大嫌いな王子様 ー後編ー

アパートの階段をおりると、暁斗くんがいた。


「なんで…」


「出てくんのおせー」

あれから一度家には帰ったのか、私服になっていた。


「こんな夜中にひとりで来たの!?危ないよ!?」

「大丈夫に決まってんだろ」

いや、決まってるとは思わないけど。



10月になったとはいえ、まだまだ暑い夜。


「会いに来てくれたの?」

「は?うるせぇ」


絶対照れてるな。

「私も会いたかったよ。連絡しようか悩んでたもん」


「悩むな」

んな!?
素直に気持ち伝えたらこれだもんな。


「悩む必要なんかねぇだろ。連絡したくなったらしろ」


もう、暁斗くんは…


「そうだね。ありがとう」


ちゃんと自分の気持ちを言わなきゃ。
誤解されたくない。


「あのね暁斗くん、今回のことは…」

「いお」


私の言葉を遮る。




「お誕生日おめでとう」



・・・・えっ??


今なんと…?


「おい、聞いてんのか?」


はい、聞いてはいます。
ただ思考が追いつかないんです。



「暁斗くん、今なんて…?」

「あ?何度も言わせんな」


あれ?私の誕生日だっけ?
すっかり忘れていた。


スマホを見る。


待受画面には

【10月2日 0:00】

と表示されていた。



私の誕生日になった瞬間だ。。



「暁斗くん、これを言うためにわざわざ来てくれたの?」

「うっせー。コンビニ行った帰りだよ」


絶対うそ。

今までコンビニ行ったことないじゃんか。



嬉しくて涙が出てくる。


「暁斗くん、ありがとう!嬉し過ぎるよ」


こんな幸せな誕生日があるんだ。



「明日…いや、もう今日か。学校終わりに迎えに行くから待ってろよ」

「どこか行くの?」


「お前の…その……」

ん??
なんか言いにくそうにしてるな。


「誕生日デートだ。言わなくてもわかるだろ」


わぁ。暁斗くんの口からデートの言葉!!



「やったー!楽しみにしてるね」


こんな夜中に外で会うのも、なんだか新鮮。



「あっ!暁斗くん、そろそろ帰らなきゃ遅くなりますよ」

もうすぐ0:30になる。



ぎゅっ!

「わっ」

いきなり抱きしめられた。


「…はぁー……連れて帰りてぇー」

暁斗くんの言葉にドキッとする。


私もぎゅっと抱きしめ返した。



「暁斗くん、私もすごく寂しくて…朝ご飯なんだったのかな?とか、今日は仕事あるのかな?とか…まだ引っ越して1日なのに気になることばっかりだったよ」


抱きしめてくれていた力が弱まり、私の顔を見る暁斗くん。
私は背の高い暁斗くんを見上げる。



「だけどね、これが実は普通の恋人同士…というか、カップルじゃないかなって思ったのね。わからないことがあるから相手のことを考える時間も増えるし…」


そう、物事は捉え様。


「私、前より暁斗くんのこと考える時間増えた気がするよ」


頭をわしゃわしゃとされた。


「暁斗くん、なにするの!?」


「テメェ、前は全然俺のこと興味なかったんだな」


えぇ!!??

「そういう意味じゃないよ!」


ただ、今の状況も少しでも楽しんで一緒にいれたらって…


「嘘…わかってるよ。もっと俺のことばっか考えろ。早く俺でいっぱいになれ」



あ、暁斗くんが笑った…

そう思った瞬間、チュッと優しいキスをしてくれた。



「17歳…初めてのキスだぁ…」

なんだか私は感激している。



「…ほんとお前って……意味わかんねぇ」





それからもずっとキスをして、お互い帰りたくなくなったのは言うまでもない。



「おわー!1時過ぎたよ!さすがに帰らなきゃ危ないよ」

「飯田が角で車止めてるから大丈夫」 


あ、そうだ。
この人、おぼっちゃまだった。
ちょっと忘れてた。



「飯田さん、待たせ過ぎで可哀想だよ」

「じゃああと1回、いおからキスしたら帰ってやるよ」


なんでここでその俺様モードになれるのか、やはり謎。


だけど、それに従ってしまう私はもっと謎。



背伸びをして、一瞬だけのキスをした。



「…早く放課後になれ……」

柄にもなくそんなことを言う暁斗くんに、鼓動は尋常じゃない速さになり私はやはり早死にしてしまうんじゃないかと悟った。

そんな17歳なりたての夜中。

幸せいっぱいな夜中1:40。



ん!!??
1:40!!??

「ちょっと!!ほんとに帰らなきゃヤバイ!!」

ぶつぶつ言う暁斗くんとバイバイして、家に入る。


暁斗くんの余韻が口にも体にも頭にも…全身に残っていて私は眠れそうにない。