずかしいっ。
「なんで顔隠すんです? 可愛いのに」
「っ⋯⋯!」
恥ずかしげもなく口にする東雲くんを見ていると、逆に私が恥ずかしくなっちゃうよ⋯⋯!
「せーんぱい、俺こっちのマカロン食べますね」
「う、ん」
それからは、普通の会話をしながら食べ進めていく。
「あ、先輩って、明後日空いてます?」
明後日? 日曜日だよね?
「確か空いてたけど⋯⋯どうしたの?」
そして、不敵な笑みを浮かべて東雲くんは言った。
「先輩が俺の事好きになるように、デートに行きましょう」
⋯⋯と。
内容が内容だから少し渋ったけれど、東雲くんと遊びたい、とは思っていて、了承した。
⋯⋯改めて考えると、私と東雲くんってどういう関係なんだろう?
私は、まだ恋愛感情で好き⋯⋯なのかはわからないし。
あっ、まって。
私、東雲くんと並べるほど可愛くないし、メイクで誤魔化すとかも⋯⋯メイク普段してないから無理な気がする。
可愛い服もあんまり持ってない⋯⋯。
どうしようか、と悩んでいたらあっという間に次の日は来てしまい、
とりあえずもっている中で1番可愛い服と、ナチュラルなメイクをしていく。普段は下ろしている髪も後ろで1つに束ねる。
⋯⋯気合い入れて来すぎだと、思われちゃうかな。
悩みながらも足を進め、辿り着いた待ち合わせ場所。
「えっ、東雲くん、ごめんね、遅かった?」
「いえ。先輩も充分早いですよ。俺は先輩を待たせたくなかっただけなので気にしないで下さい」
待ち合わせしていた時刻よりまだ20分も早いのに⋯⋯。こういうさり気ない気遣いは凄いと思う。
「⋯⋯先輩の私服、凄い可愛いです。メイクも、髪も、全部全部可愛いです」
「っぇ。あ、えと、東雲くんも凄い、かっこいい⋯⋯よ⋯⋯?」
東雲くんの服装は、ラフだけど、凄くお洒落で似合っている。
いや、東雲くんは全てのお洋服を着こなしそうなんだけどっ。
「ほんとですか? 嬉しいです」
その後も甘い言葉を言い続ける東雲くんに私はたじたじで、よく分からない返事しか返せない。
「じゃ、水族館、行きましょう」
「あ⋯⋯水族館なんだ」
「先輩、嫌でしたか? 変更しますね」
「違うよ! 水族館は好き」
それなら良かったですけど⋯⋯と言われる。
それから、電車に乗って、揺られて、改札を出て、少し歩いて。
悲しい思い出がある水族館へ、やってきた。
「俺、小学生ぶりかもです、ここ来るの」
「私は中学ぶりかな」
「これ綺麗ですね」「わっ、変な形⋯⋯へー、こんな名前なんだ」「これ、初めて見ましたっ!」
2人で海洋生物に夢中になっていた。
だから⋯⋯気付かなかった。
後ろから近付いてくる、彼に。
「えっ? うわー、伊東じゃん」
奇遇ー、と明るく話しかけてくる、彼。
彼は⋯⋯中学の時、運悪く、3年連続同じクラスだった、人。
まさか、またここで、あの思い出のここで、会うなんて。
私が硬直したのが分かったのか、スっと東雲くんが私の前へ出てくる。
「あなた達、誰ですか?」
あなた達⋯⋯? ああ、陸くんの友達かな。
「えー、俺ら中学のときちょー仲良かったよな〜?」
そうそう、と彼の取り巻き達が言う。
「⋯⋯先輩、ほんとですか?」
「⋯⋯ぇ⋯⋯と⋯⋯」
思い出すのは、彼と過ごした日々。一言で表せば⋯⋯
───地獄、だった。
「……ちが、う。仲良くなんか、無かった」
陸くん達は⋯⋯陸くん達は、私を友達としてなんか、見てない。
「⋯⋯分かりました、あっち行きましょう」
東雲くんは私の手を引いて、陸くんの前から連れ出してくれた。
後ろからは陸くん達の制止の声が聞こえたけれど、私達は⋯⋯ううん、東雲くんは、止まらなかった。
ひとまず、少し離れたところにあったベンチに座る。
「東雲くん、あり、がとっ」
「いえ、俺は大丈夫です」
ほんと、優しいなあ⋯⋯。
「⋯⋯あの人達と、何があったんです?
