大嫌いな王子様 ー後編ー

だけど


「だけど…ふたりで決めたでしょ?乗り越えるって!笑顔でバイバイしなきゃ!!行ってらっしゃいって…ちゃんと私に言わせてよ…!!」

気を緩めたら涙が出そうで、それを必死に堪える。


「いお…ごめん」


暁斗くんはゆっくりと私に近づく。
そして抱きしめられた。


「こんな時までワガママでごめん」

「ほんとだよ…!!ワガママキモ野郎なんだから!!」


「それ…出会った頃よく俺のことキモ野郎って呼んでたな」

「い、今もだもん!!」

「ふはっ!そっか」


そう。出会った時、あなたが大嫌いだった。



「健康で…元気に過ごすんだよ」

「いおもな」

「か、風邪引いたらちゃんとご飯食べなきゃ元気出ないからね」

「うん」

「日本より物騒みたいだから、戸締まりしっかりして暗くなる前に帰らなきゃダメだよ」

「それはいおもな」

「それから…」

あれ?
もっとたくさん言いたいことがあったのに


涙が邪魔して話せない。



「なぁ、いお」

私はゆっくりと暁斗くんを見上げる。



「浮気したら許さねぇからな?」


大嫌いだったあなたは、一瞬で俺様になる。


「どの口が言ってんだか。勝手に出発しようとしてたくせに」

「…だな。悪かったよ。ほんとにごめん」



私は背伸びをして、チュッとキスをした。


「許す!!!」

そして、笑顔で叫んだ。



「ふ…偉そうじゃん」

ほら、意地悪な笑顔をする。


「いおは俺のものって忘れんなよ?」


はい、さっきまでの弱弱暁斗くんはどこへやら。
完全に俺様復活です。


「愛してる…いお」


そう、そしてこんな俺様キモ野郎な暁斗くんが


「私も」


私にとって王子様で、大好きなんです。



ゆっくりと暁斗くんの顔が近づいてきて、キスをした。





「おーーーい」


ハッ!!!!


「俺たちいるの覚えてる?あと、ここがどこかわかってる?」


どわーーーっ!!!


和希くんの言葉で一気に現実に戻って、暁斗くんを思いっきり押した。


ガンッ!!

あ、、、
お決まりの後頭部をぶつけるくだり。


「テメェ…こんな時まで……」


この状況にみんな笑ってた。




「暁斗坊っちゃま、そろそろお時間です」


とうとう行っちゃう。


「暁斗くん!これ!」

私は鞄から色紙を出した。


「みんなから。待ってるのは私たちだけじゃないよ?みんなも待ってるよ」

色紙は旅行メンバーみんなで書いた。


「…バーカ。。さんきゅ」

暁斗くんの声が少し震えているように聞こえた。



「あとこれ…」

私はお守りを渡した。


「暁斗くんが笑顔で帰ってこれますように」

そして、私は精一杯の笑顔をした。


「大事にする」


もう時間だね。


「暁兄行ってらっしゃい。お土産楽しみにしてるから」

「おまえは勉強しっかりしろよ」

「うるさーい」

「飯田、あと頼んだぞ」

「かしこまりました」


飯田さんは暁斗くんからのお願いで日本に残ることになった。

きっと私たちを心配して。



「いお、次は3年後な。迎えに行くから」

「うん!待ってるね!!」



「行ってきます!!」

笑顔でゲートに向かっていく暁斗くん。



行ってらっしゃい。





————————————



「阿部さんって彼氏いるの?」

「はい。います」

「えーでも会ったことないし。今度会わせてよ」

「今アメリカにいるんで」


大学に入学してもうすぐ3ヶ月。
日本はすっかり夏になった。


「じゃ、遠距離じゃん。そんな男やめて俺と遊ばない?」

サークルで一緒の先輩。


「いえ、結構です」

「そんなこと言わずにさ〜」


「この子の彼氏、超イケメンで超ヤキモチ妬きっすよ?あと、超金持ち」

「蜂谷くん!」

しつこい先輩を離してくれた男の子。
受験の時にシャーペンを拾ってくれた男の子。

お互い無事受かってて、友達になった。


「へ、へぇ〜…じゃいいわ。。」


しつこい先輩は去っていった。


「蜂谷くん、ありがとう」

「気をつけなね、あの先輩女癖悪いから」


指輪しててもあんなこと言う人いるんだなぁ。


「で?遠距離慣れた?」

「まーだまだ。毎日寂しいよ」

「彼氏のお父さんとか協力してくれんだろ?黙って連絡取ればいいのに」

「…ううん。それはしたくないの。堂々と暁おじに勝ちたいから」

「阿部ちゃん、変わってんねー」

「あ、やっぱり?」


ね?暁斗くんも同じ気持ちだよね?


ーーーーーーーーーーー

「Akito, Who is this girl??」(この女の子は誰?)

俺のスマホの待受の写真を指差す友人。


「My...most precious lover.」(私の1番大切な恋人です)

「Wow!!!What's your lover's name??」(恋人の名前は?)


「Iori...」


いお、元気にしてるか?




・・・・・



大好きな王子様。



同じ空の下、あなたが笑って過ごしていますように。


そして

あなたに会える日を楽しみに、毎日を大切に過ごしていきます。



「あ!バイトの時間だ!!」

「阿部ちゃん、相変わらず勤労少女だねぇ〜」

「また明日ね!」



暁斗くん、私は今日も元気です。





Fin...♡