「………はい??」
呪…い??
「うん、くそ親父とくそジジイに。暁兄は長男だし優秀で将来を期待されてるからあのふたりからの圧力がすごすぎてさ。母さんがなんとか壁になって暁兄にかかる負担を減らそうとしてくれてたんだけど、それでもひどかった」
暁斗くんが多く話そうとしなかった昔のことが少しずつ見えてくる。
どんな想いだったんだろう。
「あのジジイは特に頭おかしくて、俺たちを守ってくれる母さんが気に食わなかったのか親族含めて全員で母さんを無視したりひどいことをたくさんしてきた。そんな母さんに少しでも負担をかけないように暁兄はジジイたちの要望に必死で応える。…な?負の連鎖だろ」
どんなに辛かったんだろう。
「俺が覚えてる範囲で…暁兄が遊びに行ってるのとか見たことないんだよな」
【また“初めて”を一緒に過ごせて嬉しかったのは俺だけ?】
暁斗くんの言葉が頭の中でリピートされる。
たくさんあった暁斗くんの【初めて】
一緒に過ごせた初めてに浮かれてたけど、こんな事情で初めてが多かったんだと思うと…
「そんな暁兄を俺は放ってここから逃げた。最低だよね」
「違うよ…。和希くんもすごく辛かったよね。どうしたらいいかわからなくなったんだよね」
「暁兄、さっき発作を起こして倒れたんだ。今までも起こしたことあるみたいで…。ジジイたちのストレスのせいだと思う。俺は発作のことも今まで知らなかった」
ねぇ暁斗くん
どんな気持ちで勉強してた?
どんな気持ちで期待に応えようとしてた?
どんな気持ちで和希くんを探すためにケンカをしてた?
どんな気持ちで私を守るために頑張ってくれてた?
涙が出てしまった。
「伊織…」
「私…暁斗くんになにもしてあげれてないんだ…」
ずっとひとりで抱えて
ひとりで頑張ってたんだ。
「悔しい…」
「え?」
「むっちゃ悔しい!!!!」
一瞬部屋が静まり返った。
いや、暁斗くんは寝てて私と和希くんが喋ってるだけだから元から静かなんだけどね。
「え、なんで関西弁?」
至極真っ当な意見です。
「なんか癖で…最近口にも出るようになっちゃった」
「…は?」
珍しく(?)和希くんが私を見て呆れた顔をしている。
「とにかく!!悔しいの!暁斗くんひとりにそんな気持ちや負担をかけてたことが!!」
「伊織…」
「私がー…!」
「うるせ…」
この声は!!!
ギシッとベッドのきしむ音と一緒に大好きな人の声が聞こえた。
「和希か…って…ん!?なんでいおがー…!」
ぎゅうっ
私は気づいたら暁斗くんに抱きついていた。
「ちょっ…いお、苦しいから。なんでいんの!?てか、俺寝てた!?」
「バカ」
「あ?いきなりなんだよ」
あぁ、いつもの暁斗くんだ。
「もっと言って」
「なにを?」
「…もういい」
「意味わかんねぇよ」
わかんなくていい。
今こうしていれるだけで幸せだから。
「おーい。俺いんだけど?さすがに妬くんだけど?」
ハッ!!!
和希くんの存在を一瞬忘れてた!!
私は急いで暁斗くんから離れようとした。
ぎゅうっ!!!
「え!?」
今度は暁斗くんに抱きしめられた。
「ちょっと暁斗くん!?」
「お前から抱きついてきたんだろ。なんで離れんだよ」
「だって心配だったから…!」
「いい加減離れろって」
3人でわちゃわちゃしていると、暁斗くんの部屋のドアが開いた。
「暁斗坊っちゃま、目が覚められたのですね!」
「あぁ、なんか迷惑かけたな。悪い」
飯田さんと牧さんが心配して様子を見に来てくれた。
ぎゅっ
私はもう一度暁斗くんを抱きしめた。
「え…いお?」
珍しすぎる行動だって自分でもわかってる。
みんなの前で抱きしめてるんだもん。
普段の私なら恥ずかしくて出来ない。
「暁斗くん、みんなこうしてそばにいるから。だからもうひとりで抱え込まないで」
きっと私が1番こうして偉そうになんか言えない立場。
だけど今ちゃんと伝えなきゃいけないって思ったから。
なにも言わない暁斗くん。
「暁斗くん、聞いてますかー?」
次第に顔が赤くなっていく暁斗くん。
そしてパッと顔を伏せてしまった。
「バカ…!うるせぇよ」
あ、照れてるんだ。
飯田さんや牧さんも笑ってる。
「暁兄ってツンデレ〜」
「殺すぞ」
会話がおかしい。
「あー…だから。。。」
???
「ありがとな…」
暁斗くんの少し照れて、でも泣きそうな顔が目に焼き付いてしまった。