あ、や、もちろん言わなくても良いですけど⋯⋯先輩、苦しそうなので」
⋯⋯何があった、か。
「⋯⋯私ね、陸くんと中学の時、3年連続同じクラスだったの。たまに喋ってたから、校外学習のときも同じグループだった。
ほら、私こんな抜けてるからさあ、中1なのに迷子になっちゃって」
「⋯⋯それ、グループの人達はなんで気付かなかったんです?」
怒りを孕んだ声に、私が驚く。
「え⋯⋯と、みんな、私より展示の方が興味あったみたい」
そりゃあそうだよね、と自虐的な言葉を並べる。
「そんなっ⋯⋯おかしい」
⋯⋯みんな、東雲くんみたいな性格だったら、いじめとか無いのに。
「⋯⋯それで、先輩は置いてかれて迷子になったんですね?」
「うん」
チラッと東雲くんの顔を伺う。
⋯⋯え? 彼の顔は、怒りしか、無かった。もしかして⋯⋯私のために怒ってる?
「⋯⋯先輩」
「どうしたの?」
「俺、先輩のこと大好きなんで」
え?
「だから、何でも受け止めます。何でも聞きます。頼って、下さい」
あ⋯⋯。
「っ⋯⋯あ、りがとっ」
⋯⋯こんなに自分が泣き虫だなんて、東雲くんに出会ってから、知った。
「⋯⋯じゃあ、もう1回まわりましょうか?」
「うんっ」
ベンチの近くの展示物から見て回る。
「はー⋯⋯かわい⋯⋯」
どれだろう?
「わ⋯⋯可愛いっ」
探さなくてもすぐに分かった。これでしょっ。目の前にいる、カワウソ。可愛すぎる⋯⋯!!
「先輩、なんか勘違いしてません?」
⋯⋯? なんだか、不服そうな声音。どうしたんだろう、?
「可愛いのは先輩ですよ?」
「っぇ」
わ、私?こんな可愛いカワウソよりも⋯⋯?
「東雲くんは優しいね」
「は、はいっ? 俺が??」
「うん」
東雲くんは優しいよ⋯⋯。こんなにも、私を気にかけてくれるんだもん。
「っ⋯⋯」
あれ、照れてる?
「か、かわいっ」
抑えきれなかった。流石に可愛すぎて⋯⋯!
「⋯⋯かっこいい、の方が嬉しいんですけど」
「もちろん東雲くんはかっこいいよ?」
「っ⋯⋯!」
⋯⋯?
「⋯⋯そうやって、無意識に言うの⋯⋯ほとタチ悪い⋯⋯やめてください⋯⋯っ」
「無意識⋯⋯?」
意識あるし、私は天然?じゃないし⋯⋯違うと思うんだけどなあ。
「⋯⋯え? あー⋯⋯。
先輩、ほら、あそこの魚、綺麗ですねー」
「ほんとだ!」
⋯⋯少し呆れられたような視線なのは気のせい?
