「暁斗くん、理香さん…迷惑かけてごめんなさい」
「いお!だから迷惑とかじゃないってー…「私に…」
これ以上が言えない。
私に出来ることなんて、、たったひとつしかなくて
でも、それをするってことは
暁斗くんと離れるってことで
その覚悟もない。
「少しだけ…時間をください」
私はそう言って荷物を持ち、走って部屋を出た。
「いお!!」
「伊織!?」
暁斗くんや和希くんたちの声が聞こえたけど、私は無視してエレベーターホールまで走った。
ううん、逃げたんだ。
ポーンッ
奇跡的にすぐに来たエレベーター。
乗ろうとした時、腕を引っ張られた。
「いお!どこ行くんだよ!」
暁斗くんが追いかけてきてくれた。
少しでも気を緩めると涙が出そうで我慢するので精一杯。
ここで泣いたら、暁斗くんたちにさらに迷惑や心配をかけちゃう。
お願い
「はな…し、て…」
かすれるような私の声を聞いた暁斗くんが、泣きそうな表情をした。
そして、手を離した。
私はエレベーターに乗って、そのまま振り向かずに扉を閉めた。
暁斗くんにあんな表情(かお)させるなんて
私、ほんとなにしてんだろ。
ひとりのエレベーターの時間。
我慢していた涙が溢れてきて止まらない。
1階に着いて急いでホテルの外へ向かう。
下を向いて泣いているのをバレないように。
「伊織様!」
ホテルを出たところでまた腕を引っ張られた。
「飯田さん…」
ヤバッ泣いてるのバレちゃう。
急いで下を向く。
「お送りします」
多く言わない飯田さん。
きっと暁斗くんが下にいる飯田さんに連絡してくれたんだ。
どこまでも優しい暁斗くん。
そして飯田さん。
ううん、私の周りにいるみんな、ほんとに優しくて…
だから私は甘えてばっかり。
「大丈夫です。ありがとうございます」
私は俯いたままそう言ってその場を去ろうとした。
「伊織様、こちらを向いてください」
穏やかな飯田さんが私の腕を離してくれない。
私は首を横に振る。
「ひとりで泣かないでください」
飯田さんのその言葉に涙腺は完全に崩壊。
次の瞬間、飯田さんに抱きしめられた。
「いきなりすみません。ただ…今は我慢せず泣いてください」
飯田さんの言葉や温かさに心が少しホッとして、私はそのまま泣き続けてしまった。
暁斗くんと離れたくない
でも、お父さんにクビになってほしくない
暁斗くんたちにこれ以上迷惑かけたくない
家族がまた離れちゃうなんて嫌だ
もう感情がぐちゃぐちゃで、自分がなにをどうしたいのかわからなくなった。
私はとんでもない人を敵に回したんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「先帰るね」
「あぁ、今日はありがとな。理香」
「…伊織ちゃん、ちゃんと守りなよ?」
そう言って理香は車に乗り、ホテルを後にした。
「なんか…悪かったな、俺たち」
「なんで佐伯が謝ってんだよ。いおに付き合ってくれてありがとな」
「皆実、まさか伊織と…いや、なんでもない」
佐伯が言いたいことはなんとなくわかる。
「暁斗さん、あなたも周りをもっと頼らないといけませんよ」
「金澤たちにもこうして十分世話になってるよ」
「そういうことではなくて。私たちは所詮まだまだ子どもなんです。大人の本気の力には敵わないんです」
「なにが言いてぇんだよ…」
俺が無力だって言いたいのか。
まぁ、そう言われても仕方ない。
いおにあんな表情(かお)させて、追いかけられなかったんだから。
「向こうが卑怯なことをしてくるなら、こっちも最大限使える力を使うってことです」
なんだよそれ
「暁斗さん、プライドは捨ててくださいね?プライドなんかより伊織さんが大事ですよね?」
あ、、、
「金澤…おまえってすげー奴だな」
「ズル賢いだけです。その方法がうまくいくかはわかりませんが、やらないより良いことだけは確かです」
「あぁ。マジありがとう」
金澤と佐伯も、金澤の車に乗り帰っていった。
「暁斗坊っちゃま、和希坊っちゃま大変お待たせいたしました」
「飯田、いおは?」
「無事ご自宅までお送りいたしました」
「そうか。ありがとう」
よかった、無事に帰れて。
一刻も早くいおに会いたい。
だけど、それはいおを安心させれるようにしてからだ。
「ねぇ飯田さん」
ずっと黙っていた和希が喋りだした。
「なんで伊織を抱きしめたの?」
は…?
「和希坊っちゃま、見てらしたのですね」
「伊織追いかけて下におりてきたらまさかの光景でビックリしたわ」
いおがエレベーターでおりた後、和希が走ってやってきた。
「暁兄!伊織行かせたの!?追いかけねぇの!?」
いおの泣きそうな顔、消えそうな声を聞いた俺は追いかけないといけないのにその場から足が動かなかった。
「チッ!バカ暁兄!」
そう言ってエレベーターに乗っていおを追いかけていった和希。
まさか、そんな光景を見ていたなんて…。
「ねぇ、ちゃんと答えてよ。飯田さん」
ガシッ!
「飯田…テメェなにしたかわかってんのか?言ったよな?いおに触んなって」
気づけば俺は飯田の胸ぐらを掴んでいた。



