大嫌いな王子様 ー後編ー


23時を回った頃。
もう少ししたら年が明ける。



ヴーッヴーッ

和希くんからの着信。
こんな時間に珍しい。



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「なにかあった?」

「んー、なんで?」

「こんな時間にいきなりって、絶対なにかあったとしか考えられないもん」


あの電話から数分後、飯田さんと一緒に車で私の家までやって来た和希くん。


「せっかくの年越しだし一緒に過ごしたいじゃん」

「だから私はー…!「わかってる」

私の言葉を遮る和希くん。


「変な意味じゃないって。暁兄も一緒に年越したいじゃん」


和希くんの言葉を聞いてホッとする。



和希くんたちの家に着いた。


「ところで私…お邪魔していいのかな?しかもこんな時間に…」


「全然大丈夫♪たださ、裏口からでもいい?」

「え…うん」


なんで裏口?と思いながら和希くんと飯田さんについていく。



「こっからのが俺らの部屋に近いから」


そっか、なるほど。



えらくキョロキョロしながら廊下を歩く和希くん。

「和希くん…?やっぱなんか変」

「は!?なんもないよ!!」

いきなりの大声。

「坊っちゃま。お声が大きいです」


ハッとしたように口を手で塞ぐ和希くん。


そうこうしてるうちに暁斗くんの部屋の前に着いた。


コンコンッ

ノックをする和希くん。


「はい」

え、この声はー…


ドアを開けると牧さんがいた。
なんで牧さんが?
っていうか暁斗くんは??


「伊織さん、こんばんは」

「牧さん、こんばんは。お久しぶりです」


部屋を見渡すと奥のベッドに暁斗くんが見えた。


「暁斗くん寝てるんですね」

「あ、はい」

なんだか牧さんの様子も変。


「牧さんありがとうございました。暁兄の様子は?」

「落ち着かれています。あれからもずっと眠ってらして」

「そうですか」


え??暁斗くんがなに??
落ち着かれてるってなに??


「伊織様、実は…」
「あ、俺から話します」

和希くんが飯田さんの言葉を止めた。


ドクンドクンッー…

なに、なんか嫌な予感がして心臓の鼓動が速くなる。



「伊織とふたりにしてもらっていいですか?」

「かしこまりました」

そう言って飯田さんと牧さんは部屋から出ていった。




少しの沈黙が続く。


「あの…和希くん」

「こっち座ろっか」

沈黙に耐えれなくて私から話しかけた。


ソファに座った。

なんかやだな…ドキドキが収まらない。
嫌なドキドキが。



「ねぇ伊織、“ウチのこと”ってどれぐらい聞いてる?」

「え?ウチのこと??」

「そう。暁兄からなんか聞いてるかな?」


暁斗くんから聞いてること…か。


「暁おと…あ、お父さんが勉強とかに厳しかったこととか、お母さんのこととか…かな」


「ふーん…そっか」

和希くんが暁斗くんの方をジッと見ている。



「前も言ったように暁兄は昔から頭が良くて期待されてたんだ。おまけに運動とかもなんでも出来て正直意味わかんなかった」


和希くん…?

「でも今ならわかる気がする。“出来た”んじゃなくて出来るために努力してたんだよな。俺ずっと暁兄に負担かけてた」


和希くんの言いたいことがまだきちんとはわからない。
だけど今の言葉が私自身にも重く響いた。

そう。
出会った時から暁斗くんはずっと努力してる。
私はそれに甘えてる。


「母さんが5年…もうすぐ6年だな、亡くなって家の雰囲気がすげー変わったんだ。母さんが俺たちを守ってくれてたんだよな。父さんから、そしてなによりあのジジイから」


「あ、あのお祖父さんのこと?」

「伊織、会ったことあんの!?」

「この前暁斗くんといる時に…」

「あー…そっか」

なるほどな。
なんとなくわかってきた。

暁兄が発作を起こした訳も。


「なにかあったの…?」


「俺ん家、呪われてんだよ」