ヴーッ
「なんだ朝から」
「父さん!!やられた!くそジジイ、嘘の情報流してやがった!」
月曜日の朝、暁斗からの連絡。
父さんは今日の午後からあの娘と会う情報を入手していたが、まさかそれが嘘だったとは。
「私は今横浜だ。何時に会うんだ」
「わかんねぇ!とにかく俺だけでも今から行く!!」
そう言って電話を切った暁斗。
よほど、パニックになってるんだろう。
察するに、あの娘の父親の解雇の件が暁斗たちに漏れたことを考え、逆にそこを利用したんだろうな。
プルルルー…
「おはようございます、旦那様」
「飯田。おまえが入手した情報か?」
「はい。大変申し訳ございません。はじめは本日の午後と聞いてましたのにまさか早まるとは…」
なるほど。
あの人のやりそうなことだ。
「わかった。私が行くまでなにもしないように。特に暁斗を頼んだぞ」
「かしこまりました」
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「おまえが首を突っ込んでくるとは…意外じゃな」
暁斗たちを部屋の外に出し、父さんとふたりきりになった。
「父さん、単刀直入に言いますがこんなことは辞めてください」
「おまえもあの子たちに洗脳でもされたか?」
「父さん、言葉を選んでください。私も…子の父親です」
ケラケラと笑っていた父さんが、険しい表情に変わった。
「おまえが出てきたところでわしの意見は変わらん。おまえも我が子に自分と同じめに遭わせることになるぞ」
「そうならないために私が来ました」
もう、同じことは繰り返したくない。
「父さん、私たちはこの会社のトップです。社員はもちろん、我が社に関わる会社やその会社で勤める人たちも守っていく立場にあります」
「そんなことわかっとるわ」
「そうですか?その立場を利用して、今回あの娘の父親を解雇しようとなさいましたよね?しかも私に話を通さずに勝手に」
「なぜわしがおまえに話を通さんといかんのじゃ」
「父さん」
私は立ち上がった。
「今のトップは私です。あなたではありません。こんな勝手を続けるようなら、あなたには相談役から降りてもらうしかありません」
「貴様!誰に向かって言ってるのかわかっておるのか!?」
「もちろんです。私は会社やさらに携わる全てを守る立場にありますから」
今の私には昔なかった力がある。
「それに、父親ですから。あなたから我が子を守るのも当然です」
「そんな口を利いて…ただで済むと思っておるのか!?」
バンッ!
ある書類を父さんの目の前の机に叩きつけた。
「これが全てです。あなたがこのまま解雇の話を通すなら、この事業から私や暁斗、いや皆実グループは手を引きます。このための内容は全て私たちの頭の中に入っています。それはもちろん引き継ぐつもりはありませんが」
「この事業が頓挫すれば我が社にどんな影響があるのかわかっておるのか!?おまえが守ろうとしてる会社が根幹から揺らぐんじゃぞ!!」
「重々わかってます。揺らぐように仕向けてるのは父さんですよ?」
負けるわけにはいかない。
「父さん、これは取引です。私に賛同しますか?あなたの意見を通しますか?」
父さんは見たこともないような顔で悔しそうに、そして怒りに満ちて私を見ている。
だが、なにも怖くなんかない。
少し前までの私がこの人に洗脳されていたんだ。
「相談役として、立派なご決断を期待しています」
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父さんとなんとか話をつけて、暁斗たちの元へ急いだ。
また頭を下げた暁斗。
なぁ、暁斗。
勝手だけど、今までのことをこれから取り戻させてくれ。
父親として、出来ることを。
咲、これでいいんだよな?



