大嫌いな王子様 ー後編ー


次の日の月曜日の朝。

朝ご飯を用意していつも通り制服を着る。


「お母さん、体調どう?」

「最近調子良いのよ。負担かけてごめんね伊織」

「なにも負担じゃないよ」

家族4人で過ごす時間も増えてきて、お母さんの体調も良くなってきてすごく嬉しい。



「行ってきます」

「伊織」

玄関のドアを開けたところでお母さんに呼び止められた。



「大丈夫?」


ドキッ


「なにが?」

「気のせいだったらごめんね。なんだか少し元気がないように見えたから」


心配かけたくない。


「なにもないよ、いつも通り!行ってくるね」


出来る限りの笑顔で家を出た。



静かなところに行って電話をかける。

「おはようございます。3年1組の阿部伊織ですが、熱が出てるので今日お休みさせてください」


初めてのズル休み。


電車に乗って3つ先にある駅に着いて少し歩く。

普通ならもうすぐ学校が始まる時間。
こんな時間に制服で歩いてて補導とかされないかな!?
なんだか少し怖くなってきた。


あ…見えてきた。

少し先に大きなホテルが見えてきた。
これまた高級ホテル。

暁おじに指定された場所。


緊張しながら歩いていくと、ホテルの近くで声をかけられた。


「少しよろしいですか?」

ドキーッ!!

ヤバイ、とうとう補導か!?


「阿部伊織様でしょうか?」

よく見ると黒いスーツを着た男の人だった。


「えっと…はい……」

なんで名前を知って、、、



「いきなり失礼いたしました。相談役より仰せつかっております。お部屋までご案内いたします」


暁おじの部下の人とか!?

その人に案内されるままホテルの中に入り、エレベーターで上がっていく。

何階まで上がるんだよ。


やっと着いたのは25階。


そして少し歩くとその男の人はドアをノックした。


「お連れしました」

「入れ」


ドアを開けてもらうと、そこはとてつもなく広い部屋で景色を一望できる大きな窓がすぐ目に入った。

そして、その部屋の大きなソファに座っている暁おじ。



「下がっていいぞ」

一礼して男の人は部屋から出ていった。

部屋には私と暁おじのふたりだけ。


「久しぶりじゃな」

「はい」

暁おとは違った威圧感。


「まぁ座りなさい。悪かったな、学校を休ませてしまって」

「いえ…」

私、なんとか普通に話せてる。


「きみに割ける時間がこの時間しかなくてな」

嫌味にも聞こえる言葉。
だけど、聞き流すんだ。


私はなにも答えず暁おじの向かいのソファに座った。



「で?決心はついたかね?」

「はい」




「では暁斗と…「別れません」

別れるって決めつけてるような言い方で始まった暁おじの言葉を遮るように言った。

言ってやった。


「わしの耳が悪いのかのぉ…別れないと?」

「はい」


「では…きみのお父さんがどうなってもいいということじゃな。よくわかった」

「いえ、お父さんは関係ないので巻き込まないでください」

「言っている意味がわからんのぉ」


暁おとの時とは違った威圧感。

出会った頃の暁おとも怖くて冷めた印象だったけど…
それをはるかに超えた冷たさを感じる。

感情がない…っていうのかな?
そんな感じ。


だから、ものすごく怖い。

だけど、ひるまないって決めたから。

この人にいどむって決めたんだから。


「前にも言いましたよね?なにかをするなら私自身にしてください。家族は関係ありません」

「あるんじゃよ。きみにはその覚悟がないだけじゃ」


ドクンッ!!

「暁斗と一緒にいるというのは、そういうことじゃ。自分の都合の良いようにしてもらおうなんて甘い考えはやめるんじゃな。きみのしていることは、それだけ周りを巻き込んでいることなんじゃ」


暁斗くんといることが、周りを巻き込んでるの?


「暁斗くんとただ一緒にいたいだけなのに…それはそんなにいけないことなんですか?」


「恨むならきみのご両親を恨むんじゃな。庶民以下の家庭に生まれたのが運の尽きなんじゃと」


イラッ…

「家族をバカにしないでください…。そんなに偉いですか?お金持ちが」

ムカついてきた。


「あなたになにがわかるんですか!?私はお母さんたちの元に生まれてすごく幸せなんです!あなたにそんなこと言われる筋合いなんかありません!!」