大嫌いな王子様 ー後編ー


「坊っちゃま、伊織様おかえりなさいませ」

あれから暁斗くんの家にやってきた。


「部屋に飲み物持ってきて」

「かしこまりました」


飯田さんにぺこっと一礼をした。
飯田さんは優しく微笑んでくれていた。


「暁斗くん、家までごめんね」

「おまえ制服だしな。外で話してると補導されるかもだし」

あ、そっか。
また迷惑かけてる。



「う"っ!!」

いきなり暁斗くんに鼻を摘まれた。


「しょうもないこと考えんなよ。1ヶ月ぐらい会えてなかったんだ。俺がゆっくり一緒にいたいんだよ」


もう…バカ

すき


久しぶりの暁斗くんの部屋。

「部屋、相変わらず綺麗だね」

ここを掃除していたのも今となれば懐かしい。


「そうか?いおが掃除してくれないから困ってんだけど?」


そんな意地悪でかっこいい笑顔しないで。
今メンタルが弱弱だからそれだけで泣きそうになる。



コンコンコンッ

「失礼いたします」


飯田さんがアイスティーを持ってきてくれた。


「あとでいお送るから」

「かしこまりました」

そう言って飯田さんは部屋をあとにした。


外が暑かったから、冷たいアイスティーを飲んで少しスッとした。


「で?」

向かいのソファに暁斗くんが座る。


「なにがあった?」


話していいかな?
こんな情けない話。

暁斗くんはすごい忙しいのに、勉強もちゃんとしてて将来に向けてもきっと頑張ってて…


もしかしたら愛想尽かされるかも。

ヤバイ…話したら……


「いお」

暁斗くんの声にハッとして顔を上げる。



「話したいことだけでいい」


「話してよ。俺を信じて」

私が話す内容をまだなにも知らないのに、どうして私が安心する言葉を言ってくれるんだろう。


「あのね…」


ーーーーーーーーーーーー


成績が落ちたこと、進学はせずに働こうと思っていることをひと通り話した。


「そうか」

なんて…言われるかな。
暁斗くん、どう思ったのかな?


「就職はさ、いおのほんとの希望なのか?それなら俺は応援するけど」


ドキッ

「う、うん」


「悪いけど、俺にはそう見えねぇんだけど」


だって…

「家に迷惑かけたくないし、晴にしたいことさせてあげたいし」

「うん」

暁斗くんはずっと私の話を優しく聞いてくれる。


「まだ将来の目標…がちゃんと決まってないのに大学とか行っていいのかなって…」

そんな贅沢なことしていいの?


「私、前までは進学なんて全く考えてなかったのに…欲深くなっちゃってるの」


暁斗くんが立ち上がった。

「隣、座っていい?」

「う、うん…」


暁斗くんが私の隣に来て座った。



「あのさ、いお…」

なんかすごく緊張する。
なんて言われるんだろ…


「やっぱバカだな」

「…な"っ……!!」

真顔でこっちを見ながら言われた。


わかってるよ、バカだって。
だからあんな成績取ってるし。

だけど、開口ひと言目がそれってアリ!?


むにーっ

そして両頬を引っ張られる。


「あ"ぎ…とぐ…」

なにするの〜!!??


「ちゃんと目標あんじゃん、晴のこと。そのためにも大学行って就職した方が稼げんじゃね?」

え……


「いおが欲深い?今までがなさ過ぎたんだよ。それはな、普通の気持ちなんだよ」


暁斗くんが私の手をぎゅっと握ってくれる。


「いおの人生だぞ。おまえが自分の気持ちで選ばなきゃ意味ねぇだろ」

ダメ、もう我慢出来ない。


「うぅ〜…」

「おまえ、今日泣き虫だな」

暁斗くんが泣き虫って言うのなんか可愛い…
なんて、ちょっと煩悩が働いてしまったのは秘密にしておこう。


「父さんにも言ってくれたんだろ?俺らの人生は俺らで選ばなきゃって。なら、いおも一緒だろ。おまえの母さんたちもそれを望んでるよ」


涙が全然止まらない。

暁斗くんが優しく頭を撫でてくれる。


「それにさ、忘れんなよ。俺がいるんだから」

私は泣いてぐちゃぐちゃの顔で暁斗くんを見た。



「いおの大切な人やものは俺にとっても大切。だけどさ、やっぱいおが1番だし、おまえが悲しむならその原因を俺は排除したいと思ってる」


暁斗くんに片手で顔を掴まれた。


「俺の隣にいることだけ忘れずに、あとはいおの好きに生きろ」


あぁ、なんて暁斗くんらしい言葉なんだろう。