君は恋に眠って

「何?」

「あー……いや……そういえば最近どうだって聞いてないなって」

「なにそれ」


 ふ、と軽く笑い飛ばすと、遼は更に困ったように視線を彷徨わせた。


「……いや、そういや聞くの忘れてたなって思い出して……」

「何の説明にもなってないじゃん」


 それでも、何の話を求められているのか、なんとなく分かる気がした。


「……楽しいよ」


 そしてその返事を、不審がられることはなかった。


「楽しいよ、大学。サークルもほとんど毎日出てるし」


 ガタン、ガタンと、「雲雀ヶ丘 普通」の阪急電車がやってきた。そうか、梅田行のホームは反対側か。


「……ずっと忘れられないって思ってたけど──忘れてないけれど、忘れるもんだね」


 まだ、まだ、ずっと話していたいような気がした。ずっと一緒に過ごしてきた十数年が、これから塗り替えられてしまうような気がしたから。いまの自分の答えが、その直感の裏付けだったから。もう一緒に季節の移ろいを感じることはないのだと、知ってしまったから。


「じゃあね、また年末に」


 でも、もう帰ろう。


「……あぁ」


 またすぐ会える。それでも名残惜しく感じるのは、揃って秋の寂寥《せきりょう》にてられでもしたからだろう。