大嫌いな王子様 ー後編ー


講堂で飯田たちと合流して席に座る。

しばらくすると、いおたちのクラスの劇が始まった。


緊張してるのか、少しオドオドした様子のいお。
だけどすごく頑張ってて楽しそう。


もし…

「もし同じ学校だったら…この時間もいおと共有出来たんだよな」

無意識にボソッと言葉に出してしまっていた。


同じ学校なら会えない時間、見えない時間が減らせるのに。
もっと色んないおを見れるのに

自分でも引くぐらいの独占欲に戸惑ってしまう。
こんな気持ち、いおに出会うまでなったことないからわからない。



「離れてる時間分、色んな伊織を長い時間かけて知っていけるじゃん」

隣で和希がそう言った。


「なんか敵にアドバイスするみたいで嫌だけど。どうせならこのままケンカして別れちゃえば」

照れてるのか、恥ずかしそうにそっぽ向いた和希。



なんだよ、お前のほうが大人じゃん。


「サンキュー…」



いおの学校での様子。

俺はまだまだいおの知らないところがいっぱいあるんだろうな。




いおのクラスの劇が終わった。

次のクラスまで少し時間があり、俺はトイレに向かった。



あれ?
この階になかったっけ?

少し迷ってウロウロしていると、角を曲がったところで誰かとぶつかった。



「悪い…大丈夫か?」

ぶつかった拍子にしりもちをついた女の子に手を差し出す。



「あれ…暁斗くん」

「いお…」

顔を上げた女の子はいおだった。


衣装を着てカツラもつけてるから一瞬わからなかった。


「どうしてここに?」

「トイレ行きたくて」


あれ…なんでこんなドキドキしてんだ、俺。


「こっちだよ、案内するね」

いおにさっきのこと謝らないと。


「いおはなんでここに?」

「みんなで記念撮影しようってなったから、教室にスマホを取りに行ってたの」


嬉しそうに話すいお。
なぁ、こっち向いてよ。


「着いたよ」

「サンキュ」

「じゃあまたあとでね」


行っちゃう。


ガシッ

気づけばいおの腕を掴んでいた。



「どしたの?」


ぎゅうっ

なにも言わず抱きしめた。



「暁斗くん!?」

なんなんだ、この気持ち。


「あ…さっきのことならもう怒ってないから」


あ、そうだ。謝らないと。
だけどそれだけじゃない、この気持ちは。


「おーい、暁斗くん?」



「もっと…見せてよ」

やっと出た言葉がこれ。


いおと目が合う。


「俺の知らない表情(かお)がいっぱいで…悔しい」


そう言うと、いおの顔が一気に赤くなった。


「わわ!なに言ってるの!?暁斗くん!」



チュッ

いおにキスをする。


「んっ……」

深いキスをしていくと、いおの顔が甘くなりとろんとした目をする。

いおの頬に手を添える。


「俺しか知らない表情(かお)」


ヤバイ、独占欲が止まらない。


「暁斗く…みんなとこ…」

「ダメ。まだ俺のそばにいろ」


足の力が抜けたのか、いおがその場に座り込む。
それでも俺はキスを止めない。


「くるし…」

「ほかの男とキスした罰」

「な…!あれはフリだもん!」


必死に言ういおが可愛くてたまらない。


「知ってる」

またキスをする。



「なぁいお。好きすぎてどうしたらいいかわかんない」


またいおの顔が赤くなった。



「ズルイ…私もだもん」


いや、絶対俺の方が好き。



「あと1分だけ、こうしよ?」

手をぎゅっと握る。



いおがこっちを見る。


「…5分がいい」


ぶはっ!!
いおが可愛すぎて笑ってしまった。


「なっ!なんで笑うの!?」

「可愛すぎるから、いおが」



いいよ


「あと5分ね」


会えない時間、見えない時間があるからこそ

こんなにも愛しさが増していくんだろうか。



そう思うと、この距離感も悪くないって少しは思えそうな気がする。