大嫌いな王子様 ー後編ー


「あなた、そんな簡単に諦めるの?」

帰ろうとした私を止めたのは金澤さんだった。


「だって…私にこんな所入ることすら出来ないし…そもそも後つけるとかがダメだったから…」

「まぁ、あなたに似合わず弱気ね」

「金澤、さっきから言い過ぎな気が…」


いや、金澤さんの言ってることは全部合ってる。


グイッ
いきなり腕を引っ張られた。


「誤解しないで。さっき言ったのは制服のことよ。私たちだって簡単に入れないわよ。ついて来なさい」

「金澤さん…?」

「吉田、ここの衣装サロンに問い合わせて」
「かしこまりました」

金澤さんの付き人?的な人で名前が吉田さん(飯田さんのような人かな)にそう言った金澤さんに連れて行かれるまま、私はホテルの中に入った。

「俺もなんとかしてー金澤〜」

「佐伯さん、いつまでついてくる気なの?」

ホテルの中の入口付近で待っていると、吉田さんがこっちにやってきた。


「お嬢様、確保出来ました。16階でございます」

「ありがとう」


私はわけがわからないまま金澤さんについていき、エレベーターに乗り込む。

16階に着くと、とっても綺麗なドレスがたくさんある部屋に着いた。


「金澤様、お待ちしておりました」

「ワンピース2着お願いできるかしら?」

「かしこまりました」


へっ!!?
なにが起こってるの!?


「あっすみません、俺も!」

「佐伯さん?あなたは実費よ」

「今だけでも立て替えてよ」

佐伯くんが金澤さんに手を合わせてお願いしてる。


「金澤さん、これは…」

「まぁ、とりあえず言う通りにしてみて」

「は、はい」


しばらくすると綺麗なお姉さんたちがやってきて、何着か服を合わせて似合うものを探してくれている。


「メイクもお願いね」

「かしこまりました」


「あ、あの!金澤さん!!これは…!」

「いいから。じっとしてなさい」

そう言って隣に座る金澤さんは優しく微笑んだ。


ワンピースが決まったあとはメイクもしてもらった。
プロの人にしてもらうのは、前に暁斗くんの家でしてもらって以来。


あ、暁斗くんのことまた思い出しちゃった。
今あの女の子となにしてるんだろう。

なんでこんなホテルに来てるんだろう。


なんで言ってくれなかったんだろう。


モヤモヤが止まらない。



「出来ました!いかがでしょうか?」

メイクのお姉さんの声でハッとして目の前の鏡を見る。


「わ…あー…」

なんだか自分じゃないみたい。
綺麗にメイクをしてもらってなんだか照れてしまう。


「可愛いじゃない」

声がする隣を見ると、そこにはさらに綺麗になった金澤さんがいた。


「金澤さん、綺麗過ぎる…」

「は!?バカ///あなたってやっぱり変ね!」

照れてるのかプイッとそっぽを向いてしまった金澤さん。


サロンの受付に戻ると正装した佐伯くんもいた。


「おぉー!伊織可愛いじゃん」

「あ、ありがとう。佐伯くんもかっこいいよ」

「そうか?サンキュー。金澤も似合ってんな」

「あなた、それ実費ね」

「わかってんよ!!」


金澤さんと佐伯くんのやり取りがなんだか面白い。


「あの…金澤さん、ここの支払いいくらでしょうか?佐伯くんも私がそもそも巻き込んでしまいましたし…あっ!金澤さんも巻き込んでますね…」

一回では払いきれないかもしれない。(いや、絶対無理だろうな)

もしかしたら奇跡が起きて8千円あたりまでなら切り詰めたら…

そんなわけなさ過ぎて、現実逃避を始めている。


「あなたが払えるような金額じゃないわ。ていうか、いらないし」

「でも!出してもらいっぱなしは嫌です!!分割にして払わせてください!」

「しうこいわね。いらないったら…」

「でも…!」

「おーい。皆実、探さなくていいのか?」


佐伯くんの言葉でハッとする私たち。


「この話は保留。暁斗さんを探しましょう」

「…うん」

「メイクもしてさらに綺麗になった自分を見てもらいましょ♪」

「はいっ!」

不思議。
金澤さんの言葉と笑顔で不安が減って笑えるようになった。



ーーーーーーーーーーー

考えが甘かったのか、レストラン街に行ってもいないしロビーにあるカフェにもいなかった。


「レストランに入れるように着替えたんだけど…こうなってくると部屋しか考えられないわね」


部屋!!??
部屋にふたりっきりってこと!!??


「受付の人に聞いてみたらわかるかな!?」

「個人情報教えるわけねぇじゃん」


そりゃそうだ。
佐伯くんの言う通りで言ったそばから落ち込む。

もし部屋にふたりきりだったら…


「あなた、またくだらないこと考えてるの?暁斗さんを信じなさいよ」

金澤さん…


「信じろっていう割に後つけたりお前もやることやってんじゃん」

「だって面白そうだったから♪」

なんと!?


でも

「こうしてホテルの中まで入って探せたのは金澤さんのおかげです。そして初めからこんなことに付き合ってくれた佐伯くんも。ほんとにありがとうございます」


もう帰ろう。


「…せっかく綺麗になったんだし、もう少し楽しみましょうよ」

「え?」

「そうだな。腹減ったしなにか食いたいー」

「レストラン、どこか見てみましょうか」


なんだか異次元だけど、金澤さんも佐伯くんも優しくて温かさがものすごく伝わってくる。


「金澤さん、ほんとにすごいね。こんなホテルですぐにサロンを予約出来たりそもそもこうして入れたり」

「全然すごくないわよ。暁斗さんなんか制服のままだろうし。このホテル、皆実グループが出資してるしね」

「おぉ〜さすが皆実だなぁ」


でた、また異次元の世界。
やっぱり暁斗くんは別世界の人なんだ。


あれだけ暁斗くんとこれからも一緒にいたいって思ったくせに、簡単に揺らぐこの気持ち。


私なんかが隣にいてほんとにいいんだろうか。

さっきの子の方が似合ってるんじゃないだろうか。