学園最強の兄は妹を溺愛する

「しゃべっていいって、誰が言った?」

 お兄様にギロリと睨まれ、小さく悲鳴を上げる。


 次にお兄様は、金沢さんの傍らにしゃがみ込んだ。


「おまえさあ…………超かっけーな! 俺が女なら間違いなくホレるわ。でも、彩智はやらないけどな!」

 上機嫌でお兄様が金沢さんの肩をバシバシ叩く。


「痛っ……」

「お、お兄様⁉」

 痛みに顔を歪める金沢さんを見て、わたしは慌ててお兄様を止めに入った。


 お兄様はくるりと振り返ると、今度はフェンスを背にずるずると座り込んだままの男子の元へとゆっくりと歩いていく。


「悪かったな、誤解して。そうだよな。よく考えたら、俺の命よりも大切な妹に手ぇ出そうなんて考えるヤツ、いるわけないもんな! ごめん、ごめん」

「いえ、別に……」

 お兄様が、男子の右手をぐいっと引いて立ち上がらせると、制服についた砂をパタパタと払ってあげる。


「お詫びのしるしに、ちょっと付き合ってよ。な? もちろん、付き合ってくれるよな? そっちの君らと——あー、そこの金髪くんも。彩智、この前四人で行った店——いや、違うな。みんなボロッボロだもんな! こーいうときは肉だな、肉! 肉食いに行こう。彩智は、里見さんに迎えに来てもらうから、先に帰ってな。こっから先は、ヤロウだけの世界だ。な、おまえら?」


 困惑した表情を浮かべる男子三人組と、「なんで俺まで……」と小さく不満げな声を漏らす金沢さん。


「そんじゃ、しゅっぱーつ!」


 楽しそうに歩き出したお兄様を先頭に、クラスメイトたちがふらふらと続き、空き地をあとにする。