「お疲れ様でした。お先に失礼します」
コンビニでのバイトにも慣れてきた11月中旬。
「よ。お疲れ」
バイト終わりに暁斗くんがちょこちょこ迎えに来てくれるようになった。
「暁斗くんもお疲れ様。こっちまでいつもごめんね」
「来たいから来てるだけ。行くぞ」
そう言って手を出す暁斗くん。
繋いだ手から温もりが伝わってホッとする。
「さっき、なんか客に言われてなかったか?」
「え?あぁ、道聞かれただけだよ」
「ふーん」
学祭以来、暁斗くんの様子が少しおかしい気がする。
一緒にいれる時間が増えて嬉しいけど…なんか無理させてないか心配になる。
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「暁兄おかえり〜」
「あぁ」
「今日も伊織のお迎え行ってたんだ」
「だから?」
わかってるくせに、いちいち言ってくる。
「暁兄ってわかりやすいね。俺に取られるって思って伊織にべったりとか?」
「挑発しても無駄だからな」
俺は部屋に向かった。
「この前のことも謝る気ないからね?」
部屋に向かいたいのに足が止まってしまう。
「は?なんのことだよ」
「文化祭で伊織にキスしたこと」
ハッキリ言いやがって。
「どうでもいい」
「かっこつけちゃって」
もうそれ以上はなにも返さず部屋に入った。
机にあった本を壁に投げつける。
物に当たっても仕方ないのに。
弟にまで湧く苛立ち。
いおへの独占欲。
そんな自分がちっぽけで情けなくなる。
人を好きになるってこんな気持ちになるんだな。
初めて知った。
幸せな気持ちもある。
いおに出会えたこと。
付き合えてること。
それと同時に感じる【不安】。
いつか離れてしまうんじゃないか
そんな時は急にくるものだから
(回想)
「母さん!!目を覚ましてよ!!!母さん!!」
目の前に横たわる少し白く青ざめた母さん。
冷たい身体。
目を開けない。
動かない。
(回想終了)
大切な人を守るためにはそばにいなくちゃいけない。
離れちゃいけないんだ。
そして
コンコンコンッ
「坊っちゃま、ただいまよろしいでしょうか?」
「あぁ」
ガチャッ
「失礼いたします」
「どうした?」
「旦那様が来週帰国されます」
「…わかった」
くそ親父をなんとかしないといけない。
あの冷酷な人間を。



