「うわー!すげー緊張したー!!」
そう言いながら和希くんが私に抱きついた。
おわー!!
だから距離感!!
「緊張!?そんな風に見えなかったよ」
「伊織の前だからかっこつけちゃった」
「…私の代わりにたくさん喋ってくれたんだよね?ごめんね」
「えー、俺が喋りたかっただけだし」
「ううん。和希くん、優しいから。ありがとう!」
・・・・・
少し沈黙が続く。
「和希くん?どうしたの?」
ぎゅう!!
え!またハグ!!
「だから離してって…!」
「さっき言ったの全部ほんとだよ?」
え?
急に真剣な顔でこっちを見る。
舞台袖の誰もいない空間。
外は次の人たちの出演で賑わっているのに、この空間だけ音がなくなったように静かで和希くんの声だけが響く。
「俺、伊織が好き。この顔も髪も全部好き」
さすがに私でもわかる。
これが冗談じゃないってことぐらいは。
…だからこそ、ちゃんと言わなきゃいけない。
「…あり…がとう。すごく嬉しいけど…」
「けど?」
「私は暁斗くんが大好きだから」
そう言って和希くんから離れようとしたけど、私の腕を掴む力が強くて敵わない。
「…知ってる。そういう純粋な伊織が俺も大好きなの」
まっすぐな目。
どうしたら……
「いお!」
大好きな人の声が聞こえた。
舞台袖の入り口を見ると暁斗くんがいた。
「暁斗くん…」
「和希、いおから離れろ」
暁斗くんがこっちに近づいてくる。
「ねぇ暁兄。俺“本気”って言ったよね?暁兄が余裕ぶってるなら遠慮なく攻めさせてもらうね♡」
「テメェふざけんな」
「え〜全然ふざけてないんだけど。むしろマジだよ。ね、伊織」
チュッ
和希くんが私のほっぺにキスをした。
「!!!!????」
「和希!テメェ…!」
暁斗くんが和希くんの胸ぐらを掴んだ。
「殴る?別に殴ってもいいよ。暴力でしか抵抗出来ないんだね、暁兄」
「和希くん!!」
どうしてそんな言い方するの!?
和希くんらしくないよ!
「俺“本気”なんだよ。もう我慢なんてしない」
その言葉を聞いて胸ぐらを掴む暁斗くんの力が弱まった。
「いおは絶対渡さない」
「そんなのわかんないよ」
ぷしゅ〜…
私は今目の前で起きてることが非現実的過ぎて頭がパニックになりその場に倒れた。
バタンッ!!!
「いお!!??」
「伊織!?」
ーーーーーーーーーー
あれ…?
なんか天井が見える…
えっと私なにしてたんだっけ…
てかここどこ…
「目覚めた?」
ガバッ!!
声を聞いて急いで起き上がる。
「大丈夫?あんたぶっ倒れたって聞いてびっくりしたよ」
「みっちゃん!…あれ?私倒れたの?」
「そうだよ。舞台袖でいきなり倒れたってあの兄弟が騒いでさ。御曹司くんが保健室まで運んでくれたよ」
兄弟って…
・・・少しずつよみがえるさっきの出来事。
「体調しんどかったとか?大丈夫なの?」
「うん、体調は全然大丈夫なの。心配かけてごめんね」
頭がオーバーヒートしただけ。
「えっと…暁斗くんたちは…?」
「あの兄弟うるさいからとりあえず放ってきた」
さすがみっちゃん。
「みっちゃん、なんか色々起こって迷惑かけまくりでごめんね。コンテストの時とか離れちゃったし」
「なに言ってんの。私も楽しかったし。ちなみにあんたたち、準優勝だったよ」
「え!うそ!?」
「弟くんのファン?らしき子たちがかなり票入れてたみたい」
やはり恐るべし皆実家。
「言うか迷ったけどやっぱり言うね」
なんだろう??
「コンテストの時、御曹司くん見てたよ。佐伯?って子と一緒に走ってきてた」
ドキッ
「そうなんだ…」
「別に伊織はなんも悪いことしてないし謝る必要とか全然ないけど、事情は話しておいた方がいいかもね。御曹司くんヤキモチ妬きだし」
「うん。教えてくれてありがとう」
暁斗くんに連絡しなきゃ。
「体調大丈夫ならいこっか?」
「うん!」
時間は17時を回っていた。
もうすぐ後夜祭が始まる。



