──六年前、実は一度秋華に会っている。白藍総合病院の、庭園のベンチで。
俺がまだ営業部の部長として経験を積んでいる最中だったあの頃。開発に携わりたかった俺は、商品を売り込む仕事にそこまでの熱意を感じていなかった。
将来跡を継ぐためにいろいろ経験しておけと、父から課せられたミッションをただこなしているだけ。そんな淡々とした日々を過ごしていた時だった。秋華に出会ったのは。
白藍で行う臨床試験の打ち合わせに同行した際に、庭園のベンチに座り込んでいる秋華を見つけた。俯いていてなんだか具合が悪そうに見えたため、心配になって声をかけたのがきっかけだ。
実際は具合が悪かったのではなく、難病を発症し治療も難しくて精神的に参っていたらしい。第三者のほうが本音を吐露しやすかったのか、彼女は見ず知らずの俺にいろいろな話をしてくれた。
これまで何度か患者とも接してきたが、リアルな苦悩を聞いたのはこの時が初めてだったと思う。
手術が難しく、このままでは歩けなくなるかもしれないこと、副作用で見た目が変わり、彼氏とも別れてしまったこと。終始俯いている彼女は自分に自信がなくなっているのだと、話を聞いているうちに察した。



