「外で涼んでくる」
伊織たちにそう言って、先に脱衣所を出て温泉の近くにあるお庭に向かった。
梅雨なのに、夜は湿気も少なく風があって気持ちが良い。
「あれ〜みっちゃん!」
この声は。
「弟くん」
あれ、私ドキドキしてる。
「みっちゃん、ひとり?」
「うん、弟くんも?」
「うん。暑いから涼みにきた〜」
なに緊張してるんだろ、私。
「みっちゃん、女子の方大丈夫?理香に金澤さんに中身が濃い奴ばっかだろ」
「楽しいよ。友達が増えて嬉しい」
「そっか。ならよかった」
弟くんとこんなに話すのはあの花火大会以来。
「弟くん、去年の花火大会は…ありがとね。ほんとに」
「去年?…あー、懐かしいな。あれからあのゴミ野郎から連絡とかない?」
「うん。一回あったけど無視した」
「うげ。あったんだ。キモイなぁ」
あの時から実は弟くんが少し気になってる。
「あとで部屋行っていい?伊織にあげたいお菓子あって」
でも、わかってる。
弟くんの中では伊織しかいないって。
「あとで私たちコンビニいくよ」
「そうなん?じゃあ俺もついていこっかなぁ」
【光季は俺のもんだから】
嘘だってわかってるのに、あの言葉がいまだに頭から離れない。
「ねぇみっちゃん」
「…えっ!?」
考え事していて、ハッとなり大声を出してしまった。
「声大きい…」
「わぁ!ごめんね!」
弟くんがクスクス笑っている。
「みっちゃん、しっかりしてそうなのに面白いとこあるね」
笑顔が可愛くてきゅんとする。
皆実家のDNA、恐るべし。
「ねぇ、なんで俺“弟くん”なの?和希って名前あるんだけど」
深い意味はないけど…なんだか名前で呼ぶのが少し恥ずかしくてこう呼ぶようになったかな。
御曹司くんも含めて。
「えっと…」
「でもいーや。俺のことそうやって呼ぶのみっちゃんだけだし」
え…?
「なんか特別感あるよな?」
この人、天然で言ってるの?
こんなこと言われたら普通は勘違いしちゃうって。
「何言ってんの?特別とかないし」
「まぁそうだけどー。俺の特別は伊織だしね」
ズキンッ…
ほら、やっぱりそうじゃんか。
期待なんかさせないでよ。
「出会う順番って大事だよなぁ」
「なに、急に」
弟くんが空を見上げる。
「もし、暁兄より早く伊織に出会えてたら…いや、俺が暁兄より早く生まれてたら…なんてありえないことをずっと考えちゃうんだよね」
そう言ってこっちを見て笑う弟くん。
なんか泣きそうに見えたのは気のせいなのかな。
私は弟くんに近づいて、気づいたら抱きしめていた。
「それぐらい好きってことだよね。すごいことだと思うよ」
うまく言葉が出ないけど…言いたいことが少しでも伝わればいいな。
「みっちゃん…?」
ハッ!!!
弟くんの声で我に返った。
急いで離れる。
「うわ!!ごめんね!!なんか…えっと慰めたいというか、なんというか…!」
ヤバイヤバイ、絶対引かれたよね。
どうしよう。。。
「みっちゃんってやっぱ優しい子だね。俺なんかの心配してくれてありがとう」
あれ…?大丈夫そう…??
「伊織の言う通り、みっちゃんは思いやりのある優しい人だね。お姉さんみたい」
あ、そうだ。
この子、天然だった。(伊織が言ってた)



