大嫌いな王子様 ー後編ー

暁斗くんが私の目元を指でなぞって涙を拭ってくれる。

「なんでいおが泣くの」

その言い方や表情が優しくて切なくて胸がぎゅーっとなる。


「ねぇ暁斗くん」

「なに?」


我慢しないで


「泣いていいんだよ?」


ひとりで我慢しないで。



暁斗くんがパッと下を向いた。


「バカいお…そんなダサいことできっか…」


私は暁斗くんの手を握った。


「全然ダサくないもん。暁斗くんはカッコいいんだから」


ゆっくりと顔を上げた暁斗くんの頬が濡れていて、今度は私が指で拭う。


「これからは毎年一緒に来ようね」

「あぁ、絶対だぞ」



少しの間、ふたりでボーッとしていた。
その時間すら心地良い。


「母さんが亡くなったこと、最初はなかなか受け止めれなかったんだ」

私はなにも言わず、静かに聞く。


「俺がそばにいれば助けれたんじゃないか、俺が代わりに事故に遭ってればって…そればっか考えてた」


「そのせいもあって、いおはずっと俺がそばにいて守らなきゃって思ってた。まぁ今も思ってるけど。でも父さんたちに文句言わせないために仕事もこなさなきゃで何をどうしたらいいのかわかんなくなる時も多かってさ」


今度は暁斗くんが私の手を握った。


「もしいなくなったら…って思うと母さんのことがよぎって怖くなるんだ」


私の手を握る暁斗くんの手が震えてる。
こんな暁斗くん、初めて見る。。。


「大丈夫!!私はこうしてそばにいるから!」


な、なにか説得力のある言葉を…!!


「ほら!私ってなんていうか…学校とアルバイトの往復ばっかりだし決まった道しか歩かないし…ほかにはえっと…意外と丈夫だし、それからー…」


「ぶはっ!!おまえ、なに言ってんの」

あ、笑ってくれた。。。



「なぁ母さん、これからも俺たちを見守っててよ」

「あ!和希くんや飯田さんたちも!暁おともだし牧さんもだし料理長や…」

「晴たちもだろ?」

「うん!!」

「いお、欲張り過ぎ」


私ってばこんな時に…こんな気持ちになるなんておかしいんじゃないだろうか。
だけど想っちゃうんだもん、仕方ないよね。


「暁斗くん、好き」

「なっ!!なんだよ急に!!」

照れて顔が赤い暁斗くん。



「あー!!イチャつくの禁止ー!!」

和希くんの声が聞こえた。


「ゲ…もう来たか」

和希くんと飯田さんがやってきて4人で改めて手を合わせる。



「母さん、伊織に会えて喜んでるだろうね」

「ほんと?そうだったら嬉しいな」

「俺も…やっと来れて嬉しいし」


和希くんも去年帰ってきてからぶりのお墓参りらしい。



お墓の前でみんなで少し話をしてたら

「皆様、そろそろ行きましょうか」

飯田さんが声をかけてくれた。



「あぁ。じゃあな母さん、また来るよ」


私と飯田さんはぺこりと一礼した。

「母さんまたねー」

和希くんもお墓に手を振る。



車に向かう途中。

「なぁ、おまえたまに【アキオト】って言うけど、あれなんだ?さっきも連呼してたよな」


ヒエッ!!!


「いや、えっとー…」


お父さんのことだよって言っていいものか。。。



「暁斗坊っちゃま、ご帰宅後少しご相談したい件があるのですが…」

「あ?今日休みだよな?」

「申し訳ございません」


飯田さんが話しかけてくれたおかげでさっきの話は流れた。

ホッとして飯田さんの方を見ると、こっちを見てニコッと微笑んだ。


飯田さんは全部わかってるんだ。
やっぱりすごい人だな。