大嫌いな王子様 ー後編ー


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「伊織様!」

エレベーターを待っていると飯田さんがやってきた。


「ご自宅までお送りします」
「大丈夫ですよ。ひとりで帰れます」 
「送らせてください。坊っちゃまにも叱られます」


エレベーターの中は特に会話はなく、飯田さんもあえてなのかなにも聞いてこない。

エレベーターを降りて車へ向かう途中、痺れを切らしたのは私の方で飯田さんに聞いてみた。



「飯田さん、暁斗くんのお父さんって実は…「いお…?」


え、、、


「暁斗くん…」


まさか、、ここで会うなんて…

暁おとの会社だから当たり前か…
っていや!
そんなことを考えてる場合じゃない!!



暁斗くんが走って私のそばにやってきた。

「なんでここにいんだよ」

「えっと…」

なんて言えばいいの?
暁おとに呼ばれたって言ったら心配かけちゃうよね。


「くそ親父だな?あの野郎…」


あ、ヤバイ。
すごく怒ってる!

私の腕を掴む力がグッと強くなる。


「暁斗くん、あのね!」
「坊っちゃま、落ち着いてください」

飯田さんが私と暁斗くんの間に入る。


「坊っちゃまがご心配されているようなことはございませんから」

「なら、なんでここにいおがいんだよ」


結局心配かけちゃってる。


「大丈夫だから!とにかく…大丈夫だから!」


ぎゅうっ!

暁斗くんに抱きしめられた。
いつもより強い力で息が少ししづらくなるほど。


「ちょっと…暁斗くん、みんな見てるから」


受付付近で人が周りにはたくさん。

ダメだ…全然なにも言わない。


「暁斗くん、ひとまず離して。ね?」


ぎゅう〜!

全然力が弱まらない。


「じゃあ別れる」

「はっ!?」

力が弱まった。



ドンッ!!

この隙に暁斗くんを思いっきり突き飛ばした。



ゴンッ
あ、暁斗くんが後頭部を柱にぶつけて鈍い音がした。



「テメェ…そろそろ俺死ぬぞ?」


よかった。

「いつもの暁斗くんになったね」


少し目を見開いた暁斗くん。



私は暁斗くんの手を握った。


「大丈夫だよ。私は絶対暁斗くんのそばを離れないから」


だから、そんな不安な顔をしないで。
笑ってほしい。


「……キモイ顔してんぞ」


…はぁ!?
勇気出して言ったのに!



グイッ
腕を引っ張られてバランスを崩して暁斗くんに倒れ込む。


ひそっ
「今すぐキスしたい。いい?」


意地悪な、でも見惚れるほどカッコいい笑顔で私を見る。
かぁぁぁっ!!
自分の顔が一気に赤くなるのがわかった。



ボカッ!
暁斗くんの頭を叩いた。

「バカ!やっぱり嫌い!むっちゃ嫌い!」



「はい、おふたり共そこまでです。目立ち過ぎていますよ」



ハッ!!!
我にかえる私。

「ご、ごめんなさい…」

恥ずかしい。。


「坊っちゃま、伊織様は私が責任を持ってお送りしますのでご安心くださいませ」

「わかった。頼んだぞ」


暁斗くんはそう言って、スーツを着た他の人たちと仕事に向かった。




車の中。

「飯田さん…なんか色々とすみません」

「伊織様はなにも謝ることなんてないですよ」

「お恥ずかしいところもたくさん見せてしまって…」

「いいえ。暁斗坊っちゃまが笑ったところを久しぶりに拝見出来て嬉しかったです」


暁斗くん…やっぱり最近様子おかしいよね。


「ただ…本当は坊っちゃまは本日こちらにはお越しにならない予定だったのですが…なにか急なお仕事が入ったのかもしれません」

「そうだったんですね」

まさかあそこで会うとは思ってなかったからビックリしたもん。


「最近バイトに迎えに来てくれる日も多くて…無理させてないか心配なんです」

「坊っちゃまは…ああ見えて不安がりで心配性です。特に奥様が亡くなられてからは…」

「え?」

「いえ、出過ぎたことを言いました。」


暁斗くんのお母さん…咲さんのことだな。。




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廊下で父さんとすれ違う。


「父さん」

「ここは会社だぞ」

チッ…うぜぇ。


「会長。先程まで来客でしたか?」

「あぁ。それがどうした」

「…勝手なことは許さないんで」


俺はそれ以上は言わずにその場をあとにしようとした。


「暁斗」

まさかの呼び止められた。


「貴様に覚悟があるのか?“皆実家”から守る覚悟が」


え…

「父さん…どういう……」

「即答出来ないような中途半端な覚悟なら、あの子のためにも諦めろ」

「あ!?なんでー…!」


父さんは俺の返事を聞かず去っていった。



なんなんだよ。
皆実家から守る?
テメェからだろーが。

守ってやる、なにもかもから。