大嫌いな王子様 ー後編ー

「遅くなってごめん。守れなくて…」

私は首を横に振った。


暁斗くんは守ってくれた。
こうして助けに来てくれた。


なにも出来てないのは私の方。


「あき…とく…わた…し…」


ぎゅっ!

暁斗くんの抱きしめる力が強くなった。


「今は話さなくていいから。俺の腕の中にいて?」


ヤバイ、涙が止まらない。

もう、このまま時間が止まればいいのに。



ーーーーーーーーーーーーーーー


コンコンコンッ

カチャッ

「失礼いたします。ただいまよろしいでしょうか?」

「あぁ。いお、寝てるよ」


飯田が部屋にやってきた。

「伊織様、大丈夫でしょうか?」

「わかんねぇ。泣き疲れて寝たと思う。昨日もあんま寝れてねぇだろうし」

いおの頬の涙の跡を指でなぞる。



「父さんは?」

「まだ出てこられません」

「そっか…」



コンコンコンッ

誰だ?

「はい」

飯田が応答する。


「私だ」


父さん…!


「旦那様、お迎えに上がらず大変失礼いたしました」

「かまわん。あの娘は?」

「いおなら泣き疲れて寝てるよ」

「そうか」


父さんがソファに座った。


「父さん」

「話ならついたから安心しなさい。ただ今回のことに限ってだ。あの人のことだから、またなにかする可能性が十分にあるがな」



「坊っちゃま!!」

俺は父さんに頭を下げた。


「父さん、ありがとうございます。手間をとらせてしまい申し訳ありませんでした」


「それは会長に言っているのか?それとも、父親にか?」

「え…?」

「頭を上げなさい、暁斗」

父さんが微笑んでいる。


「子どもを守るのは親として当然だろう」


父さん…


「今まであの人に逆らえなかった私も挽回したいんだよ」

そう言って父さんは少し恥ずかしそうな顔をした。
今まで見たことない父さんの表情ばかりで戸惑う。



「飯田、車は?」

「下に準備しております」

「ありがとう」


父さんが立ち上がった。

「次がある。暁斗はその子のそばにいてあげなさい」

「言われなくても」


あ、やべ…またこんな言い方してしまった。


「ふっ…暁斗、その娘を離すなよ?」

「…は?なんだよ、いきなり」


「その娘が言ってたぞ。おまえと和希の人生だから選ばせてやってほしいと」


いお・・・

「和希まで私に頭を下げてきたしな…。お互い変え合っているんじゃないか」


そう、和希も今回のことで父さんに頭を下げた。
あの和希が。


「そんな存在にはなかなか出会えることじゃない。大切にしなさい」


「父さん!!」

部屋を出ようとする父さんを呼び止めた。


「言われなくてもそのつもりだよ。だけど…ありがとう」

どこまでも曲がった性格の俺。
これが今の俺の精一杯の伝え方。


「飯田、暁斗たちを頼んだぞ」

「承知しております」

父さんはそう言って部屋をあとにした。



「飯田も、ありがとな。ほんとに感謝してる」

「身に余るお言葉でございます」


そっといおの髪に触れる。


「いおのおかげで今の俺がいるんだ。父さんともこうして話せて…。だけど辛い思いをさせてるんだよな」

「伊織様はやはり太陽でございますね」

「そうだな。俺が…ひまわりなんだ」


そう。
前は黄色のイメージでいおをひまわりに例えたりしてたけど、違う。

ひまわりは俺だったんだ。
いおがいないと俺じゃいれなくなる。


「なぁ、ちょっとふたりっきりにしてくれるか?」

「かしこまりました。なにかございましたらご連絡くださいませ」


俺はいおの隣に寝転んだ。

俺って最低だよな。
こんなに辛い思いをさせてるのに、土下座までさせて。。


どれだけ辛くて悩んだか計り知れないのに。



「助けるのが遅くなってごめん…」


寝ているいおの手を起こさないようにそっと握った。



どれだけ謝っても足りない。

この手を完全に離してしまえば、いおを楽にしてやれるってわかってるのに出来ない。



「好きだよ…」


俺もそっと目を閉じた。