「⋯⋯あ、あの魚、凄い派手な色⋯⋯!」
「ああ、あれ確か毒ありますよ」
えっ⋯⋯こ、怖っ。
こんな綺麗なのに⋯⋯毒かあ⋯⋯。まあ⋯⋯綺麗だからこそ、かもだけど。
「ほら、あっちも見ましょう?」
「うんっ!」
どんどん回っていく。
楽しい時間はやっぱりすぐ終わってしまうように感じてしまって、それが凄く残念。
「⋯⋯じゃあ、お土産コーナー寄ってく?」
「そうですね」
何買っていこう? みりあちゃんにお菓子かな。あとなんかいいものあったら買おう。
そしてお土産コーナーに足を踏み入れた。
⋯⋯まって? このお菓子可愛い。これも! あ、あれいいなあ⋯⋯。
⋯⋯全部可愛くて美味しそうなお菓子なんだけど⋯⋯。
「せーんぱい。それ、真田先輩用ですか?」
「うん。でも、決まらなくて⋯⋯」
「じゃっ、俺も一緒に考えますよ」
えっ? いいの!?
「ありがとう!」
ひとまず、今候補のものを東雲くんに見せて、絞り込んでいく。
「カワウソ、みりあちゃん好きだから⋯⋯」「このイラスト可愛いから⋯⋯」
とか私は理由を述べる。
そして東雲くんは悩みまくっている。だよね!
⋯⋯そして悩みに悩んだ結果、数分後───
「⋯⋯カワウソ、好きならこのクッキーが良いんじゃないでしょうか? ⋯⋯あ、あと、すごくクッキー美味しそうなので」
結論を出した。
「うん、そうするね、ありがとう」
それからはお土産コーナーをちょっと回って、お会計をした。
可愛いキーホルダーはあったんだけど⋯⋯高かったからなあ⋯⋯。
「⋯⋯先輩」
「どしたの?」
東雲くん、緊張してる⋯⋯?
「こ、これ、どうぞ。今日付き合ってくれたお礼です」
「⋯⋯えっ、いや、貰えないよ!」
貰ったのは⋯⋯さっき見ていたキーホルダー。
確かに欲しいなあとは思ってた⋯⋯けど。レジンで作った海、みたいな作品で凄く高かった。
「いやいや、貰って下さい。ほんと、お礼なんで」
「お礼って⋯⋯」
渋っていると、東雲くんがずるーい一言を付け足した。
「俺、そういうの使わないんで、先輩貰ってくれなきゃ困ります」
「⋯⋯っ、じゃあ、ありがたーく貰っとくね」
東雲くんはやっぱりずるい。
私がどう言われたらどうするのか、全部分かってる。
それに、この満面の笑み。⋯⋯もう、何も言えないじゃん⋯⋯。
「じゃあ、そろそろ帰りますか」
「そうだね⋯⋯」
そして、また、電車に揺られて、改札を出て⋯⋯断ったけれど、家まで送ってくれて。
東雲くんとのデートはひとまず幕を下ろした。
「───⋯⋯あっ、いた、先輩。おはようございます」
「東雲くん⋯⋯? おはよう。
えっと⋯⋯なんでここに?」
そう、そうなのだ。東雲くんがここ⋯⋯校門に立ち止まっている理由が分からない。
東雲くんは人気だから、女の子達で、校門が通りにくいほど厚い壁ができている。
「もちろん先輩に会うためです」
え⋯⋯と、そういうセリフ言うと、周りの声が凄いよ⋯⋯?
「ほら、教室行きましょ」
「うん⋯⋯?」
流されている気がして仕方ない。
それでも、この流れに抗えるとは思わないし、抗いたくないから、私は流されたままでいる。
⋯⋯相変わらず、ずるいなあ、私。
教室にはもう準備を終えたみりあちゃんがいる。
あれ? みりあちゃん、いつもより早い⋯⋯?
「みりあちゃん、おはよう」
「おはよう、美紗⋯⋯って、し、し、し、東雲くん!?」
みりあちゃんの反応って、面白い。
私の口からクスッという笑い声が零れて、つられて東雲くんも笑った。
「えっ、あっ、東雲くんの笑み⋯⋯!!!」
⋯⋯みりあちゃん、完璧にオタクじゃん⋯⋯。いいんだけどね? そっちの方がキラキラしてて可愛いし!
