「ほんとに私も行っていいの?」
「あぁ」
飯田さんに送ってもらってやってきたのはお墓がある場所。
「母さんに会ってほしい」
そう、暁斗くんのお母さんのお墓がある場所だ。
(回想)
「来月の24の日曜日?」
「そう。バイト入れずに空けといて」
あれから暁斗くんとは用事がなくてもちょこちょこ電話をするようになった。
「うん、わかった。なにかあるの?」
デートかな?
でも1ヶ月も前に言うのは珍しいな。
(基本ギリギリにいきなり言う人だから)
「ついてきてほしい場所があるから」
ついてきてほしい場所。
「どこ?気になる」
「母さんのとこ」
(回想終了)
暁斗くんのお母さんのお墓参り。
なんだろ、少し緊張する。
「和希くんは一緒に来なくてよかったの?」
「あのアホ進級試験ギリ過ぎたから、カテキョ受けてから飯田が連れてくるよ」
和希くんはなんとか無事に進級試験が受かり、来月から高校1年生になる。
「和希には悪りぃけど…今日はいおとふたりで来たかったから」
暁斗くんはそう言って手を繋いだ。
「あ…あそこがお墓かな?」
「まだ離れてるのによくわかったな」
わかるよ、だって
「あのお花…」
「花?」
会社の暁おとの部屋に飾られてた白い綺麗なお花がお墓の前にあったから。
咲さんのお墓の前に着いた。
「会社のお父さんの部屋に飾られてたお花と一緒だったから」
「父さんの部屋に入ったのか!?」
「へ!?う、うん…」
なぜか、暁斗くんがすごく驚いている。
「どしたの??」
「いや…父さんの会長室、俺入ったことないからさ」
「そうなんだ…」
わしゃわしゃ
暁斗くんに頭を撫でられた。
「父さんも…いおを守ろうとしてくれてるんかもな」
少し切なそうな暁斗くんの表情。
「あき…「母さん、いおを連れてきたよ」
暁斗くんの言葉にかぶってしまった。
お墓の前で手を合わせる。
「初めまして…。阿部伊織と言います」
私はチラッと暁斗くんを見た。
目が合って暁斗くんが「ん?」と優しく微笑む。
「暁斗くんとお付き合いさせていただいてます」
咲さん…ううん、暁斗くんのお母さんにちゃんと伝えたかったからやっと言えて嬉しい。
「いお…サンキュ」
少し小さな声でボソッと言った暁斗くん。
「この花、父さんが毎年飾ってたんだな」
「毎年あったの?」
「あぁ。ここに父さんと来たことがないし、ここで会うことも一度もなかった。だから父さんは来てないんだと思ってマジ許せなかった」
暁斗くん…
「このお花、暁斗くんのお母さんが好きだったお花みたいだよ」
「そう…なんだ」
「ちょっとすれ違っちゃってただけだよ。もっとこれから暁おとと話さなきゃだね!楽しみが増えたね!」
わしゃわしゃ
「わぁ!!」
暁斗くんがまた私の頭を撫でた。
今度はボサボサになるぐらいに。
「バーカ。楽しみとかねぇよ」
そんな風に言うけど顔は笑ってて、なんだか胸がぎゅっとなって泣きそう。
「母さんてさ、いつも笑ってて俺が父さんのことを全然帰ってこないとか悪く言うと必ず言う言葉があったんだ」
「どんな言葉?」
「“お母さんたちを守ってくれてるんだよ”って」
それって…
「あの頃は意味がわからなかった。そばにいなくて放ったらかされてなにが守るんだって。でも…今ならなんとなくわかるかもしれない」
「暁斗くんも私たちを守ってくれてるもんね。一緒だね」
涙が出ちゃう。
「お母さんも暁おとも、暁斗くんと和希くんが大好きなんだよ」
今からでも全然間に合うから、もっともっと暁おととの時間を過ごしてほしい。
私なんかが思うなんておこがましいんだろうけど、そう願わずにはいられない。



