大嫌いな王子様 ー後編ー


「好きなもん頼んで」

「じゃあ私、いちごパフェを」

「俺はピザ食べたいなぁー。和希や理香さんは?」

「馴れ馴れしく呼ぶなよ、佐伯」

「なんで俺に対しては呼び捨てにタメ口なんだよ!」

「伊織と仲良くする男とはつるまないんで」

「うーわ、弟の方が兄より重症」


さっきのカオスな状況からなんとか抜け、スイートの部屋に戻ってきた。
もちろん、今度はみんなで。

相変わらずみんなはギャーギャーしてる。


「うるせぇな。頼まねぇぞ」

暁斗くんがルームサービスをご馳走してくれるらしい。


「私が来ちゃったから…ごめんね?」

「別にいおのせいじゃねぇよ。“偶然”来たんだろ?」

あ、意地悪な笑顔だ。
しかも金澤さんから連絡あったんだし…後つけたの絶対バレてるよね?


「いやえっと偶然というか…」

「暁斗、話しちゃえば?」


私の言葉を遮るように理香さんが言った。


「話す??」

「そう。なんでここに私たちがいたのかってこと」

私の質問に理香さんが答えてくれた。


ずっと気になってたこと。

どうして今日理香さんと会っていたのか
そもそも、会うことをどうして私に話してくれなかったのか
ここでなにをしていたのか


聞きたいことが次々と出てくる。



「そうだな…ほんとは落ち着いてから話すつもりだったんだけど」


緊張のせいか、手汗がすごい。


「ジジイがめんどくさいことしてきてさ」

暁斗くんが言うジジイとは、この前会ったお祖父さんで会社の相談役の人。


「えっと…めんどくさいって…?」

聞くのが怖いけど、聞かなきゃいけない。
暁斗くんたちに迷惑がかかっているなら、今すぐなんとかしなきゃ。


「先に言うけど…いおのせいじゃないからな。それだけは絶対思うなよ」

さすが…私の性格をわかってる。


「…うん」

暁斗くんがなかなか話さない。
言葉に詰まってる感じっていうのかな。。
その間がものすごく長く感じる。
それぐらい不安が襲いかかってきてる。



「私たち、はとこ同士なの」

話しづらそうにしている暁斗くんを見かねてか、理香さんが話しだした。


そうなんだ、はとこだったんだ。


「でね、暁斗のお父さんがやってる会社の子会社の社長が私の父なの」

子会社!
やっぱりすごい世界だ。


「父が経営してる会社の下請けがー…「理香、そこからは俺が話すから」

理香さんの言葉を暁斗くんが遮った。


「ちゃんと話せるの?」

「あぁ…。ありがとな」


暁斗くんの強張った顔。


「それこそ偶然なのか…理香の父さんの会社の下請けにいおの父さんが働いている会社があったんだ」


ドクンッ…!!


「くそジジイが…いおの父さんをクビにしないと今後取引をやめるってその会社に言うように理香の父さんに言ったんだよ」


自分の考えの甘さにほどほど嫌気がさした。

自分が考えていた以上のことが起こりだしているんだ。


なにが“一緒にいる覚悟”よ。。。


「いお、なにも心配すんな。いおの父さんも必ず守るから」


なにが“負けない”よ。。。


「伊織ちゃん、このことで今日話してたんだけど私も動ける限りなんでもするし大丈夫だよ」


結局自分ではなにも出来なくて
暁斗くんや理香さんに頼りっぱなし。


私のために動いてくれていたふたりを疑った自分が恥ずかし過ぎて

そんな私の浅はかな考えに佐伯くんと金澤さんを巻き込んで


え・・・


私、なにしてるんだろ。


迷惑しかかけてないじゃんか。



「いお?」


パシッ
私の方へのばした暁斗くんの手を咄嗟に払いのけてしまった。


「あ、いや…えっとごめんね…」

なんで払いのけてしまったのか、自分でもわからない。


こんな簡単に揺れ動く覚悟なんて、覚悟じゃない。


お父さんが今の会社で認めてもらえたことを嬉しそうに話す顔が頭をよぎる。


もし私のせいでお父さんがクビになったら
また辛い思いをお父さんにさせてしまう。

せっかく家族みんなでいる時間が増えてきたのに、またお母さんや晴に辛い思いをさせてしまう。


そんなの…いやだ。
絶対いやだ。