大嫌いな王子様 ー後編ー

「暁斗坊っちゃま、申し訳ございません。隠すつもりはございませんでした。ただ…」

飯田が少し悲しそうな、なんとも言えない表情をした。

「なんだよ」

「あのままだと伊織様の心が壊れてしまうんじゃないかと思ってしまったんです。ですが、私なんかがすることではなかったです。大変申し訳ございません」


違う、飯田は悪くない。

そんなこと、わかりきってるのに。


俺は手を放した。


「…悪かった」


こうなるってわかってたのに、いおに伝えたのは俺だ。

なのに結局ひとりにさせてる。


「こうなってしまうと旦那様はわかってらしたので、坊っちゃまと伊織様に離れるようお伝えされていたのだと思います」


そう、それを俺は絶対乗り越えて、いおを守るって決めたんだよ。

だけど、その結果がこれ。


「私に出来ることを精一杯いたします」

飯田にはいつも助けてもらってばかり。

「今回の話も飯田のおかげで知れた。十分助けてもらってるよ」

飯田が、ジジイの側近で仲良い奴から入手してくれた情報だった。



「なぁ…俺って無力だよな」

「そんなことー…!!」

「無力なんだよ。だからいおに辛い想いをさせてしまってる」


いっそ、俺が皆実家から出ていけば・・・


「俺みたいに出ていこうなんて考えない方がいいよ?まぁ、暁兄の“出ていく”は俺なんかのこととはレベルが違うだろうけど」

「坊っちゃま!?」

さすが弟。
俺の気持ちはお見通しですか。



「皆実家と縁を切るなんてして、伊織が喜ぶと思ってんの?てか、その前にくそジジイがさらにすげー妨害してきてお互い破滅だと思うよ」

俺なんかよりちゃんと冷静な和希。



「暁斗坊っちゃま、どうか冷静な判断を…」

「わかってる…」


いおー・・・




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もう朝か。。

あれから飯田さんに送ってもらってなんとか帰ってきた。


今日は土曜日で朝からアルバイト。
眠れるわけはなく、一睡も出来なかった。


暁斗くんや和希くん、佐伯くんや金澤さんまでみんな連絡をくれていたけど出れなかった。

なにをどう話せばいいかわからなかったし、ただ泣いて余計に心配かけてしまうと思ったから。

なんて
ただの言い訳で逃げてるだけだよね。

もう、自分が嫌だ。



私はスマホを持って電話をかけた。
時刻は7:18。
昨日かけようとして何度もスマホを持ったけど、怖くてボタンが押せなかった。


「もしもし?こんな朝早くにどうした」

「あ、お父さん…。ごめんね、いきなり」


「なにかあったか?」

「う、ううん。今日は仕事?」

「あぁ。夕方には終わるぞ」


よかった。。まだなにも言われてないみたい。。


「頑張ってね。応援してる」

「…伊織?」

「ん?」

「なにかあったなら父さんを頼るんだぞ。…って、偉そうに言える立場じゃないけどな」


ううん、お父さんありがとう。


「ありがとう。私も夕方までバイトだしご飯食べに来てよ」

「ほんとか!仕事終わったらすぐ行くよ」

「うん、晴も喜ぶよ」


電話を切って深呼吸をする。

逃げてちゃダメだ。


お父さんを守らないと。




スマホが鳴った。
知らない番号。

嫌な予感は当たる。


「もしもし」


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「行ってきます」

アパートの階段を降りると


「なんで…」

暁斗くんがいた。


「テメェ、なんで電話に出ねぇんだよ」

いつからいたの?
ずっと待っててくれたの?


私に近づいた暁斗くんが、私の目元に触れる。


「寝てないのか?」

私は小さく頷いた、



次の瞬間、暁斗くんの温かさに包まれた。


「俺のせいでごめん。こんな苦しめてるのに…なのに好きで仕方なくて離したくないんだ」

嬉しくて涙が出る。
昨日あんなに泣いたのに、涙ってまだ出るんだね。

私だって大好きだよ。
だから、こんなに悩んでしまう。

どうしたらいいのか、わからなくなってしまう。



「暁斗くん、私も大好きだから」

だから、少し足掻いてみます。


「昨日は逃げちゃってごめんね」

「なんも逃げてねぇよ。俺がおまえを守れてなくて…」
「違うよ」


暁斗くんはいつも守ってくれてる。
私が戦えてないの。


「バイト行ってくる。あとで連絡するね!」

私は暁斗くんから離れてアルバイト先のコンビニまで走った。


(回想)

「もしもし」

「どこからか知らんが、きみの父親のことを暁斗たちが聞きつけたようだね」


暁斗くんのお祖父さん。。


「まぁ、それなら言う手間も省けて好都合じゃ。わしの言いたいことはわかっておるな?」

「…はい」

「明後日の月曜日まで猶予をやろう。月曜日の朝、私は日本に戻る。その時に話を聞かせてもらおう」


(回想終了)