大嫌いな王子様 ー後編ー

「なにしてるの?行くわよ」

「はっはい!」

頭を横に振り、今の気持ちをかき消そうとする。


「ところであなた、いまだに敬語ね」

「あ!なんか抜けなくて」


そんな会話をしながらエレベーターホールに向かう。


「ごめんなさい、トイレ行ってきてもいいですか?」

「ならついていくわ」


ちょうどエレベーターがやってきた。


「ううん、先に降りててください。すぐ行きます」

「わかったわ、20階よ」

「はい」


金澤さんと佐伯くんは先にレストラン街の20階に向かった。


少しして私もトイレを済ませてエレベーターに乗り、止まった階で降りた。


暁斗くんのことばかり考えていて、ぼーっとして歩いていると人とぶつかってしまった。


ドンッ

「わっすみません」

「大丈夫?」

顔を上げるとスーツを着た男性だった。


謝ってその場を去ろうとすると、腕を引っ張られた。


「お姉さんひとり?綺麗だね、名前教えてよ」

はい!?

「いえ、待ち合わせてるので…」

「なんか一目惚れしちゃった。連絡先だけでも教えて」


なんだこの人〜!!?
腕を引っ張る力が強くて離れられない。


「お兄さん、この子俺の連れだからやめてくれない?」

私の後ろから聞こえた声。
あれ、聞いたことある気が……


「ってあれ?あなた確かウチの…」

「わぁ!和希さんのお知り合いでしたか!!大変失礼いたしました!!」


そう叫んで男性はダッシュして去っていった。


ん?

今【和希】って言った…?


「大丈夫でしたか?では」

「まっ待って!」

私はその人の顔を見るため振り向いて腕を掴んだ。


「えっ!!伊織!?」

やっぱり和希くんだ!


「は?なんで伊織がここにいんの?てか、なにその格好」


「え、えっとそれは…」


しまった!!
引き止めたはいいけど、ここにいる言い訳が思いつかない!
まさか暁斗くんの後をつけてきたなんて言えないし…


「えっと…ここ20階だよね?」

ぼーっとしてて気づかなかったけど、見渡しても見えるのは廊下と部屋のドアばかり。
お店らしきものは全然ない。


「いや、ここ26階だけど」

「えっ!!」

うそ!!
ぼーっとしてたせいで間違ってボタン押しちゃったんだ!!


「…さっき大丈夫だった?アイツ、ウチの会社の取引先の息子だよ。パーティーで見かけたことがあるから」

「そうなんだ…私は全然大丈夫だよ」

「ならよかった。で、なんでここにいるの?」


それは…

私が言いにくそうにしていると、和希くんが私の右ほっぺに触れた。


「こんな可愛いのにひとりで歩いてたら危ないに決まってんだろ」

「なっ!和希くん、なに言って…!」

「んー、理由はどうでもいいや。伊織に会えたんだし」

ぎゅう!!
そう言って和希くんが私を抱きしめた。


「わぁ!和希くん、離して!」

「やだ。ここ最近、俺なりに我慢してたんだよ?だけど、やっぱ諦められないし。伊織のこと、大好きだし」


なんですか、この展開は


「ねぇ、暁兄に会いに来たんじゃない?」


ドクンッ!!


「そ、れは…」


「暁兄なら人と会ってるよ。この奥のスイートで。相手は女子だけど」

「そう…なんだ」

知ってる。あの女の子だよね。
やっぱり部屋で会ってるんだ。

しかもスイートって。。



「伊織、いつも可愛いけど今日は特別可愛い」

和希くんが言ってくれて嬉しいけど、、、ほんとは

暁斗くんに言ってほしかった。



「伊織…」

気づけば、私は泣いていた。


「なんで泣くんだよ」

和希くんが私の目元に触れて涙を拭ってくれる。



「そんなに暁兄が好きなんだ」


コクン…

私は小さく頷いた。



ぎゅう

「あー、やっぱムカつくー」

「ちょっ…」

また抱きしめられた。


「ちょーっとぐらい俺を見てくれたっていいじゃん」

和希くんの腕の中で頭を横に振る。



ぎゅう!!
さらに抱きしめる力が強くなった。


「和希…くん、苦しいよ。離して」

離れようとしても力が敵わない。



「やだー…ぐぇっ!!」

いきなり和希くんの力が弱まった。



「テメェ、今すぐ殺す」

あ、この声は


「いお、なにしてんだよ」

目の前に大好きな人。


私は動けなくて、ただ涙が溢れて止まらない。


「いお…?」

暁斗くんが私に近づく。


「暁斗ー?なにしてるの?」

暁斗くんの後ろから、門で見た女の子がやってきた。


「理香」

まただ。
また、呼んだ。


胸がモヤモヤして苦しい。


私はなんとか足を動かして後ろを向く。


「失礼しました」

意味不明なことを言ってその場を去ろうとする。



グイッ

「は?どこ行こうとしてんの?」

「わっ!!」


「お前ら、しばらく部屋来んな」

暁斗くんに引っ張られてどこかに連れていかれる。



「はいは〜い」

「ねぇ和希、あの子が例の“伊織ちゃん”?」

「そうだよ。つい意地悪しちゃって泣かせちゃった。俺、最悪」

「あんたもこりないなぁ」



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バタンッ
連れてこられた部屋はすごく広い部屋。
クリスマスの日に過ごした部屋と同じぐらいかな?


「聞きたいことあり過ぎるんだけど…とりあえず、なんで泣いてるんだよ」

私は下を向いた。


「じゃあ、次の質問。さっきなんで和希に抱きしめられてたんだよ」

私は下を向いたまま。
なんて言えばいいのかわからなくて黙ったまま。


「和希のこと、好きになったのか?」

「違う!そんなわけ…!」

バッと顔を上げて否定をすると、こっちを見て優しく笑う暁斗くんがいた。


「じゃあ…次の質問。なに、この可愛い格好は。メイクもしてるよな?誰か誘惑しに来たの?」


え、、なんでそんなこと言うの?


「誘惑なんて…そんなのするわけないもん…」

「じゃあなんで?誰のためにしたんだよ」


なんだか、いつもの暁斗くんじゃないみたい。


「えっと…このホテルに入っていく暁斗くんを偶然見かけて」

「偶然ね」

早速、嘘をつく私。