大嫌いな王子様 ー後編ー

「あのね暁斗くん、落ち着いて聞いてね」

「あ?さっきから聞いてんだろ」

・・・だから、落ち着いて聞いてって言ってるんだけど…



「今日からもう暁斗くんの家には帰れないから」

「……は?」

「新しいアパートに引っ越したの」

「…なんで言わなかったわけ?」


まぁ、そうなるよね。


「…暁斗くんに話すと引っ越しは無理だろうなと思ったから……」


あ、なんか暁斗くんのせいみたいな言い方になってしまったかも。

「あ、あのね!暁斗くんのせいとかじゃないからね!前から気になってたしー…「あ、そう。わかった」


ツーッツーッ……



は???

き ら れ た ?


な ん で ?


いや、わかるよ。
これだけお世話なってるのになんの相談もなく勝手に引っ越してて、事後報告なんてムカつくのはわかるんけど


けど・・・・


「なんなん、あの言い方!ムカつくー!!!」


最悪の展開になってしまった。

さっきまで感じてた寂しさはどこへやら。
暁斗くんへの怒りが込み上げて仕方がない。



———————————


「んで?絶賛ケンカ中と?」

「これってケンカなのかな?もう、どうしたらいいかわかんないよ」


次の日、みっちゃんに学校で相談中。


「御曹司くんのお父さんには引っ越したこと言ったの?」

「うん。そしたら、新しい職場を見つけたら連絡しなさいって言われた」

「相変わらず上からだなー」


仕方ない。
暁おととの条件は新しい働き口も入ってたし。


「駅前のコンビニ募集してたから、明後日面接行くんだ」

「あんた、無理はダメだよ。御曹司くんにも、伊織から連絡してみたら?」

「うん…そうだね。ありがとう、みっちゃん」



学校帰り。

意を決して、暁斗くんに電話をかけてみた。



しばらく鳴らしたけど出ない。



しばらく待ったけど折り返しもない。



メッセージを送ってみる。


返信もない。



なんやねん!!

今日は学校終わりに仕事なのかな?
オフかな?


朝ご飯はなに食べたんだろう?


暁斗くんへの疑問がたくさん出てくる自分にビックリしてしまう。

今までこの疑問が当たり前に見れてたんだ。




「あ、違う!」

ここを曲がると暁斗くんの家方面だ。

人間の癖ってすごいな。


ちゃんと新しい家に帰らなきゃ。



暁斗くん

私は暁斗くんとこの先もずっと一緒にいたくてこうしたのに、そのせいでこんな風になっちゃうの?


私、こんなにも暁斗くんが好きだったんだ。
ずっと考えてしまってる。



アパートの階段をのぼる。





「ただいまー」


「おー、おかえり」


・・・

・・・・


「…へ?」


「伊織、おかえりなさい♪」

私は目の前の光景を理解するのに、少し時間がかかっている。


「お姉ちゃーん!おかえり!あきお兄ちゃんが遊びに来てくれたよ!」


そう。
晴の言う通り、家のドアを開けたら暁斗くんがいた。


「えっと…なんでいるのかな?」

なんでここがわかったの?
そもそも、なんでいるの?
ていうか、連絡してよ


でもなにより…会えたことが嬉しくて…


色んな感情がぐるぐる自分の中を回っている。



「電話じゃラチあかねーから会いに来た」

そのひと言だけで胸がきゅんとなる。


「私電話もメッセージもしたよ」

「マジ?悪い、スマホ見てなかった」


でもきっと昨日私はこの気持ちよりもっと不安にさせちゃったのかなって思う。



「あきお兄ちゃん、お外で鬼ごっこしたい!」

「お、いいぜ。公園行くか」

「暁斗くん、疲れてるだろうしいいよ!」


暁斗くんは私の手を握った。


「いおも行くぞ」


「…うん!」


この手を絶対離したくない。