学園最強の兄は妹を溺愛する

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「ねえ、お兄様。わたし、公園の桜を見に行きたい」


 5歳の春、わたしはお勉強中のお兄様の勉強部屋にこっそり忍び込んで、お兄様にお願いしたの。


「そういうことは、里見さんに言いな」

 優しい声だったけれど、勉強の手は止めず、わたしの方も見てくれない。


「今日はムリだって。……でもわたし、どうしても今日見に行きたいの。だって、去年お母様とお約束したから。『来年も、一緒に桜を見ましょうね』って」


「……」


 黙って鉛筆を机の上に置くと、お兄様は壁の掛け時計を見上げた。


「三十分だけだよ。そのあとは、家庭教師が来る予定だから」

「はいっ! ありがとう、お兄様」

 そうしてわたしとお兄様は、二人でこっそりお屋敷を抜け出したの。



「うわぁ、キレイ。お母様も見ているかしら」

「そうだね。きっと彩智と一緒に見ているよ。……そろそろ帰ろうか。家庭教師の来るじか……」


 最後まで言い切る前に、お兄様の口はうしろからぬっと現れた大きな手で塞がれた。


「お兄様? ……イヤーっ!!」


 わたしのうしろにも大男がいて、同じように口を塞がれ、ぐいっとものすごい力で手首を掴まれた。

 もがいてももがいても全然手を離してくれる気配はない。


「痛っ! ……ふっざけんな、このクソガキが!」