大嫌いな王子様 ー後編ー


「あなたが僕の探していたシンデレラですか?」

「いいえ。私ではありません」

「そんなことない。僕がきみを間違えるはずがないんだ」

「私、あなたのことなんて知りません」

「なぜ僕を見てくれないんだ」


いや、シンデレラにこんなセリフないよね?
絶対みっちゃんの趣味だ。


「僕はきみが好きなんだ」

これ、ほんとにシンデレラだよね?
てか、これでいいのか?



心の中でセリフにいちいちツッコみながら練習していたせいか、後ろの人の気配に気づかなかった。



グイッ

「きゃっ!」

「阿部さん!?」

いきなり後ろから引っ張られて体が倒れそうになった。




「テメェ確か野外遠足の時に会ったな」


えっ!この声は…!!


「暁斗くん!?」

声の正体は暁斗くんで、後ろから片手を回して私を抱きしめている。


なんでここにいるの!?


「誰の彼女かわかって声かけてんだよな?」


なんか怒ってる…?


「はい…?えっと、、、」

長谷川くんも意味がわからないようで焦っている。



「いお、堂々と浮気か。いい度胸してんじゃん」











「なに言ってんの?」


なんでここにいるのか、とか
暁斗くんに年始以来に会えた!とか

そんな気持ちよりも遥かに大きい【意味がわかんない】気持ち。


「なんで男とふたりで帰ってんだよ。しかも告られやがって」


あ、そっか。



「長谷川くん、先帰ってて。ごめんね」

「お、おう…」

「あ?なんでコイツに謝ってんだよ。てか帰すな」

「長谷川くん、気にしなくていいから先帰って。また明日ね」


うだうだうるさい暁斗くんを無視して長谷川くんに帰ってもらった。



「いお!ふざけてんのか!?」


ダメだ…我慢出来ない。



「いお!なんか言えって…!」

私は暁斗くんの言葉を遮るように抱きついた。



「あ!?なんだよ!マジ意味わかんねぇ」


「暁斗くん、可愛過ぎてヤバイ」

「話すり替えんな!さっきのことちゃんと答えろ!」


私たちのセリフのやり取りを聞いちゃったのかな?
私が告白されてるって勘違いしちゃったのかな?


それで怒ってるの?

それってヤキモチだよね?


「暁斗くんのヤキモチ妬き♪」

「テメェしばかれてぇんだな!?」


誤解してヤキモチ妬いてる暁斗くん。
なんだろ、すごく愛しくなる。


暁斗くんって意外とすぐ信じちゃうとかいうか、こういうとこあるんだよな。



「さっきのは来月ある文化発表会の劇の練習だよ」

「は?劇?練習??」


ポカンとした顔でこっちを見る暁斗くん。


「あれ?言ってなかったっけ?」

「聞いてねぇ」

ギロッと睨んできた。



毎日数回メッセージのやり取りはしてたけど、お互い朝学校行く時とか私がバイトから帰った時の報告ぐらいしかしてなかったから言えてないままだった。



「なんで言わねぇんだよ」

「言わなかったんじゃなくて、言うタイミング?がなかっただけというか…」

「は?言えよ。ひと言言えば済むだろ」

俺様がいつにもまして増している。


「そんな言い方しなくてもいいじゃんか。暁斗くんだって学校のこととか話さないでしょ!?」

「俺は話すことがねぇんだよ」

「そんなのわかんないじゃん」


あぁ、せっかく会えたのにまたケンカになりそう。

私はグッと拳を握った。


「…じゃ、じゃあ電話とかもしてほしい」

ちょっと小声になっちゃったけど、頑張って言った。


「え…?」


「会えない時、用事以外でも電話もしたいよ」


会ってない時間、私たちはあまり電話をしない。
用事がある時ぐらいなのかな。


声だって聞きたくなるもん。

でも忙しいかなって思ったら、かけるのも悪いなぁと思ったり。



「俺、言ったよな?いつでも連絡しろって」

暁斗くんが近づいてきて私は壁に追いやられる。


「そ、そうだけど仕事大変じゃないかなって思ったり…」

「んなの関係ねぇ。お前が1番なんだから」


ドクンッとして一気に自分の顔が赤くなるのがわかった。

ヤバイ…嬉しい。。。


「でも、暁斗くんからだってかけてほしいよ」

「俺からかけてるだろ」

「用事ある時しかないもん」

「じゃあお前がかければいいじゃん」


電話のことだけでこんなに言い合う私たち。
平和だな、なんて呑気に考えたりもする。



「俺に秘密はなしだ。わかってるよな?」


どこまでも俺様。


「暁斗くんだって」

「俺はない」

「私だってないもん!」


暁斗くんがクスッと笑った。


「俺しか見んな」


ぢゅっ

「ひゃっ」


暁斗くんが私の首にキスをした。
鈍い痛みが走る。



「わわわ!!暁斗くん!?今外だしっ!!」

「マーキング♪」

意地悪な笑顔でこっちを見る。
でも、そんな顔もまるで王子様。

こんの意地悪王子め〜!!


「暁斗くん、ところでなんでここにいるの?」

「は?お前迎えに行ったらもう帰ってるって聞いて探してたんだよ」

「そうなの!?連絡くれればよかったのに」

「した」


スマホを見ると数件の着歴が。


「あー…ごめんね」

「んで?さっきの奴との劇とやらについて詳しく話してもらおうじゃん?」

「私このあとバイトあるから」

「ならとっとと話せ」


俺様王子にはなに言っても敵わない。
このあと、シンデレラ役をやめろとか台本は俺が考えるとか色々言い出したけど全部スルーした。