「⋯⋯先輩、真田先輩っていつもこんな感じなんです?」
あはは⋯⋯東雲くんも気になるよね⋯⋯。
「私と居る時のいつも、ではないかな」
「真田先輩⋯⋯」
東雲くんの言動一つ一つを噛み締めているのは⋯⋯さ、流石に変質者じゃっ⋯⋯。
いや、オタクとはこういうもの? 推しを目の前にしたらみんなこうなるもの?
⋯⋯私はオタクじゃないと思うし、推しなんていないしで、分からない答えを1人悶々と考え続ける。
「うーん⋯⋯」
「どうしたんです、先輩」
「あ、いや、もう分かんないからいいや」
⋯⋯潔く諦めようかな。うん、そうしよう。
東雲くんは頭にハテナマークを浮かべているけど、私も説明がよく分からないし、やめておこっと。
「あ、そうだ、みりあちゃん」
「はひっ?! どうしたの? 天使・美紗!!」
⋯⋯やばい、本格的にやばい。
みりあちゃんのこと無視した方がいいかな、私。恐怖すら感じるんだけど⋯⋯。
ごめんね、みりあちゃん⋯⋯。
あ、東雲くんもちょっと冷たい視線。
それでか、みりあちゃんが大分元に戻った。
「えーとー、美紗ごめんね⋯⋯?」
「うん⋯⋯良いよ⋯⋯」
ま、まあ、ちょーっと、怖いのはやめて欲しいけどっ。
「はー、真田先輩って面白いんですね」
「えっ?!」
待って駄目⋯⋯!! みりあちゃんが今、昇天しかけた。
「⋯⋯東雲くんじゃあね。
ちょ、ちょっとみりあちゃん⋯⋯!」
なんかもうどうにもなんないだろうと思い、東雲くんに別れを告げて、みりあちゃんを連れて人が少ない所へ。
コソッと、昨日のあのお菓子を渡しちゃおうと思って。
「⋯⋯美紗〜〜〜!!! なんかもう、凄すぎた!!! イケメン!!!!」
「うん⋯⋯そっか。で、これどうぞ」
なんかもう無理矢理突っ切って、渡す。
「えっ!?!? ありがとう!!!!」
「あーうん、どういたしまして。ちなみにこれ、東雲くんと選んだやつ───」
「えっ!? 出かけたの!? 東雲くんと! ってか東雲くんが選んだお菓子⋯⋯!!」
あー、駄目だったかも、この選択。
みりあちゃんがおかしくなっちゃう。
「ってか東雲くんお洒落すぎ!!! 2人ともありがとおおおおお」
「え、あ、うん」
勢い凄いなあ⋯⋯あはは。
「ねねっ、2人でどこ行ってきたの? あ、水族館か。どうだった??」
「え、あ、うん、楽しかったよ⋯⋯!」
⋯⋯陸くんにも、会ったけど、うん、大丈夫。私はあれを乗り越えられた、気がする。
⋯⋯東雲くんのおかげで。
「実はね、陸くん⋯⋯あ、間宮くんね」
「⋯⋯間宮ね。間宮がどうしたの?」
⋯⋯ごめんね、みりあちゃん。テンション下げさせちゃって⋯⋯。
こんな話、やだ、よね。でも、言わせて欲しい。
───私はもう、立ち直れたんだよ⋯⋯って。
「実は、水族館で⋯⋯会ったの」
「えっ⋯⋯大丈夫、だった⋯⋯?」
⋯⋯大丈夫、だったのかなあ、あれは。
「多分⋯⋯?
東雲くんがね、救ってくれたの。だから、私はもう⋯⋯大丈夫」
「そう⋯⋯。
良かった⋯⋯良かった⋯⋯!」
じゃあー、と一気に空気を変えるみりあちゃん。
まって、この空気って⋯⋯。
「好きになった?? 東雲くんのこと!」
やっぱりそれかあ⋯⋯あはは。
「ん⋯⋯まだ、わかんない。
───けど、ちょっと、好きになりたいと思った、よ」
───⋯⋯これが、私の本音です。



